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『MOTHER』のラストバトルを受話器越しに聞いてた話

「キーン、キーン」という音が、受話器越しに聞こえてきます。

「準備できた?」
「できた」
「それじゃ、始めますか」

受話器の向こうに、MOTHERのラスボス、ギークと対峙する僕のファミコンの弟子がいます。
ことの発端は、数時間前にかかってきた弟子からの電話。
「ししょー、マザーの最後のボスが倒せん」
彼女はそう言って僕に助けを求めて電話してきました。

僕より二回り以上年上の弟子でした。母の友人で、小さなお孫さんがいて、僕が遊び相手にということで親交があったんですが、弟子にしてくれと言われたのは進めず困ってたゲーム、スーパーマリオブラザーズ2を代わりにクリアしてあげたことがきっかけだったと思います。あれムズイよね。

そんな流れで、高校生だった僕がビデオゲームの弟子を持つことに。弟子が困った時にアドバイスしたり手助けしたりする。これが師匠の仕事なのかよく分かりませんが、とにかく、当時教育に悪いと大人から悪く言われることが多かったビデオゲームに対し、年が二回り以上違う大人が興味を持ってくれたことがうれしくて、色々教えていました。

弟子はアクションゲームがあまり得意ではありませんでした。ちょうどその頃、ファミコンでポートピア連続殺人事件が発売され、アクションが苦手な弟子でも楽しく遊べるだろうとアドベンチャーゲームを勧めるようになりました。謎に詰まるたびに電話が鳴るので大変だったけど、クリアの驚きと共にとても気に入ってくれて。以降アドベンチャーゲーム色々勧めました。

アドベンチャーゲームは、アクションの腕がなくても遊べるゲームですが、謎解きに詰まってしまうと、どうしようもなくなります。つまずくと進めないのはアクションと一緒。そこで僕がアドベンチャーゲームの次にと勧めたのがドラゴンクエスト。RPGです。

RPGも謎解きに詰んでしまうとお手上げなのは同じですが、戦闘で経験を積みお金を貯めて成長していく要素があるため、詰んで何も出来ない状態が起こりにくい構造だったもので、「これは凄い。弟子にも勧めたい!」と思い勧めてみたところ、弟子もどハマり。
(ドラクエの出来の素晴らしさに最大限の感謝を)

今思い返すと、なんでも面白がる弟子は凄い。僕は今年50歳ですが、歳を取ってなお好奇心を持ち続けることはけっこう大変です。そう思うと弟子のアグレシッブさは本当に凄いなと、今になって感心します。よい弟子に出会えた。

ドラクエに出会って以降、弟子が最もお気に入りのジャンルはRPGになりました。そしてMOTHERに出会います。

ということで、冒頭に戻ります。

MOTHERがクリアできない。レベル不足だろうか。ヒアリングします。レベルは大丈夫そう。だとするとあれしかない。あれに気付いていないんだ。

スマホとSNSがある今なら、簡単にヒントを送れます。しかし時は1989年。まだ携帯電話は普及しておりません。直接行くのが早そうだけど、弟子の家の電話はコードレスだった!

ということで、ギークに辿り着いたら電話してと伝えて受話器を置き、電話を待ちます。

鳴る電話。準備が出来たことを確認すると、受話器越しのラストバトル指南、開始です。

「まず耐えて。とにかく、攻撃せず耐えて」
「了解」
「まだよ。回復しながら耐えて」
「了解」

受話器越しに、ギークの攻撃音が響きます。
今出来るのは、耐えるだけ。

「まだ?」
「もちょっと」

数ターン経ったところで僕は言います。

「コマンドよく見て。気付いた?」
「気付いた!」
「あとはそれ。耐えながらそれ選んで」
「了解」

それを聞いた僕は、受話器を置きました。

それから1時間後ぐらいでしょうか。
弟子から電話がかかってきました。

「ししょー、MOTHERよかったあ。感動した」

知ってる。と、心の中で呟く僕。
僕が現在まで何千本と遊んできたゲームの中でも、MOTHERのラストバトルは5本の指に入る最高の展開だと思います。

「よかったでしょう?」
「ほんとよかった。泣いた」

一足先にクリアしてるにも関わらず、自分がクリアした時以上に嬉しい僕がいました。

学生の頃は直接会ったりもしてましたが、僕が就職すると電話だけの繋がりになり、こちらが勧めるより先に今はあれやってるとかこれやってるとか話を聞く方が増えました。MOTHERシリーズは特にお気に入りで、2発売時は進捗をよく教えてくれました。そして弟子との最後の会話は、奇しくも64版MOTHER3、開発中止の話でした。

「MOTHER3まだ出らんと?」
「ちょうど今週開発中止の記事出てたよ」
「うそーん」

とてもがっかりしてたのが印象的でした。その後MOTHER3は、ゲームボーイアドバンス版としてプロジェクトが復活して無事発売されたのですが、弟子は発売前にこの世を去ってしまいました。

残念だけど仕方がないね。僕はMOTHER3を二人分の思いを乗せてクリアしました。

MOTHERは電話がとても印象に残るゲームです。そして僕と弟子とMOTHERも電話で繋がった縁でした。僕は10代の頃本当に生き辛くて苦労しましたが、ビデオゲームのおかげでなんとかここまで来れました。受話器越しに繋がってた弟子は、実はMOTHERのお父さんのような存在だったかのもしれません。そしてあの時、MOTHERのラストバトルで感じた、好きなものの魅力が人に伝わった時の嬉しさが、今暇を見つけては好きなゲームの感想文書く原動力のひとつになっています。

すべての出会いに感謝を込めて。


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