Magricco

都内の出版社で働くアラサー会社員。読んだもの記録用(予定)。朝井リョウがいちばん好き。

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  • 書評

    読んだもの記録

最近の記事

生産性の罠(限りある時間の使い方/オリバー・バークマン)

人生は4000週間しかない。効率化ツールや時短家電で生産性を上げれば幸福度は上がるかというと、そうではない。生産性は罠であるー たまたま立て続けに読んだ『DIE WITH ZERO』に通じる内容も多かったが、こちらも名著だった。読んでよかった…。 お金と時間は常にトレードオフの関係にあるが、『DIE WITH ZERO』がお金に焦点をあてた作品なら、こちらは時間に焦点をあてた作品の印象。時間とは私たちそのもの、という一文は、児童文学『モモ』を彷彿とさせた。 1.生産性の

    • 記憶の配当(DIE WITH ZERO/ビル・パーキンス)

      人生でいちばん大切なのは、思い出をつくることだ。 だから自分が何をすれば幸せになるかを知り、その経験に惜しまずお金を使おう。また、人生の充実度を高めるのは、”そのときどきに相応しい経験”である。限りある時間とお金をいつ、何に使うかを正しく判断したうえで、DIE WITH ZERO=死ぬときにちょうどお金を使い果たすことを目指そう。 という趣旨の本。 有り金を使いまくれ!ということではなく、アリとキリギリスでいう、アリの生き方の価値観が持ち上げられすぎている現状に警鐘を鳴らし

      • 自己愛の描写(ぼくにはこれしかなかった。/早坂大輔)

        高卒で就職、営業マンとして朝から夜中まで死に物狂いで働き続け、会社でそれなりの地位を得たものの鬱になりかけ、40歳を過ぎて脱サラ。本当にやりたいことは何かと自問自答した結果、昔から好きだった本を広めることを仕事にしようと、盛岡で「BOOK NERD」という書店を立ち上げた著者の半自伝的な作品。 あ、村上春樹好きなんすね…と思わざるを得ない文体と、一人称「ぼく」、エッセイなのに「きみたちは〜だろうか?」という「きみたち」への問いかけ連発、終始漂う自己陶酔感にちょっと辟易してし

        • 信じる(星の子/今村夏子)

          ※ネタバレあり※ 宗教2世の子どもを描いた小説。芦田愛菜主演の同タイトル映画を先に観て、後から今村夏子原作だったと知り読んでみた。 赤ちゃんの頃から体が弱く、乳児湿疹が治らなかった主人公・ちひろ。 ちひろの父が同僚に相談すると、ある宗教団体が販売する水を薦められ、その水を使うようになってから湿疹が治ったことで、両親ともに宗教にのめりこんでいく。 おかしな両親に嫌気がさした高校生の姉は家出をするが、中学生のちひろは学校で冷やかしを受けても両親を信じ、愛する…という話。 あ

        生産性の罠(限りある時間の使い方/オリバー・バークマン)

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          159本

        記事

          普通じゃないけど(普通の主婦だった私が50歳で東大に合格した夢をかなえる勉強法/安政真弓)

          タイトルのまま、50歳で東大に合格し、本当に入学した主婦の勉強ノウハウが書かれた本。受験に関係のない社会人にも役に立つ!と言われ手に取ったが、読み終わって「これは普通の主婦ではないと叩かれてるんじゃないか…?」と思いレビューを見てみたら、案の定そうだった。(本を売るために編集者が付けたタイトルだから仕方ない。私にはわかるぞ。) まず著者は、現役時代に3回も東大京大を受け、二浪の末に早稲田大学を卒業している。 2人の息子をもち、昼間は主婦、夜は学習塾を運営。 次男の東大受験を

          普通じゃないけど(普通の主婦だった私が50歳で東大に合格した夢をかなえる勉強法/安政真弓)

          戦争の行方(半導体戦争/クリス・ミラー)

