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[036]2022年 劇場版名探偵コナン『ハロウィンの花嫁』 評定・講評

★評定点

オープニング 7点
舞台 7点
推理 8点
構成 8点
描写 8点
博士 6点
エンディング 8点

総合点 52/70点


◆講評

<オープニング 7点>

コロナ禍による延期を経て、2年ぶりの公開となった前作『緋色の弾丸』(21年)のオープニングは、18年『ゼロの執行人』、19年『紺青の拳』に比して大きく失望させるような、惨憺たる出来だった。

一方の今作は、あらすじ紹介の最後にタイトルを入れてそのまま本編へフェードインする斬新なトライアル。

その挑戦を評価し、次回作にも期待したい。


<舞台 7点>

物語を通し、終始舞台は渋谷で完結させられており、今なお変わりゆく渋谷の街並みの紹介が随所に散りばめられていた。

渋谷といえど、地下貯水槽やビル屋上といったグラウンドレベル以外での舞台展開も、高低のバリエーションがあり楽しめたと言えるかもしれない。

一方で渋谷の街並みの“映え”に頼った一元的な舞台設定は否めず、8点をつけることは躊躇われた。


<推理 8点>

久しぶりに「推理のコナン」を垣間見た。

やや早の展開だったが、雑な動機設定や大きな論理の飛躍も見当たらず、20年代のコナンムービーとしては及第点。

犯人候補となる登場人物の少なさから、推理自体の筋は見えるが、その分コナンや降谷、佐藤刑事が丁寧に推理を進める感を受けた。


<構成 8点>

ここ数年急増する女性ファンへの顔色をうかがう構成によって、映画自体の存在意義も薄らいでいたコナンムービーだったが、各層から人気を誇る警察学校組の5人を上手く絡めながら原作への回帰を果たしており、新旧それぞれのファンの心をしっかりと掴んだ脚本作りに、ここ10年で最大級の賛辞を送りたい。

警察学校組の関係性をいま一度洗いながらの展開進行は、1時間50分という尺ではあまりにも短かったが、展開と構成にムダがなく、それでいて遊びがある点は評価できる。

一つ注文をつけるとすれば、今作の前日譚にあたる原作36巻(東都タワーの事件)にある小見出し「帰らざる刑事」や、テレビアニメシリーズで使われる「揺れる警視庁」などから映画タイトルを引用してほしかった。


「ハロウィン」や「花嫁」が今作のキーパーソンである警察学校組と関係性が薄く、この点はもったいない。


<描写 8点>

警察学校組のほか、佐藤・高木、松田・佐藤、伊達・高木、鬼塚・目暮……といった、それぞれの関係性を見え隠れさせる描写が意識的にあり、今作はコナンが主役ではなくガイド役にまわる描写は良かった。

警察学校組がメインということもあり、長年押し売りのように続いていた新一・蘭ラインの過度な描写を、今作ではほぼ一掃しており、個人的にはオーディエンスに媚びない描写に8点をつけた。

十八番となった物理法則の軽視はクライマックスで見られたが、構成自体のダイナミックさがそれを打ち消した格好により、気になるほどのものではない。


<博士 6点>

コナンムービー黎明期、全盛期、円熟期を経て、映画でも少しずつシェアが弱まり、もはや作りこまれたネタがなくなってきた。

しかし、今作では、ある種この手の”遊び”は水を差すシーンになりかねず、そのような意味で最小限の尺でとどめていたとすれば、特筆すべきファインプレーと言えるだろう。でも、博士もう少し頑張れ。


<エンディング 8点>

ZARD、B`z、倉木麻衣といった“コナン大御所”ではなく、BUMP OF CHICKENの登用に真新しさを感じた。

込められた意味もまた、警察学校組や犯人のプラーミャのほか、佐藤と高木などのそれぞれの〈時間軸〉にフィーチャーした主題歌になっており、きめ細やかなタイアップだったと思う。

エンドロールでは、警察学校組の同期でたった一人残された者として、それでもなお前に進もうとする、実直な降谷零のキャラクター像に重なるようなナンバーが楽しめる。


総評

原作は100巻の大台に乗り、興行収入100億円に迫る一大コンテンツとなったコナンムービーも、幅広い層に楽しんでもらえる程の長い歴史を紡いできた。
その中でも、オープニングの変革、BUMPの登用だけではない、“新しさ”を感じられた年だった。

今作は、原作のスピンオフに近い立ち位置でありながら、原作の枠組みを壊さない構成や描写をもって、警察学校のエピソードを最大限に引き出した、オーディエンスを存分に満足させる素晴らしい出来だったが、なによりも原作からのファンにもしっかりと寄せた描写は、最近のコナン映画としては特筆すべきものがある。

内容は、松田陣平刑事ひとりを軸に据えても、松田の記憶をたどる佐藤、その佐藤の姿を追う高木の2通りの心情をキャッチアップしながら、事件が進んでいく感覚にワクワクとドキドキが入れ替わり立ち替わりで楽しめるものだっただろう。

犯人のプラーミャの動機も現実離れしたものではなく、感情移入や理解自体できるもので、考えさせられるものでもあった点は、コナン映画のオーディエンス、ファン層の年齢が上がっていることに配慮したものではないかとも思えた。


2023年公開の第26弾(『黒鉄の魚影(サブマリン)』)は、10年ぶりとなる海を舞台にした作品となる。

黒ずくめの組織、FBI、公安らオールスターのレギュラー出演は、オーディエンスへの迎合演出ともとれるが、コンパクトにまとまりを見せる構成や意味のある描写があれば問題ないだろう。

主役は、灰原哀。
原作18巻での登場から長らくサブヒロインのポジションを不動のものとしてきた彼女を中心にどのように物語が展開されていくのかももちろんだが、灰原哀が灰原哀たるために、彼女の心情がどう変化していくのかについても見逃せないだろう。

役者は揃っている。

ついに主題歌はスピッツを迎え、灰原哀を主軸に据えた「推理のコナン」を引き続き見せてもらいたい。
予告からは博士の勇姿も垣間見え、クイズ以外での大幅な得点も期待できる。

舞台比較対象となるのは、やはり10年前の『絶海の探偵』(13年)だろうか。『絶海』は、イージス護衛艦ほたかと京都・大阪方面の二元展開だが、今回の舞台は一つの模様である。
舞台をひとつに絞るなら、仔細にこだわった構成と描写は最低ラインであり、やや不安な点も想定できる。

まかり間違っても、黒の組織における原作を無視した登場演出、オーディエンスに迎合した公安グラビアはしてほしくないが、今年初めに『名探偵コナン 灰原哀物語〜黒鉄のミステリートレイン~』を上映して、今回の布石としている以上、灰原哀を主演に据えての失敗は許されない。

ぜひ、期待したい。


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