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純喫茶ローレンス、きみを想う

金沢のその喫茶店には魔女が棲んでいる。

まるで古い童話の世界に迷い込んだかのような場所。
ここに来てドライフラワーにうずもれ、レコードと店主のお喋りに耳を傾けるとき、普段の悩みはどこかへふわふわと消えて、時間は悠久のものとなる。

私が世界で一番好きな場所、純喫茶ローレンス。

美しいものを言葉で説明するなど無粋なことではあるが、
いつ閉店してしまうかわからないこの場所が、そこに在ったあかしのひとつとして
私はこれを記録しておきたいと思う。

ローレンスの魅力。

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外見からは営業しているのかいないのかよくわからない場所だ。(していない日もある)
古びた階段をのぼっていき、扉を押し開けるとカランカランとベルが鳴る。
店内はいたるところにドライフラワーが飾られ、花と花のあいだから魔女のような店主がひょっこりと顔を出す。

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メニューも変だ。
たとえば、どこぞの大使館経由で特別に仕入れているのだという高級豆のコーヒー。店主がコーヒーを飲まない人なせいで「味が良いかはわからないけれど」という言葉を添えて出てくる。
ハーブミルクティーを頼むと、その日の気分と独自の感性でブレンドされた不思議なお茶が煮込まれるし
ココアをお願いすると、甘さと苦味のバランスが「お子さま」「思春期」「大人」の3種類あるのだと言われる。

BGMにはクラシックのレコード、暖房がほとんどないので冬は「極寒のシベリア喫茶」となる(店主談)。

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そんな超個性派の店だが、店主は非常に気さくな人で、一見さんから顔なじみまでおおらかに受け入れ話しかけてくれる。常連客も多く、もう何十年も通っている人も珍しくない。
ローレンスは、現店主のお父上が始めた店で、娘のちかこさんは美大を出てこの場所を受け継いだ。

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小説家の五木寛之氏が常連客だったことでも知られている。直木賞受賞の知らせもこの店で受けたとか。

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50年以上この地にあるローレンス。店主の体調が万全ではないこともあって、いつまで営業しているかはわからない。日によっては2時間くらいしか開けていないらしい。

家族経営でやってきたから誰かに譲る気もないの、と店主は言う。
死へと向かうもの、いつか終わりのあるもの。「終わった」あとのドライフラワーに囲まれた、あの不思議な空間で流れる時間は、私の心にずっとささったまま、これからも残り続けるのだと思う。
心のなかにある場所。

#明日のライターゼミ #一番すきなもの

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