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旅で磨こう「文化力」

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「大人の心は、いつも発見の旅を待っている」。そんな旅のヒントを、これまで体験した内外の旅を通じ伝えたい。
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旅で磨こう「文化力」 始めます

#旅行 #紀行 #文化力 #エッセイ  世界を席巻した新型コロナ禍で、増え続けていた海外への旅は、すっかり冷え込んでしまった。されど旅の魅力は色褪せることはない。旅は発見と感動を与え、好奇心を満たしてくれる。さらに旅によって、「文化力」を磨くことが出来る。私にとって、旅は生きていることの確認の場であった。智が満ち、歓びの原動力となる、そんな旅を、生ある限りこれからも続けたい。気障に言えば、「大人の心は、いつも発見の旅を待っている」。そんな旅のヒントを、これまで体験した内外の

人の死を見つめた旅、インドのベナレス巡礼者が求める人生の最後、河畔で焼かれ骨灰が川へ

 一枚の写真の前でくぎづけになった。「藤原新也の聖地 旅と言葉の全軌跡展」(2004年、朝日新聞社主催)を見た時のことだ。その写真には、人間の死体を犬の群れが食べている光景が撮られていた。目を背けたくなる作品は、まぎれもなくインドのベナレスで撮った現実の一コマであった。写真には「人間は犬に食われるほど自由だ」のタイトルが添えてられていた。  藤原はインドを長く放浪した写真家で知られている。文章も達意で、小説家であり思想家でもある。展覧会の図録にはこんなコメントを綴られている

「砂漠の美術館」中国の敦煌は世界の宝 窟の数は1000以上も、壁画や塑像に加え古文献

    甘州から粛州までは五百支里(編注・一里四百-四五十メートル)、約   十日間の行程である。水の涸れた川の岸に露営した翌日から、部隊は細   かい石の原へはいったが、その石の原は進むにつれて次第に沙漠の様相   を呈して 行き、終いには全くの沙漠に変わってしまった。行けども行   けども一木一草なく、沙の原だけが果てしなく続いて遠く天に連ってい   た。馬は沙中に脚を埋めないように蹄(ひづめ)に木履を履かされ、駱   駝は蹄を※牛(やく)の皮で包んでいた。  (講談社

神秘と謎に満ちた古代エジプトを再訪 ピラミッド圧巻、ナイル川流域の古代遺跡も驚嘆

 エジプトの旅の続編で、2003年12月のシナイ半島訪問後、12年の時を経て2015年9月に再訪した。ギザのピラミッドから2キロの近くで建築中だった大エジプト博物館は、新型コロナウイルスの感染拡大で何度も延期され、2024年春に開館する。世界遺産のピラミッドの観光と、《ツタンカーメン王の黄金のマスク》を展示するエジプト考古学博物館の鑑賞は当然として、2度目の旅のハイライトは、クルーズによるナイル川の上流にあるルクソールやアスワン、アブ・シンベルなど古代エジプトの遺跡めぐりだっ

初めてのエジプトはモーセのシナイ山 敬虔なイスラム教国家に旧約聖書の世界

 7000年前、世界最初の文明を拓いた古代エジプト。悠久の歴史を持つエジプトへの関心は高く2度旅した。その魅力は、謎に満ちた巨大建築物のピラ ミッドだけではない。今回はシナイ半島を取り上げる。エジプトはスエズ運河を挟んでアフリカと中東に領土を有する。中東ではイスラエルとパレスチナのガザ地区に国境を接し、昨年末からの中東の戦乱ではガザへの救援物資が国境の検問所に運ばれていた。約20年前の2003年12月、モーセが十戒を授かったとされるシナイ山に登り、ご来光を仰いだ思い出が今も

かつて日本の統治下、“有事”懸念の台湾今や世界トップの半導体、観光新名所も次々

 近年、気になるニュースに“台湾有事”がある。中国政府は、台湾はもともと中国の領土だとして、必ず統一すると主張してきた。中国が軍備増強を図り国力をつけるなか、軍事力を使ってでも台湾を統一するという構えを見せるようになっている。これに対し、アメリカは「中国が台湾に侵攻したらアメリカは軍事的に対応する」とする考え示し、平和的な関係を望む日本も、その立ち位置が問われている。台湾は、かつて日本統治下にありながらも親日的だ。中国大陸から分かれ、政治や行政、経済も独自路線を貫き、アジアの

日本と古くから歴史の交流、芸術と文化のオランダ 数多くの名画を遺し、37歳で自殺した薄幸のゴッホ

 オランダは、江戸・徳川幕府の鎖国時代も長崎湾に浮かぶ扇型の人工島“出島”を通じて、唯一交易を続けた国だ。西洋の様々な物品だけでなく蘭学が普及し、オランダは“新しい世界への窓”となった。歴史的に、鉄砲やキリスト教伝来のポルトガル同様に、関心を寄せていた。すでに4半世紀も前になったが、2000年8月、旅行社が企画した「名画と古都」のツアーに出かけた。 1987年に安田火災海上保険(現・損保保険ジャパン)が、ゴッホの代表作《ひまわり》(1888年)を53億円で落札して世間の耳目

