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親御さんの愛?(2009年40歳 )

週に1回あるかないか、しかも終わる時間がまちまちだった、とある広告代理店でのアルバイト。その帰り。

駅のホームに入って来た電車は、ちょうど帰宅ラッシュが始まったようで、すし詰めとまではいかないが結構な混雑っぷり。
降りる人もわずかで、私は人の流れに押されるままにドア隣の二人掛けシートの前で立つことになった。

『あー、こりゃ今日は立ちっぱなしだな……(←ちなみに3つ先の駅)』
疲れた体を吊革にダラリとあずけながら、ボンヤリ覚悟を決める。

だがしかし。意外にも2つ目の駅でみなさんどっさり降車。
立っている人も一挙に減った。
『あ!もしかしたら座れるかも!?』
期待に胸が膨らむも、眼前に空席は無い。すかさずブインと振り返る。
そしたら、ちょうどお向かい、二人掛けシートの一人分だけぽっかり空いていた。
『あ!空いとる!!……でも駅はあと1つ。座ろうか、どうしようか…』
半身をシートに向けながら、体をわずかにゆらゆら揺らし、一歩を躊躇する……。

と、そこへ突如「ここ空いてるよ!」との声。
驚いて視線を移すと、既にその席に座っておられる、スーツ姿の細身なおじさまが、笑顔で手招きしていらっしゃるではないか!

『えっ(汗)!?』
私は手招きされたことで、逆にものすごく戸惑った。
しかし、もう体がシートに向いてしまっている手前、断るのも不自然……と言うことで、ペコリと会釈をし、それとなく確保して下さっているのであろう、おじさまの片手が置かれた席へ向かった。

おじさまは、物腰が柔らかいながらも気さくな雰囲気の方で、私が着席するや否や、マイペースに身の上話をされ始めた。……かと思ったら、唐突に鞄をゴソゴソ……。おもむろに手帳を取り出し、「これなんだけどね……」と、挟んである写真を私に手渡し、おっしゃった。
「こいつは長男でもういい年なんだけど、まだ結婚してないんだよ~。どうかな?次男もいるんだけど、そっちもまだなんだよね。どうかな?」
………新手あらての代理婚活であった。

チラと拝見した写真の息子さんは、とても誠実そうであった。
けれど私は、一応結婚している旨を伝え、丁重にお返しした。
「そっかー……なかなか見つからなくてね……」と、溜息まじりに肩をガックリ落とすおじさま……。
そんなおじさまを、私は誠に僭越ながら励まし、お先に次の駅で降りたのだった。

いやーそれにしても、数分前に出逢った見ず知らずの私に紹介するという大胆さには恐れ入った。
おそらく、代理婚活も手当たり次第の段階なのだろう。
それだけ願いは切実であり、必死なのだ。これも親の愛なのであろう……。

「ただ、このやり方を息子さんが知ったら、ちょっと嫌な気持ちになるかも……?」と、私は改札を抜けながらちょっと苦笑した。
子供のありのままの自由を見守るのも、親の愛であるような気もする。



余談
このエピソードが起こった少し後。学生時代の友のお母さま(面識アリ)も、電気の点検で家に来られた男性に友の写真を見せ、同じく代理婚活をされた模様。
それを知った友は激怒し、しばらく口をきかなかったとかなんだとか……。
……や、やっぱりそうだよね……(汗)。