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「迷」

東京・墨東。
隅田川の左岸である。

大空襲で丸焼けになった南部の深川、本所は幅広の、まっすぐすっきりした通りで形作られている。

一方、北側の一部-向島は明治より前の田んぼのあぜ道がそのままコンクリ、アスファルトで固められたか。細い道がくねくね。そこに夥しい狭い家、小商店がぎっしり…都内屈指の「木密」エリア。

「遊ぶ店」があり、周辺が猥雑でにぎやかで、活気に満ちていた、という遥か昔の幻。消えて何十年。東向島駅には「旧玉ノ井」の案内、今も。

そして、道だけは昔むかし――玉ノ井の跡、記憶を残す。

ひとたび足を踏み入れれば、ラビリンス・迷路――。荷風の時代からそうだったろう。

目指すはわが家、帰路を求めて鳩の街を抜け、国道6号・水戸街道へ。

表れたのは墨堤通り。首都高の際。
一体何年この下町に住んでいるのだ。
何年住もうと、僕の頭の中の地図は方位磁石といつも向きが違ってしまう。
北かと思えば南、南か…と東へ進む繰り返し。

いつものこと、いつものこと。
それでも、帰りの道が不安になった。このラビリンスを抜けられるのか。

ちょっと見上げると、巨大な鉄塔。
そこにさえ向かえば、よし。

いい目印が下町には
ある。

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