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「友 はどこにいる」

きょうやるべき仕事もない
仕事するフリもイヤになり
ぼくは
【在宅勤務にします】
書き置いて そっと職場を離れ
本の街に 友 を探しにきた

友 がいる ここに きっといる

そう思って またこの街にきた

本でなく 古い映画も悪くない
ミニシアターに入ったが 見たい作品はなく
大量の映画のチラシを 冷やかすようにロビーをうろうろしながら眺めた
そのとき「シニア料金で」と窓口で声がした
友 かな
ぼくは 目を向けた
そこに頭髪が真っ白なお方がひとり
友 というには ぼくよりずっとセンパイだ
ぼくもシニアなのだけれど このセンパイほど年はとっていない
一緒にいたくはない 一緒にしないでくれ
彼の存在に背を押され 外に出た

ひとつ筋を越えた先の本屋の3階
詩の本がたくさん並ぶ
新刊も 旧作も かなりそろう
普通の書店に並ばない詩集が いくつも並ぶ

詩集 ステキな響き
詩集は時に刺繍であったりする
文字を紙に書き連ね 言葉を音にして聞く人の心に刻む
その行為は 布地に色糸を縫い込み 文様や絵を浮かび上がらせる刺繍に通じる
いや 詩集は きれいなものばかりではない
屍臭漂うような詩集だって きっとある
そんな詩集 買って読もうなどとは思わないか
悪臭だらけ 毒気たっぷりの詩集
毒にも薬にもならぬ 幼稚なもの言いの駄文よりは マシだと思うが

そんな臭いのする詩集は 本屋には見当たらず
小ぎれいな装丁の 大御所詩人から詩壇の外では無名の詩人まで
彼ら彼女らの詩集を これまた手に取りながら 冷やかすだけの ぼく
詩集の向こうに ぼくが探す 友 がいるかと思ってページをめくるが
いない
いないということを再確認するために 詩集のページをめくる

きのう 古い友人の父親の訃報が届いた
55歳で消えた古い 友 その死から5年ほどで 逝きなさった
友 の死の一週間前
「オレ 入院しとんのやけど 見舞いに来てくれんか」
と電話があった
冗談だと思って相手にしなかった ぼく
彼が一番の 友 だったのに
大阪まで行こうとしなかった ぼく
友 その不在から5年
彼の父の訃報がそれを思い出させた

友 それは重荷にならない存在
どれだけ一緒にいても
また会おう と
軽く手を振って 別れられるもの
手を振る機会を逸した ぼくは
いまも 友 を探し続ける

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