【読書レビュー】汝、星のごとく/凪良ゆう ※ネタバレほぼなし
「汝、星のごとく」を読了。
最近、「こうあるべきだ」「普通はこうだ」というマジョリティの正論によって人が断罪される光景がよく見受けられる。
しかし人というものは、一人ひとり個性のある特殊な生き物であるがゆえに複雑で、正論では割り切れない矛盾をいくつも内包していて、歳を重ねる毎に他人には容易に理解できないその人独自の背景が積み重ねられていく。
私たちはどこまでいってもグレーな生き物であって、物事をいつも白か黒かで割り切っていける存在ではないのだ。
だから僕は他人に対して「普通はこうあるべきだ」とか「非常識だ」などと軽率に揶揄したり非難したりなどはとてもじゃないができない。
ニュースやSNSなどで公に可視化された情報はいわゆる氷山の一角であり、実はもっと深く複雑な事情がその人の裏で絡まり合っていることがほとんどで、そう考えると安易に意見することなどできようはずもない。
本人や本人を取り巻く人たちが「これで良いのだ」としているのならば、もうそれで良いのだ。良しとするのだ。
自分の価値観において「普通ではない」「非常識」なことをしている他人が、あなたになにか迷惑をかけるだろうか。悪影響を与えるだろうか。
そうでないならばそっとしておこう。
善意の無関心でいればいい。
他人を叩いても、相手の心だけでなく自分の心もざわつき波立つだけで誰も幸せにならない。
もっと人は人を許していくべきなのではないだろうか。
…というようなことを本書を読んで強く感じました。
ネグレクトの親を持つ者同士の幼い恋から始まるこの物語は、フィクションとはいえ今の日本が抱える問題が所々に生々しく描かれており、他人事とは思えないほどのリアリティがあります。
心情描写や情景描写が丁寧で物語として面白いだけでなく、現代を生きる私たちが避けては通れない「普通という言葉の危うさ」「多様性のあり方」などについて考える機会を与えてくれる素敵な小説でした。
最後に、少しだけネタバレになるかもしれませんが、作中で僕が気に入った北原先生の言葉を紹介して終えることにします。
「自分で自分を養える。それは人が生きていく上での最低限の武器です。
(中略)
独身だろうが結婚してようが、その準備があるかないかで人生が違ってきます。
(中略)
人は群れで暮らす生き物です。何かに属さないと生きていけない。
ぼくが言っているのは、自分が何に属するか決める自由です」
p.s.
ドライフルーツがオーブンで簡単に作れることをこの小説で初めて知りました。笑
今度やってみよ。
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