ウィンストン・チャーチルと「第二次世界大戦」について


1.はじめに

今回のnoteはイギリスの政治家で、1940年にイギリスの首相となったウィンストン・チャーチルの書籍に関してです(ややこしいですが「第二次世界大戦」とは、ウィンスト・チャーチルの著作の名前でもあります)。書籍を読み、当時の情勢を比較することで、チャーチルの持っていた大局観については参考になると思います。彼の持っていた大局観は素晴らしいものであり、政治家だけではなく、経営者など、決断に大きな責任が伴ったり、リーダーシップが必要な役職の方は読んで損はないと思います。
なお、小説として読む分には面白いですが、実際の歴史を取り扱っているため、第二次世界全体の大まかな趨勢はもちろんですが、第一次世界大戦~第二次世界大戦の、いわゆる「戦間期」の知識もあった方が良いと思います。

2.本noteで主に取り上げる書籍

以下の書籍より引用しています。なお、著者の思想を肯定するものではありません。

第二次世界大戦 1 (河出文庫) Kindle版

第二次世界大戦 合本版 (河出文庫) Kindle版

※四冊出ている「第二次世界大戦」の合本版です。

危機の指導者 チャーチル(新潮選書) Kindle版

1953年のノーベル文学賞を受賞する程度には文才があり、チャーチルの書籍は面白いですが、本人の書籍だけでは、本人に批判的な視点が欠けているので、クロスチェックという意味合いで、冨田浩司氏の「危機の指導者 チャーチル」を購入し読みました。冨田浩司氏の書籍のタイトルは、チャーチルの指導者としての資質を良く表していると思います。

3.「第二次世界大戦」について

私は恐らく、有史以来最大の変動の二つとも、重要な閣僚の地位にあって経験した唯一の人間であろう。しかし、第一次世界大戦当時、重要な責任を担っていたとはいえ、私はいわば並び大名の一閣僚にすぎなかったが、ドイツとの第二次大戦中は五年有余にわたって、イギリス政府の首相の地位にあった。したがって、私は以前の著述とちがった立場から、一層の権威をもって記述することができるのである。

第二次世界大戦 1 「本書に寄せて」より

「第二次世界大戦」冒頭でチャーチル自身が書いている通り、"有史以来最大の変動の二つとも、重要な閣僚の地位にあって経験した唯一の人間であろう。"という点でチャーチルの書籍は他に代えがたい書籍であるといえます。
そして、「危機の指導者 チャーチル」によると、そのこと自体が希有であり、彼独自の生き方に通じていると考えられます。

すなわち、軍人としてであれ、政治家としてであれ、世間の耳目を集める業績を挙げては、活字にし、金を稼ぐ。チャーチルは、九十年の生涯において、職業軍人であった数年間を除き、政治家以外の定職にはついたことがない。彼自身と家族の贅沢な趣味や欲求を満たすための金は、筆一本で稼ぎ出したと言って過言ではない。
著述家としてのチャーチルの名声を確立した、全五巻の第一次大戦回想録や全六巻の第二次大戦回想録は、青年時代に開発したビジネス・モデルの産物であり、その意味でもこの時代がその後の人生の方向を定める上で重要な意味を持つことが分かる。

危機の指導者 チャーチル 第一章 「栄光と敗北」より

4.チャーチルの資質について

一方で、チャーチルの青年期の生きかたには、彼を偉大な政治家としたいくつかの資質が現れている。 その第一は、勇気である。
物理的な危険に怯まぬ勇気、権威や社会的規範に挑戦する勇気、孤立を恐れず信念を貫く勇気、あらゆる面から見て、彼の勇気は一級品である。

第二の資質は、政治課題に関する鋭敏な嗅覚であり、これは先見性と言い換えても良いかもしれない。

第三の資質は、目標に向かって進むエネルギーの激しさである。 勿論、チャーチルのエネルギーは、青年期だけで枯渇することなく、壮年期、老年期と持続していく。

勇気、政治的嗅覚、エネルギーといった資質が、どれくらい天賦のもので、どれくらい青年期に涵養されたものかは判断が難しい。重要なことは、青年期において、こうした資質がすべて政治家になるという目的のために方向付けられた点である。

さらに留意すべきは、チャーチルが政治家修業のために払った意識的な努力で、この面で特筆されるのが、膨大な読書を通じた自己教育である。

危機の指導者 チャーチル 第一章 「勇気 先進性 エネルギー」より

一口に戦争指導と言っても、国民を勝利に向けて引っ張っていくリーダーシップ(war leadership)と、総力戦という複雑な事業の成功を目指した国家組織の指揮・運営(war direction)の二つの側面があろう。 第二次大戦の指導者の中で、チャーチル以外にこの二つの側面に同等の精力を傾注した指導者は見当たらない。

危機の指導者 チャーチル 第七章「即日実行」(Action This Day)――戦争指導者チャーチル 「全局を総覧する」より

資質という観点で「危機の指導者 チャーチル」を読む限り、チャーチルは戦略眼は極めて高かったといえると思いますが、個別の戦闘になると、その資質に疑問符が浮かびます。特に有名だと思われるのが第一次世界大戦における「ガリポリの戦い」での失策です。

特に懸念されたのは、トルコが地中海から黒海に至る海上輸送路を遮断した場合の、ロシアの継戦能力への影響である。もともとロシアの輸出の半分、そして穀物輸出の九割はこの経路を経て積み出されていた。北海経由の輸送路は、ただでさえ冬季には大きく制約されるのに加え、今やドイツの潜水艦攻撃の危険に晒されている。

