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角を曲がるときに

「じゃあバスの時間やし、そろそろ帰るわ。」

いつのころから「帰る」と言うようになったのだろう?
離れて暮らし始めたばかりのころは「行く」と言っていたような気がするのに。

実家に帰省すると、いつもほっとする。
けれど、ほんの少しだけ居心地が悪い。

生まれ育った家だとしても、ずいぶん長い間離れて暮らしているのだから仕方ないよと、自分自身に言い聞かせる。

ただ、どれだけ離れていても、母は変わらず母のままだ。
久しぶりに会うとぎょっとするほど痩せていたり、背中がぎゅっと曲がっていたり。
こちらが置いてけぼりに感じるほど年老いていく。
けれど、母は変わらず母のままであろうとしてくれる。

「身体に気をつけてな。またね」
曲がり角で私の姿が見えなくなるまで、じっと見送ってくれる。
私は何度も振り返って、母に向かって手を振る。

あと何度、私は母に向かって手を振ることが出来るのだろう。
そう考えながら、私はただ、角を曲がる。

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