          私は投資歴10年を迎えるが、ここ数年最もホットな半導体という分野についてあまりにも知らなすぎる…と思っていた矢先、これさえ読めば歴史が全部わかると聞いて手に取った。 1958年、グローバル化という言葉が生まれるはるか以前より、半導体のをめぐって世界中で金と技術が行き交っていた。国際政治の形、世界経済の構造、軍事力のバランスを決定づけ、私たちの暮らす世界を特徴づけてきた立役者は、半導体なのだ。 黎明期 事の起こりは、民間企業ではなく国防総省で、1965年時点、生産された集積

          戦争の行方(半導体戦争/クリス・ミラー)

          私の不幸は私が決める(慣れろ、おちょくれ、踏み外せ/森山至貴×能町みね子)

          クィア・スタディーズの専門家・教授であり自身もゲイである森山氏と、以前ここに書いた『結婚の奴』の著者であり、トランス女性である能町氏の「性と身体をめぐるクィアな対話」をまとめた作品。 ※クィアという言葉は、日本語でいうオカマ・変態に近い侮蔑語である。ただ、本来は侮蔑的に使われていた「変態」が、自虐的に使われることでメジャーになっていったように、ネガティブなニュアンスが取れた状態でじわじわと浸透しつつある。 ・朝井リョウ『正欲』との比較 私はフィクションである『正欲』と、

          私の不幸は私が決める(慣れろ、おちょくれ、踏み外せ/森山至貴×能町みね子)

          許しがたいオチ(5A73/詠坂雄二 )

          ※ネタバレ含みます※ 5人の連続した自殺には、ある共通点があった。 それは遺体のどこかに「暃」というタトゥーシールが貼られているというもの。この「暃」という漢字は、JISコード「5A73」で登録された”意味をもたない漢字”、すなわち幽霊文字である。 この文字の意味するところは何か?5人の関係性は? 2人の刑事が、事件を追っていく。 アメトークの読書芸人の回で紹介されていた作品。 設定が抜群に面白く、徐々に明らかになっていく5人の関係性や、「暃」の意味を様々な角度から考察す

          許しがたいオチ(5A73/詠坂雄二 )

          抽象化と転用(メモの魔力/前田裕二)

          2019年最も売れたビジネス書らしい。 SHOWROOMの前田社長、そうえいば最近見ないな。SHOWROOMはいまどうなっているのだろう?と思い調べたら、なかなかの赤字決算続きだった。 新しいSNSや配信サービスが増えすぎたいま、ライブ配信ビジネスでどうやって稼いでいくの…?とSHOWROOMの今後が気になりつつも、この本自体はなかなか面白かったのでメモ(紙じゃなくてすみません)。 ・メモ魔になれ 具体的なやり方は、ノートの左側に、心に引っかかった「ファクト」を書き、右

          抽象化と転用(メモの魔力/前田裕二)

          腹腔鏡手術で子宮筋腫を取った記録

          1年ちょっと前、健康診断のついでに受けた子宮頸がんの検診で、子宮筋腫があると言われた。 症状がなかったので数ヶ月は経過観察をしていたが、筋腫は生理のたびに大きくなり、一番大きいものが8cm近くになったので、やはり取ることにした。(あまり大きくなると、開腹手術になるから) 5泊6日の入院で腹腔鏡手術を受けた。 誰かの、あるいは再発した時の自分のためになればと思い、簡単に記録しておく。 腹腔鏡手術とは、お腹をガスで膨らませ、臍からカメラを入れ、腹を数箇所切って筋腫を取り出す手

          腹腔鏡手術で子宮筋腫を取った記録

          言語の人格(語学の天才まで1億光年/高野秀行)

          早稲田大学探検部出身の作家が、25の言語を学ぶに至る過程を記したノンフィクション。著者は言語オタクではなく、「コンゴの幻獣を探す」「アヘンケシ栽培をする」といった風変わりな目標を達成するための手段として、現地の言葉を学ぶ必要があったと主張する。(が、この本を読んだ人のほとんどは、彼を語学の変態と位置付けるのではなかろうか) 1980年代の若者の勢いを感じさせる冒険譚として、また、テキストはおろか文字さえ持たないマイナー言語の学習方法を知る言語学入門として、とても面白く読めた。

