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【読書⑥】~『セイバーメトリクス入門 脱常識で野球を科学する』を読んで・その1~

今回の投稿では、昨年の夏から秋にかけて読んだ書籍を紹介しようと思います。

今回のテーマは、「セイバーメトリクス」です。

セイバーメトリクスとは

皆さんは、「セイバーメトリクス」という言葉を聞いたことはありますか?

セイバーメトリクス(SABRmetrics)とは日本語にいいかえると「野球統計学」です。つまり打率や防御率といった選手の成績や試合の得点などの野球のデータを統計学的に分析し、チームの戦略や采配に用いる考え方です。

ちなみにSABRmetricsはアメリカ野球学会SABR(Society for American Baseball Research)と測定法や評価という意味のmetricsを組み合わせた造語です。

引用:https://rikotaibig6.com/sabr1/

「セイバーメトリクス」とは、簡単に言うと「学会(セイバー)」と「統計学(メトリクス)」を合わせた造語であり、野球においてデータを統計学的に客観的な分析を行って選手の評価や戦略に活用するというものになります。

前回の投稿の【読書⑤】~『最新科学が教える! キャッチャーの技術』を読んで~でも紹介しましたが、その書籍の中でも多くの統計学的な分析データが紹介されており、これらもセイバーメトリクスに該当することになります。

野球をしている方々や、プロ野球などを観戦される方々にとっては、「打率」や「防御率」といった選手成績で馴染みがあるかと思います。

ですが、例えば「防御率」をとると、「防御率」は自チームの野手の守備力にも大きく影響されるため、純粋にその投手にとっての本当の「防御率」を示しているものではありません。

その投手本来の持っている力だけではなく、守備力によって生じる結果も含まれてしまうということです。

今回の投稿で紹介する『セイバーメトリクス入門 脱常識で野球を科学する』では、こういった問題点や矛盾点を解消する新たな計算式が紹介されていたり、盗塁・バント・敬遠といった戦術に関する分析などが紹介されたりしていて、読んでいて非常に興味関心のわく内容でした。

さて今回は、本書を読み、私個人として非常に面白く感じた点をまとめ、数回にわたって紹介していこうと思います。

戦術分析

今回の投稿では、本書の「第二章 野球の一般原理」から、「送りバント」・「盗塁」・「敬遠」の3つの戦術について紹介しようと思います。

「得点期待値」と「得点確率」

3つの戦術について記す前に、ケースごとの「得点期待値」と「得点確率」について確認します。

本書でも、「得点期待値表」と「得点確率表」が紹介されています。

まず、「得点期待値」とは、特定のアウト・走者状況からそのイニングが終了するまでに平均してどれだけの得点が見込まれるかというものです。

▲ 2013~2015年のNPBの得点期待値表
引用:https://1point02.jp/op/gnav/glossary/gls_explanation.aspx?eid=20013

本書では、別のデータが使用されています。

次に、「得点確率」です。

「得点確率」は、特定のアウト・走者状況からそのイニングが終了するまでに1点以上得点した確率のことです。

引用:https://twitter.com/carp_buun/status/1138091130313068545

得点確率に関しても、本書では別のデータが紹介されています。

この「得点期待値」と「得点確率」から、「複数得点を狙っていくのか」「確実に1点を取りに行くのか」というように状況に応じて戦術が変わっていきます。

この「得点期待値」と「得点確率」を活用して、戦術の分析を行っていくことになります。

戦術①:送りバント

まずは「送りバント」です。

送りバントに関しては、本書では「一般的に得点の増加に有効な戦術ではない」と書かれています。

得点期待値表を見ていただければわかりますが、得点期待値は減少します。

一方の得点確率はというと、0死2塁からの送りバントでも得点確率は微増であり、0死1塁からの送りバントに至っては得点確率も下げることになります。

そして、本書では「打率が.103より高い打者はバントより強攻策したほうがいい」と述べられています。

この分析からすると、送りバントは有効な戦術か、というと疑問符がつきます。

ですが、バントは無意味と安易に考えるのもいかがなものか、とも感じます。

個人的にひっかかることは、これらの「得点期待値」や「得点確率」はプロ野球のデータを活用している点です。

国内最高峰の選手たちが揃っているプロ野球でデータを取れば、(アマチュア選手に比べたら)打力のある選手たちがたくさんそろっているわけですので、バントするよりも強攻策のほうが良い結果になる可能性が高いのも想像がつきます。

高校野球においては、実際はどうなのでしょうか?

全国の高校野球全試合の実際のデータをとって分析できるわけではないので、正直わかりませんが、数十年後にはそういったことも分析されている時代が来るのかもしれません。

また、本書のなかでは、著者が「強打者が序盤にバントを企図した場合、結果的にただ1死二塁になるだけではなくバントがヒットになるなど攻撃側に有利な状況が生まれやすい傾向にあった」ことが興味深い点だと述べていました。

高校野球の指導にあたる私の現時点の考えとしては、統計からして「バント=悪」と安直に考えるのではなく、“どういう場面・状況で、どんな選手が、どの方向に、どんなバントをするのか”ということに着目することが大切なのではないか、と考えます。

戦術②:盗塁

次に、「盗塁」についてです。

本書の中では、盗塁は「全てのケースで成功した場合の利得よりも失敗した場合の損失の方が大きく」、「得点を増やすのに全く貢献していない」、そして「失敗することはヒットひとつ台無しにするくらいのインパクトがある」と述べられています。