大航海時代の残影、ポルトガルを初訪問華麗な装飾の修道院や独自の文化的建造物の数々

 ポルトガルへの旅は、私にとって56ヵ国目とはいえ、いつか訪ねるであろうと確信していた。幼い頃学んだ鉄砲やキリスト教伝来の歴史の記憶や、7年前に隣国のスペインを旅していて「次は」との思いもあった。15~17世紀、未知の世界に勇躍し一大海洋国家を築いた大航海時代の輝かしい歴史の残影と、華麗な装飾の修道院が点在し、独自の文化的建造物や景観は、大いに好奇心を満たしてくれた。加えてキリスト教の三大聖地とされるスペインの「サンティアゴ・デ・コンポステラ」に足を延ばせたことも有意義であっ

人気の世界遺産、モン・サン・ミシェル環境復元や修道院修復、観光客も復調の兆し

 1157件を数え、増え続ける世界遺産(2023年現在)。その中でも人気の高いフランス の「モン・サン・ミシェルとその湾」(1979年登録)は、環境復 元計画で橋が架けられ、修道院では現在、修道院などの修復作業が行われている。ここ数年、新型コロナ禍で観光客数は低迷していたが、やっと復調の兆し。海に浮かんでいるように見える岩山に聳える驚異の建造物を見て、その美しさと同時に、先人たちが築いてきた数奇な歴史に思いをはせ、大いに感動を覚えた。私が訪れたのは2010年5月になり、現地

急テンポで近代化のマレーシアを再訪  多民族、多宗教が共存、リゾート地としても注目

 赤道近く大自然が広がるマレーシアは、マレー半島と世界最古の熱帯雨林が広がるボルネオ島北部から成り立っている。近年、急テンポで近代化が進むとともに、東南アジアの中でも指折りのリゾート地として注目される。一方で、多民族国家であり、民族や宗教な文化の多様性にあふれる。2008年3月に初めて訪れ、首都クアラルンプールを観光し、リゾート地のペナン島にも宿泊した。再訪の機会があれば、「海のシルクロード」の要衝の地、マラッカに行ってみたいと思っていた。東西を結ぶ交易経路であるユーラシア大

かけがえのない文化遺産―アンコール遺跡群 その規模、その造形美、美しい「芸術」に驚愕

カンボジアへの旅は、コロナ禍で入国制限されていたが、昨秋から入国制限を解除している。私が初めて訪れたのは2006年2月末から3月初め。直行便が無いため、行きも帰りも前回取り上げたベトナム経由だった。インドシナ半島にあって、ベトナム同様、長く戦火にまみれていたカンボジアには、世界遺産として有名なアンコールの遺跡群があり、その保存救済のシンポジウムや展覧会にも関わっていただけに、早く現地を見たいと思っていた。このかけがえのない文化遺産に魅せられた写真家と拓本研究者がいた。2人の情

長い戦禍を乗り越え近代化―ベトナム 多くの流された血の犠牲の上に築かれた平和

 ウクライナ戦争は1年が過ぎ、長期化の様相だ。戦争といえば安保世代の筆者にとって、半世紀前のベトナム戦争が頭をかすめる。ベトナムの地が南北に分断されて、東西陣営の軍事衝突が1960年代初頭から1975年まで約15年間も続いたのだ。日米安全保障の下、米軍基地から爆撃機が飛び立ち、ベ平連(ベトナムに平和を市民連合)の「安保ハンタイ」のデモが鮮烈に思い出される。結局、近代兵器を駆使するアメリカが、ベトナム民衆のゲリラ戦で敗れたのだから驚くとともに皮肉な史実だ。ベトナム同様、ウクライ

シルクロードの十字路に歴史の興亡、ウズベキスタン「青の都」サマルカンドで聞いた父と子の発掘ロマン 

 中央アジアのウズベキスタン共和国は、ソ連邦の解体とともに1991年12月に独立した。ロシア依存を脱却し、今回のロシアのウクライナ侵攻でも距離を置いている。日本との関係も良好に進展し、双方が大使館を開設済みで、人的交流も活発だ。昨年、外交関係樹立30周年迎えたウズベキスタンに6度も訪ねている。ユーラシアの東西を結ぶシルクロードの十字路にあるウズベキスタンは、幾度となく興亡の歴史を刻んできた。そして日本への仏教伝来の道でもあった。 未知の地、ローマと漢を結ぶ交易で富を得る 

いくつもの文化・文明が交差した国、トルコアジアとヨーロッパを結び、遺跡の宝庫

 いくつもの文化・文明が交差し重層化してきた遺跡の宝庫、トルコへの旅は宿願だった。ギリシャの詩人、ホメロスの叙事詩『イーリアス』の舞台となったトロイの遺跡や、凝灰岩の台地が侵食されてできたカッパドキアの奇観は一度目にしておきたいと思い続けていた。そしてシルクロード踏査の夢を実現するためにも、アジアとヨーロッパの二つの大陸を結ぶトルコは要所なのだ。2006年12月、16日間かけて六つの世界遺産を中心に巡ってきた。 ■伝説の地トロイは、9層の遺構が重なる  トルコへは関西空港