          言語の人格(語学の天才まで1億光年/高野秀行)

          ストーリーテラーを信じるな(ストーリーが世界を滅ぼす/ジョナサン・ゴットシャル)

          ストーリーテリング(物語化)のおかげで、文明は発達した。物語には人の思考と行動を大い変える力があるが、ほとんどの人はその影響力に無自覚で「自分は物語の語り手になびかない」と考えている。ここに、物語の危険性がある。 具体的には、以下の通り。 ・語らず、示せの科学 アーネスト・ヘミングウェイにこんな逸話がある。(ただし現在は、ヘミングウェイではないという説が濃厚) 友人たちとレストランにいた彼は、酔った勢いで「自分の筆力をもってすれば小説1冊分の力をたった6語に込められる」と

          ストーリーテラーを信じるな(ストーリーが世界を滅ぼす/ジョナサン・ゴットシャル)

          雑誌のポテンシャル(「若者の読書離れ」というウソ/飯田一史)

          子どもの「読書離れ」は、実は過去の話である。 本離れが進んだのは1980年〜90年代のことで、官民が連携した読書推進運動のおかげで2000年代にはV字回復を遂げた。 読書離れが進んだのは、ラノベと雑誌だ。 文庫ラノベ市場は2013年以降の約10年で半減以下となり、中高生の読書調査で名前があがることもなくなった。これは、ウェブ小説の人気作品の書籍化(=なろう系)が急速に増えた結果、既存の文庫ラノベレーベルもなろう系を読むような大人向け作品を増やしたことによる10代の客離れが原

          雑誌のポテンシャル(「若者の読書離れ」というウソ/飯田一史)

          早押しという競技(君のクイズ/小川哲)

          ※ネタバレあり※ 優勝賞金1千万円、早押しクイズ界のM-1的な番組「第1回Q-1グランプリ」に出場した主人公のクイズオタク・三島。最終決戦まで勝ち進み、イケメン天才タレントの本庄絆と対戦することになるが、アナウンサーが最終問題を一文字も読み上げる前に本庄がボタンを押して回答し、敗戦する。 なぜ本庄は問題が読み上げられる前に回答できたのか?ヤラセか?魔法か? という”クイズ”の答えを紐解いていく、ミステリー仕立ての小説。 早押しクイズには、オリンピック的な競技性がある。 最

          早押しという競技(君のクイズ/小川哲)

          地頭のいい人(地頭力を鍛える/細谷功)

          ネットで検索すれば一瞬で答えが引き出せるようになって久しい昨今、「考える力」が低下している。ネット検索中毒から脱するべく、自らを羽交い絞めしてでも検索をやめて、立ち止まって考える癖をつけなければならない。この考える力を「地頭力」と定義したとき、地頭力強化のための便利なツールが「フェルミ推定」だ。 ※ちなみに地頭の良い人にも、記憶力のいい人(物知り)、コミュ力が高く立ち回りの上手い人(芸人)など種類があるが、ここでは問題解決のためのWhyを考えられる人(数学者や棋士)タイプを指

          地頭のいい人(地頭力を鍛える/細谷功)

          「無」から「有」を生み出す罪(ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語/品田遊)

          「人類を滅亡させるべきか否か」という問いについて、10人が議論する様子を描いた作品。それぞれ違った(そして極端な)価値観を持ち合わせた10人が、一瞬で人類を滅亡させる力をもつ魔王に命じられ、答えを出そうとする。 この設定だけ読むと荒唐無稽な感じがするものの、本気で相手を論破し合うハイレベルなディベートが延々続くので、めちゃくちゃ面白かった。これを一人で書き上げた作者、頭の中どうなってるんだ。すごい。 登場人物は以下10人。 はじめ、人類滅亡に賛成するのは、自分の人生が辛い

          「無」から「有」を生み出す罪(ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語/品田遊)