「得点を増やすのに全く貢献していない」というのはどのくらいかというと、「盗塁が多い選手が一塁に出る機会が年間に100回あったとしてもチームの得点が1点増えるかどうかというレベルの小さな影響」だそうです。

前任校で走塁(盗塁)の指導に力を注いできた私としては、何ともいえない気持ちになりましたが、言われてみれば当たり前の話です。

盗塁は“ギャンブル”性の高い作戦ですから、送りバントや強攻策の方が得点を増やすのに貢献するのは当然です。

本書でも「常に50%超の成功率でなければ盗塁は試みてはいけない」「(走者1塁時においての)損益分岐点成功率は66~70%」と記されています。

また、「盗塁」においてもそうですが、この分析はプロ野球のデータをもとに検証されています。

選手の打力や捕手の2塁送球の正確性が、高校野球と違います。

それ以外にも、高校野球がプロ野球と大きく違うのは、リーグ制ではなく、トーナメント方式であるということです。

百何十試合と行うリーグ制であれば、ギャンブルせずとも個々の「打力」に任せていくほうが安全かと思いますが、高校野球は一発勝負のトーナメントですので、ここぞという場面で腹をくくって勝負をしかけなければいけない場面が出てきます。

そうすると、高校野球において大事なことは“いかにして盗塁の成功率を上げるか”、そして“盗塁の成功率を上げるためにどんなことができるのかを考える”ということになるかと思います。

さらに、本書の中で、トム・タンゴ氏の「俊足かつ盗塁が多いような選手が一塁にいると、その他の走者が一塁にいる場合に比べ打席の打者の打撃成績はむしろ悪化する」という分析を紹介されています。

つまり、「守備側が走者に影響されているとき、打者もまた影響されている」ということです。

たしかに実体験として走者が1塁にいると、走者が自らの判断でスチールをいつしてくるのか、監督から「盗塁」や「エンドラン」などのサインがいつ出るのか、と考えながら(時にストライクボールを見逃しつつ)打席に立つことになるので、打席の中でも何だか落ち着かない感じで、打撃成績が悪くなるのもわかります。

ここまで指摘されると、盗塁に対してかなりネガティブなイメージが持たれそうですが、私の頭の中には、打撃成績に悪影響がでないように、それに加えて盗塁の成功率を高めるために、その対策法があります。

ですが、【指導観①】~高校野球における“配球”の指導~の際と同様に、戦略的な話になってきますので、ここでも非公開にさせてもらいます。

またいずれ、野球部の顧問に復帰した際の、将来の教え子たちのために秘めておきます。

引用: https://nishispo.nishinippon.co.jp

戦術③:敬遠

最後に、「敬遠」についてです。

本書によると、「単純に得点期待値を使って平均的な状況で考える限りは、敬遠というのは守備側の失点を増やすだけの選択」であり、セイバーメトリクスの一般的な結論として「多くの場合で守備側に不利な選択であり、思われているほどいい選択肢ではない」そうです。

本書の中での分析では、1974年の王貞治氏の打撃成績をもとに分析していますが、敬遠の効果は「打席に史上最強レベルの打者が立っていてかつ後続の打者が極めて打力が低いという異常な前提ではじめて得られる」と述べられています。

つまり、敬遠はほとんどの場面で守備側に不利な結果をもたらす作戦であるということです。

ですが、打者が王氏で、後続打者が平均的もしくは控えレベルの打者であるときの得点確率の増減を見てみると、塁が詰まっている(走者1塁/1・2塁/満塁時)以外の場合は、得点確率が減少しています。

得点期待値ではなく得点確率で見てみると、1点の確率を減らす策として考えるならば有効であるということがわかります。

以上のことから、本書では「敬遠という選択はほとんどの場合で守備側に不利な結果をもたらすが、本当に1点だけを考える終盤で打席の打者と後続の打者に圧倒的に明らかな打力差がある場合には有効な選択になり得る」と結論付けられています。

“1点だけを防ぐ終盤の究極の場面でのみ選択肢に入ってくる作戦”という認識をもっておくべきだということです。

たしかに、例えば2死2・3塁で打席に強打者を迎えた場合、打順は上位のことが多いでしょうから、後続の打者もそれなりの打力のある選手であることが多いです。

敬遠策を取ったとして、「四死球の許されない状況で次打者とストライクゾーン内で勝負しなければいけない」状況を自ら作ることになります。

そのような状況を自ら作るデメリットな部分と、「塁を詰めることによってタッチプレーではなくフォースプレーの状況をつくることができる」というメリットとを天秤にかけたとき、果たしてどうなのか。

そう考えると、敬遠せずに2死2・3塁で「1塁は空いてるから最悪フォアボールで歩かせてもよい(=結果的に敬遠したのと同じ状況になる)」という思考をもって、ボール球を有効に使いながら勝負したほうが良い結果が出るのではないか、とも感じます。

このように敬遠せずに勝負することを想定すると、 “タッチプレー”の練習や、“ランダウンプレー”の練習を日頃からしっかりと積んでおくことが大切になってくるのではないか、と思います。

引用: https://www.yomiuri.co.jp

さいごに

以上のように、今回は、本書での「送りバント」・「盗塁」・「敬遠」の3つの戦術に関する分析結果の紹介と、本書を読んだ私の感想を記しました。

次回以降は、チームや選手個人の成績の評価方法について、紹介していければと思います。

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