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Celebration of life

先日、この地で縁のあった方が、亡くなった。
その方の娘である私の友人は、「遺族」となってしまった。

ほころび始めた花のように、可憐な笑顔を湛えたその方を思い出す。
大好きだった、クロッカス。
そして、テーマカラーであった、明るい黄色にちなみ、
黄色のバラの花束を、友人に送った。

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数日後、友人から花束へのお礼の連絡を受ける。
そして、”Celebration of life(人生を祝福する会)”で
上映するスライドショーを共有してくれた。
”あなたも、母の人生を彩ってくれてありがとう。”
そうなのだ。
幸せなことに、その方の人生に登場した一人として、私も登場する。

その方との出会いは、ふた昔以上前。
初対面だった私を、2週間も自宅に泊めてくれたことが始まり。

長い夏休み。
学生だった私は、国内方々を旅することにした。
訪問したい都市の1つは、D.C.。
数日間の滞在を計画して、宿を予約しようとしたところ、
「私の実家に泊まったらいいじゃない?」と友人が声をかけてくれた。
厚意を受けた上、「もっと長く滞在したら?」という
有難い申し出にも、甘えることにした。
思い返すと、自分の素直さに、赤面もの。
でもそのお蔭で、その方の人生に、私は関わることができた。

当時その方は、連邦政府機関で働いていた。
毎朝の通勤のため、メトロ(地下鉄)の駅に行くついでに
車に乗せてもらい、そこで別れる。
私達は一日中、歩いて、メトロを乗り継いで。
D.C.のNational Mallや周辺エリアをくまなく観光した。

夕方、朝出発したメトロの駅で、退勤してきたその方と合流。
夕食を共にしながら、ご主人(私の友人の父)と一緒に
その日の出来事を延々と語る私達の話を、笑顔で聴いてくれた。
この滞在を思い出すと、何とも懐かしい。

ご主人は、寡黙なベテラン(退役軍人)だった。
料理、掃除、草花の手入れ、そして家族が大好き。
武骨だけど、優しくて。
何でも喜んで、よく食べる私達のために、
2週間毎日、違う手作りスイーツを用意してくれていたっけ。

D.C.を満喫した後、空港に送ってもらった。
懐広い、その方ご夫婦のもてなしに感謝した。

機上から眼下に広がる街は、陽光に満ちていた。
胸いっぱいの思いで見ながら、次なる地へ想いを馳せる。
ご主人が「大陸横断中のおやつに」と持たせてくれた、モラセスクッキー。
そのchewy(もちもち、しっとり)な食感と、
糖蜜のまったりとした甘み、ジンジャーとシナモンの芳香に包まれた。

ちなみに何年も経った今でも、モラセスクッキーの柔らかで甘い味は、
この夏の思い出へと誘ってくれる。

楽しかった旅三昧の夏休みが終わり、新学期が始まる直前。
友人経由でその方からのプレゼントが届いた。
quilter(キルト作りが趣味の人)だった、その方は、
私が旅行を続けている間に、ひと作品作ってくれたのだ。

寮の部屋に設置された無機質なベッドに、
明るいデザインのキルトを置くと、”私のベッド”に早変わり。
その方の厚意に包まれて休み、私は元気に学生生活を送ることができた。

この地を去る時、ほとんどのものを私は手放した。
しかし、このキルトだけはスーツケースに入れて海を渡ることにした。
母国だけど、新たなる地である日本に”旅立つ”のに、必要だったからだ。

その後、私の人生には、様々な変化があった。
そのたびに私の元へ、その方からの祝福の手作りキルトが届いた。
私の家族は皆、その方のキルトに包まれて休み、大きく成長した。

その方のスライドショーを見ながら、胸がいっぱいになった。
愛らしい乳児だった時からスタートして、
快活な少女時代を経て、精悍な青年だったご主人との出会いの頃。
おとぎ話のように素敵な結婚写真。私の友人、その弟妹の誕生。
その合間に、趣味のキルト作りをするその方の姿があった。

時が流れて、その方の孫達の誕生の頃、私が登場する。
ほどなく、ご主人が亡くなって。
仕事をリタイア。D.C.を離れる。
身辺の変化があっても、変わらずその方はキルト作りをしていた。

その後、再びこの国に暮らすようになった私が再登場する。
その方の、ひ孫を腕に抱く近年の姿に時を感じる。
ラストシーンは、遺された大量のキルト生地で締めくくられていた。

キルト生地を見て、涙が溢れた。
その方は、American quiltそのものだった。

キルト作りは、日常のわずかな時間にコツコツ取り組め、
完成までを長く楽しめる手芸だ。
難しい決まり事はなく、自分の好きな柄や色を組み合わせて、
自由に好きな模様をつくることができる。
そのため、幅広い層に愛されている。
また、出来上がった作品は、伝統的でありながらモダンで、
優しい親しみやすさがある。

友人は、その方が遺した生地を全て、求める人々に譲った。
その際受け取った志は、教会と退役軍人会に寄付したそうだ。
その方の生きていた証が、世に循環したことを嬉しく思う。

出会った奇跡に感謝。
”Celebration of life”
その方の人生に、祝福を。

ありがとうございます! あなた様からのお気持ちに、とても嬉しいです。 いただきました厚意は、教育機関、医療機関、動物シェルターなどの 運営資金へ寄付することで、活かしたいと思います。