見出し画像

資本と経営を分けないデメリット

日本においては、中小零細企業のほとんどはオーナー社長です。つまり、自社の株式の過半数を社長が所有している状態ですね。

会社、特に株式会社というのは、オーナーである株主が、社長はじめ役員に経営を委託する形式です。そのため、役員は毎年の決算で株主に業績を評価され、来期の継続の可否、役員報酬額を決定されます。業績が悪ければ減俸も退任もあり得るのが、役員の立場です。それを決めるのは株主総会です。

そう考えると、社長というのは立場的に漏れなく「雇われ」なのです

ただし、株の過半数を社長が持っているオーナー社長の場合は、それは極めて形式的な「一人二役」になります。決算や来期の報酬なども、形の上で手続きするだけで、その登記費用っている?と思えるくらいです。

会社の規模や目的によっては、その方が合理的な部分もあります。なんせ、言葉を選ばずに言うと「絶対権力者」なので、会社の中では誰も社長には逆らえません。オーナー(所有者)ですから。その状態では、意思決定がとても早くなり、すべてに迅速な対応が可能です。いちいち株主に確認する必要がないからです。

しかし、デメリットもたくさんあります。下記の個人保証(経営者保証)に関する記事でも触れましたが、改めて少しおさらいします。

デメリット1:公私混同が必ず起きる

他社の経営を見る機会のある仕事をしていると、もうこの状態が中小企業の通常運転なんだなと思うのが「公私混同」です。

私も長くオーナー企業を経営してきましたので(今はオーナー1社、雇われ社長1社)、日常的にそこまで線引きできないのはよくわかります。寝ても覚めても、どうせ四六時中仕事のこと考えてるんだし、週末も何かあれば普通に仕事するわけで、その時に社用車に乗って、ついでに家族をどこかに送って、仕事終わりに迎えに行って一緒に食事、なんて「ワークライフ一体化」状態がデフォルトです

その中で、ここからここまでは仕事だから社用車で、でも、それでは家族の送り迎えはできないので、一旦会社に戻って私用車に乗り換える。なんて、めんどくさ過ぎてできません。

では、社用車は使わず、最初から私用の車で行きますか?それで仕事すれば、逆にまた公私混同(とても細かいけれど、定義としては)ですよね。仕事で使った分だけ、会社のカードでガソリン入れる?とか、もうそんな区別できないんですよ。

そんな環境なので、公私の区別が次第に曖昧になります

日常の範囲での車や食事程度であれば、まだいいんです。でも、だんだんとそれが大きく、大胆になってきます。食事にしても、家族で高級なレストランに行って交際費で落とすとか、平気でやるようになります。

私が見聞きした範囲では、家族全員のハワイ旅行がありました。さすがにそれはやりすぎですよね。でも、だんだんと境界線が曖昧になってきて、人によってはそこまで行ってしまうのです。

私自身も、自分の海外出張に、夏休みの子供2人を連れて行ったことが何度かありました。ただしそれは、子供の交通費や宿泊費は、当たり前ですが自腹です。しかしですよ。現地の取引先と食事する時、子供も来ているというと「ぜひご一緒に!」となるじゃないですか。それ、区別なんてできないんですよ。私費で賄うしかありません。

もっと言うと、交通費や宿泊費は自腹と言っても、それを知ってるのは経理社員くらいのもので、他の社員は知りません。子供も一緒だと知ると「会社の金で家族旅行かよ」という不満にもつながりかねません。会社の金を使ってなかったとしても。

いずれにしても、日常の時間が「ワークライフ一体化」なので、お金もその境界線ができにくくなるのは事実です。もちろん、それはオーナー社長に限った話ではありません。しかし、オーナー社長の場合は、近くにチェックする人がいない(それも自分)なので、感覚的に曖昧になりがちなのです。そして、いつか税務署に指摘されて痛い目に合う、ということになり得ます。

デメリット2:個人保証を求められる

上記で引用した過去記事の内容がこれです。少しおさらいすると、株式会社には「株主有限責任原則」があります。これは、株主は、出資額以上の責任を負わない(つまり、出資金が紙くずになる以上のリスクは負わない)というもので、これは資本主義社会の礎を築いた最大の発明だと個人的に思っている、株式会社の大原則です。

これがあるから、大きなプロジェクトにも出資が集まるわけですね。

そして、株主は経営者を雇います。雇うと言うと語弊がありますね。経営の委託です。ただ、実質、経営者は株主に雇われているのです。株式を持たない社長が「雇われ社長」と言われる所以です。

そうである以上、社長(役員)の生殺与奪を握っているのは、株主です。役員は、業績が悪いと来期の報酬を下げられる、あるいは解任される。そんな立場です。

その立場で、銀行借り入れに対して個人保証を求められても「アホか」となるでしょ?来年以降、どうなるかわからないのに、会社の借り入れの保証人なんてなれるわけないじゃないですか。

それが正常な姿なのです。個人保証なんて、公私混同そのものです。会社のお金を個人で肩代わりさせるわけですから。社長の公私混同は罪なのに、銀行は社長に公私混同を求めているのです。

なぜそうなるのか?オーナー社長だからです

銀行も、さすがに雇われ社長に対して、個人保証を求めることはしないでしょう。もししていたら、暴挙です(された人います?)。オーナー社長だから、「この会社はあなたの子供と同じですよね。潰れたら、あなた個人が責任持ってくださいね」というわけです。

はい、そこで上記の「株主有限責任原則」が有名無実となるのです。この、資本主義社会を発展させた最大の発明が、日本の中小企業においては完全に骨抜きにされているのです。

これが、日本の中小企業の実態です。

日本の生産性を貶めているのは、中小企業だと言われます。データから見ると、それは間違いない。7割が赤字、4割が債務超過が、中小企業の実態でもあります。しかしですよ。この実態を見ると、日本の中小企業は、ほとんどが「個人商店」であり、そこに生産性も何もない。目指してるのはオーナーの利益だからしょうがない。そう思うのです。

そして、個人商店だから、個人保証を求められるのです。

目指すべきは、オーナーかプロ経営者

オーナー経営者のデメリットは、特に2番目がとてつもなく大きいと、私は思っています。

資本と経営を分ける、つまり株主と経営者を別の人にすることによって、上記のデメリットが少なくとも削減されます。もちろん、株式会社であっても、個人の資産管理会社などの場合は、この限りではありません。しかし、従業員を雇って、事業で成長を目指す以上は、起業当初は個人マネーとデッド資金で何とかやり繰りして、その後、資本は分離すべきだと思っています。

もちろん、起業当初から他人資本を集められるビジネスモデルなら、そうすればいい。

目指す場所によっては、成長戦略として、自分がマジョリティを持って、他人資本を入れるという資本政策も必要でしょう。ただ、スモールビジネスの場合は、私はオーナーか経営者、それも複数の会社を経営する「プロ経営者」を目指すべきだと、個人的に考えています。

「個人商店でいいんだ」と言う人は、オーナー会社でいいでしょう。ただ、従業員をたくさん採用して、会社を大きくしていきたいという志のある人なら、資本と経営を分離させることが、会社の健全化の第一歩だと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?