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複数愛という生き方(わたし、恋人が2人います。/きのコ)

「複数の人と、全員の合意のもとでオープンにお付き合いをする」ライフスタイルのことを「ポリアモリー」という。
この本は、男性と女性の2人の恋人をもつ著者が、ポリアモリーについて実例を交えながら丁寧に綴ったものだ。

私自身がポリアモリーという言葉を知ったのは2~3年前だったと記憶している。もともと性的マイノリティに偏見のない私は「へぇ、そんな人もいるんだ」というあっさりした感想とともに、そういえば私も、小学生の頃は好きな人が2人いたな、あれは複数愛だったのかな?などと漠然と考えたことはあっても、それについて深く調べようとはしなかった。この本を読んで、彼らについて知識を得ただけでなく、自分もなんやかんや一夫一妻制=正しいと思い込んでいたことに気づかされた。

1. ポリアモリーに愛の順位はない

(どうして2人と付き合ってるの?Aさんだけじゃダメなの?という質問に対し)
わたしの答えは、「だってAさんとBさん、どちらも好きだから」といういたってシンプルなもの。「Aさんが本命で、Bさんが遊び」といった順位づけがあるわけではなく、2人とも好きだし、その「好き」には測って比較できるような「強さ」や「量」はないのです。それは、子どもを複数もつ人が「どの子がいちばん好き?」ときかれて選べないのと同じような感覚かもしれません。

著者はこの本を書いた時点で、Aさんと同棲しながら、Bさんとも交際している。AさんにはBさんとのデートの予定をすべて共有し、「今日はこんなことをしたよ」と、時に性的な事柄まで含めて報告するのだという。
同棲というわかりやすく強い繋がりをもちながら、複数愛が進行し得るという事実、そしてそれでも愛には順位がないということにとても驚いた。

2. 一夫一妻性が”正しい”のか?

友人たちの反応は千差万別です。もっとも多いのが「複数の人を同時に好きになっちゃうなんて、まだ本当の『好き』を知らないだけだよ。本当の恋愛をすれば、その人しか目に入らなくなるよ」という意見。これは逆に「ひとりしか好きにならないなんて、まだ本当の『好き』を知らないだけだよ」と裏返しの主張もできてしまう(そしてそのどちらの主張にも、何の根拠もない)のです。それに気がつかず、モノガミー(※一夫一妻性のこと)が唯一の正しい愛し方だと無邪気に信じている人がいかに多いことかとあらためて思います。

これまでポリアモリーを公表することで多くの批判を受けてきたからだろうか、著者の全ての主張に説得力があった。とかく多数派が正しいとされる日本で、私自身も一夫一妻制で”あるべき”と知らないうちに思い込んでいたことに気づかされ、はっとした。

3. 結婚と子どもについて

2012年、ブラジルでは初めて「3人婚」の届が受理され、その動きはフランスにも広まっているという。同性婚については日本を含む世界各国で法整備が進められている最中だが、複数婚もそのうち認められるようになるのかも知れない。
著者は今のところは結婚は考えておらず、子どもについても「授かれば育てたいが、授からなければそれはそれで」というスタンスだ。

「他人と違う親・他人と違う家庭に生まれた子どもは世間から差別されるからかわいそう」という考え方は、「世間と違う人間は差別されるもの」という価値観がもとになっているので、その意見に悪意がなかったとしてもそれ自体が「差別を再生産する基盤」になってしまうものだとわたしは思います。

4. ポリアモリーと浮気・不倫は何が違うのか?

ポリアモリーとは、あくまでライフスタイルであり、「複数の人を同時に好きになる性質」を表しているのではない。その性質の表現として、ポリアモリーを選ぶ人もいれば、浮気や不倫というライフスタイルを選ぶ人もいる、ということだ。
現状、ポリアモリーを定義づけるならば、「すべての関係者の合意のうえで、複数の恋愛関係を営むこと」という最小限のものでいいと著者は述べる。LGBTは「どのような性質をもっているか」が定義の要であるのに対し、ポリアモリーについては「どのような実践をしているか」が定義の要なのである。

5. 誰かを傷つけないために

ポリアモリーにも浮気・不倫にも、どちらのライフスタイルにも難しさがあり、それぞれに他人を傷つけたり自分が傷ついたりするリスクがある。

結論としていえるのは、ポリアモリーが正しいとか、モノガミーが間違っているかということではなく、どんな関係性でも「パートナーや子どもなど、関係性を傷つけるパートナーシップの在り方は健全ではない。傷つかないためには、合意を目指してコミュニケーションをとることが重要」ということにつきるにではないかと思います。

著者が提案するこのシンプルなソリューションは、恋愛感情の有無やライフスタイルに関わらず、あらゆる人間関係において当てはまるものだと感じた。

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