第四章 ダーダネルスの亡霊――軍事戦略家としてのチャーチル 「作戦の背景」より
ダーダネルス海峡の地政学的な重要性について

彼によれば、戦争における用兵の是非を決めるのは、教科書に書いてあることではなく、その時々の戦場の状況であり、「軍事的天才とは、いかなる瞬間においても、(戦場において)常に変化している諸々の要素の総体を正しく理解すること」にほかならない。そして、戦場における決断は、「一個の人間の目と頭脳と魂から生まれる」のである。
戦闘の雌雄が天才的指揮官の直感的判断によって決するという考え方は、十八世紀の将軍の評伝としては傾聴に値するとしても、近代戦争における軍事指導者の行動規範としては甚だ危険と言わざるを得ない。特に、チャーチルの場合、こうした指導者観の上に軽騎兵としての経験で培われた攻撃精神が相まって、一旦心を決めると後戻りすることが難しくなりがちである。

第四章 ダーダネルスの亡霊――軍事戦略家としてのチャーチル 「暗転」より

ダーダネルス作戦は、正しい戦略に基づきながら、作戦面での計算違い――それがキッチナーとその部下の責任であるかどうかは別にして――から失敗したという見方は、アトリー以外にもかなり幅広く共有されている。

一方高度の戦争指導の次元において、チャーチルは疑いなく正しかった。 西部戦線での消耗を続ければ、早期の勝利を望めないばかりか、戦争を継続する国民の意思そのものが挫けてしまうおそれがある。そうした危機意識は、ただひたすらに敵を上回る効率での殺戮に腐心する軍事指導者にとっては、二義的なものでしかない。それは、すぐれて政治の問題なのである。

第四章 ダーダネルスの亡霊――軍事戦略家としてのチャーチル 「政治と戦略のはざまで」より

興味深いことに、「作戦レベルでは失策だったが、大きな規模で見るとこの考え方は正しかった」という論旨の取り上げ方をした書籍があります。過去に何度か取り上げた、チェスの元世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフ氏の「決定力を鍛える」です。

ウィンストン・チャーチルの本は私の愛読書だ。彼の人格のあらゆる点に粘り強さ――頑固さとも呼ばれる――がみなぎっていた。チャーチルが提唱した第一次世界大戦のダーダネルス海峡突破作戦――フィッシャー提督辞任の原因――は、軍事上の敗北としては英国至上最悪の部類に含まれる。だが二十五年後の彼は、基本構想が正しかったと見抜く眼識と、このプランを再度実行する勇気をもっていた。
一九一五年、海軍大臣のチャーチルは内閣と連合国(仏露)にオスマン帝国の中心地ガリポリを攻めるよう説得した。ロシアへの補給路をつくり、ドイツ軍に新たな戦線を開かせるためである。
(中略)
英国軍は結局、二十万人と戦艦三隻を失って退却した。この惨敗の結果、チャーチルは海軍相の辞任を余儀なくされたが、第二次世界大戦勃発直後に呼び戻される。一九四一年、ナチスドイツがソ連に侵攻すると、チャーチルは連合国が一九一五年と同様の問題に直面していることに気づいた。ソ連の物資は第一次大戦勃発時のロシア同様に不足していたのだ。ソ連と英国が共同で行った最初の軍事行動のひとつは、一九四一年七月、イランを占領して地上の補給路とソ連との通信手段を確保することだった(北海経由のラインは危険であり、長期戦では不十分となる)。
十月、連合国はソ連への補給を、まさにチャーチルが一九一五年に思い描いたようなかたちで開始した。食糧、弾薬、その他の必需品が毎月三〇万トン補給され、一九四三年にはこれがソ連の軍備に欠かせないものとなる。ガリポリ作戦は失敗したが、その根拠となった考え方が間違っていたわけではないとチャーチルは知っていた。結果のよしあしにかかわらず、原因の分析は厳密でなければならない。

決定力を鍛える―チェス世界王者に学ぶ生き方の秘訣 「答えより肝心なのは、問い」より

チャーチルの資質自身は非常に希有で、だれもが真似できることではないと思いますが(1940年5月にチャーチルが首相に就任した際に、彼は既に65歳であったことを考えると、驚異的なことだと思います)、彼を通じ、歴史から学ぶことは可能だと思います。

5.参考書籍

5-1.本noteで引用した書籍

第二次世界大戦 1 (河出文庫) Kindle版

第二次世界大戦 合本版 (河出文庫) Kindle版

危機の指導者 チャーチル(新潮選書) Kindle版

※上記の「第二次世界大戦」と「危機の指導者 チャーチル」はセットで読むと良いと思います。

決定力を鍛える―チェス世界王者に学ぶ生き方の秘訣 Kindle版

※著者はチェスの棋士として1996年・1997年にチェス専用スーパーコンピュータ「ディープ・ブルー」と対局したガルリ・カスパロフ氏。2005年に政治家に転身し、ロシアの民主化運動に尽力されています。

参考:ウクライナと共に悪との戦いに立ち上がれ

5-2.その他の書籍

チャーチルは語る Kindle版

※著者はウィンストン・チャーチルの公式な伝記作家であるマーティン・ギルバート氏です。本noteでチャーチルに興味を持った方にお勧めです。やや高いですが、チャーチルの力強い言葉に触れることができます。

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