チベットの文化
チベット・インド旅行記
#21,ラサ②
【前回までのあらすじ】長旅の末、念願の地チベットへと辿り着いたまえだゆうきは、次なる旅の目的地を見失い、自問自答の日々を過ごしていた…。
我らがラサの人気宿、ヤクホテルの屋上は、旅人達の憩いのスペースになっていて。
洗濯物を干しに来たり、プカプカとタバコをふかしたり、ギターを練習したり、様々な国の旅人たちが標高4000mの青空の下、思い思いに時を過ごしている。
イスラエル人の青年、タールは物書きを目指している。
ドイツ人のレニーは民族衣装を華麗に着こなし、街を闊歩している。
まるで修学旅行のようなノリで、ワイワイ盛り上がっているのは韓国人グループ。
寂しがり屋なベテランバックパッカーの小林さん。
日本語教師ののり子さん。
今日も屋上に集まったもの同士、打ち解けあい、旅の話で盛り上がる。
そして夜になれば、韓国料理「アリラン」にサムギョプサルを食べに行こうとか。
ネパール料理「タシレストラン」に行ってカレーを食べようとか。
誰彼ともなく言い出し、夜の街に繰り出すのだ。
旅の道の上、袖振り合うもの同士、せめてもの暖かい交流を心のどこかで求めているのだろう。
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その頃の私は、ヤクホテルでレンタサイクルをして、街をみて回るのが日課だった。
旧市街を抜け、坂を登れば、まもなく丘の上に建つデプン寺が見えてくる。
デプン寺は街の喧騒から離れ、ひっそりとした静寂が漂う、ラサ市最大の僧院だ。
広大な敷地のどこかから風にのってやってくる、僧侶たちの読経を聞きつつ、寺の周りをコルラ(時計回りに周回する事)する。
寺の外壁には、手回しでカラカラと回る、「マニ車」という円筒が、いくつもいくつも備え付けられている。
「マニ車」の中にはお経が入っていて、カラカラと手で回す度に1回お経を唱えた事になるのだそうだ。
(他にも、風にたなびく度に1回お経を唱えた事になる、タルチョという旗もある。)
のんびりブラブラしているだけの気まま旅。
せめてもの功徳を積もうと、1人せっせとマニ車を回してみた。
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ラサ市には、中心を横切るようにしてラサ河も流れている。
ゴツゴツした岩が転がる、流れの緩やかな浅瀬の河だ。
川べりには、洗濯物をしたり、河の水を汲んでお茶を沸かしたりするチベッタン(チベット人)達がのんびりと昼下がりを過ごしている。
母親らしきチベッタンが、子供をあやしながら洗濯をしていたので、代わってやる事にした。
靴を脱ぎ、ズボンをまくり、ザブザブと河に足をつける。
10月だというのに、刺すような冷たさだ。
ギュッギュッと川底に洗濯物を沈めて、足で踏みつけていく。
ポチャン、
ポチャン、と音がするので振り返ると、
洗濯物を代わってやった母親が、子供と一緒に小石を投げてきて、私をからかっている。
ふざけて私も小石を投げ返すと、ペロリと舌を出しておどける母親。
チベットでは、舌をペロリと出す行為は、親愛を伝える表現なのだ。
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その日の夜は、日本人ののり子さんと一緒に中華料理を食べに行った。
のり子さんは34才で、普段は中国の都市部で日本語教師をしているらしい。
休暇を利用して、チベットに来たのだそうだ。
中国語の達者なのり子さんは、中国人のフリをして検問をすり抜けて来た。と言っていて、肝っ玉の座った女性だなぁと、思わず感心してしまった。
のり子さんは、持ち前の中国語で、ラサに着いてからも地元の人とよく話をしていて。
今日はこんな事を話した。チベットの人に親切にしてもらった、等のエピソードを、嬉しそうに話してくれた。
「でもね。」
少し間を置いてからのり子さんは切り出した。
「ヤクホテルで働いているチベット人の女の子達は、みんなもうチベット語は喋れないの。
きっと学校でも教えてないのね、今のチベットでは標準語(漢語)しか喋ってはいけない事になっているから。
このままだと、そのうちチベット語を喋れる人は居なくなってしまうかもしれないわね…。」
のり子さんの話によると、今のチベットの子供達は、中国語を喋れないおじいちゃんおばあちゃんとは、もう会話が出来ないのだそうだ。
そして中国語が喋れない人間は仕事にもあり就けず、子供達に旧市街で物乞いをさせるしか道が無い。
のり子さんの言う通りかもしれない。
今まさに一つの文化、一つの言語がこの地上からゆっくりと消えてなくなるのを、私たちは目の当たりにしている。
何も出来ず、
ただこうやって気ままに旅をして、中華料理を食べながら。
ラサ編③へつづく⇨
【チベット・インド旅行記】#20,ラサ編①はこちら!
【チベット・インド旅行記】#22,ラサ編③はこちら!
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