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読書レビュー:新書「ソーシャルジャスティス」

米国医師として活躍する著者が国内を診るという本。世界の価値観に合っていて、日頃から海外ニュースに慣れている方は読みやすいでしょう。

脳科学や過去の論文を活用しながら、国内のソーシャルメディアで炎上してしまう理由をまず冒頭では解き明かしています。


Gaslighting(ガスライティング)

困りごとを投稿した妊婦さんや被害を受けたSNS投稿に、被害者自身が悪いのではないかと投稿している人を見かけることはよくありませんか。性犯罪の被害者に、当日の服装や態度など(性加害者は服装や態度など関係なく加害します)を批判するような行為を、ガスライティングと言います。

ガスライティング:心理的な虐待やいやがらせなどの被害を受けている人に「実は自分が悪いのではないか」と思わせる心理的な操作法。
傷ついている被害者に周りが「貴方はセンシティブすぎる」など相手の弱さに責任を押し付ける方法なども含まれる。

Gaslightは相手の正常な施行を奪うという意味もあり、DVでよく見られる現象ではあります。

Ad Hominem(アド・ホミネム)

アド・ホミネムとは、主張自体に反論するのではなく、発言社の人格攻撃によって発言の信頼性を失わせるものです。

例)職場で提案プレゼンテーションした女性に対し、主張し過ぎ、言葉がきついなど提案外の人格攻撃を行い、提案内容の信頼性を落とそうとする

本著の中でも、医者である著者に人格否定をすることで著者のワクチンに関する意見の信頼を損なわせようとする行為があったとのことです。

女性の政治家でも、家のことができていないor子ども関連の話題が報道され政治家の発信メッセージが歪められることも見たことはあるのではないでしょうか(対して、男性政治家には真っ当に仕事の範囲内での批判ばかりでしょう)。

Bandwagon(バンドワゴン効果)

SNSでは、いいね!の数や反対意見の数が評価されがちですが、SNS内で人気だからといってその情報の正誤が決まるわけではありません。

バンドワゴン効果:目の前にいる集団の多数票を集めた意見が正しいとする論理の歪み。

自分が知らない分野だからといって、多数決でいいねが多い=正解だと鵜呑みにしないようにするリテラシーが必要です。

Hasty Generalization(ヘイスティ・ジェネラライゼーション)

Bandwagon効果とは逆に、一つか二つの例を見て大きな結論に行き着いてしまう論理の間違いを、ヘイスティ・ジェネラライゼーションと呼びます。早まった一般化と呼び、一つの例で結果に結びつける危険性を示唆します。

グループの中に女性が一人いるからといって、その人が女性全体を代表して発言できるわけでもありません。この組織の中でのマイノリティの割合については、トークニズムとしてこちらのNoteでも案内しています。

論理を捻じ曲げてまで自分を正当化する必要性は何でしょうか。たとえ自分の投稿が論理だってなくズレていたとしても、受け取った相手は傷つくこともあります。カッと感情的にならず、自身の言葉で誰かを傷つける可能性がないか振り返る必要があります。

外的評価と内的評価

著者の息子は、自分を正当化するために誰かを下げても自分の価値は上がらないという真っ当な価値観を口にします。それは正しい一方で、ネット上では誰かをとぼしめることで自尊心を上げたいという思惑があるのではないかと著者は説き、アスリートを例に取り上げてます。

アスリートは、メダルや順位などの「結果」、メディアの賞賛、SNSのフォロワー数などの外的要因を常に求められる立場にあります

このような外的要因を求めることは自然で、選手の活力になることは間違いないでしょう。しかし、外的評価が上がったところで自分自身が自分をどう評価するかの内的評価の上昇に繋がるかというと、関連性はありません。

内的評価:達成感や生きがい、競技に関わる喜び、成長しているという感覚、「自分はこういう人なんだ」と自身をもって言える自尊心
華やかな瞬間が注目されがちなアスリートの毎日は、地味な努力の積み重ねです。そんな一つ一つの地味な努力に価値を見出すこと、それも内的評価の大切な要素です

著者は、内的評価が十分に育たない中で突然注目を浴びたり賞賛される立場になった場合、外的評価と内的評価の乖離に虚しさを感じるアスリートがいると説明します。

これは私の意見ですが、スタートアップの社長にも同様のことが発生します。スタートアップは外から見るほど華やかでもなく、泥臭い仕事が毎日の光景です。そんな中、本来の事業が成り立つ前にメディアからの脚光を浴びてしまうと、内的評価と外的評価のズレが発生し社長がやる気を無くしたり本来の事業目的を見失うことがあります。

外部からの評価なんて移り変わりのあるもので、アスリートにも企業にもスランプはあります。外的評価に依存せず、内的評価を育てる時間を持つことで、誰かを叩くようなことをしないで自分の価値を信じて努力することができるようになると思います。

所感

StopAsianHateなどにも言及し、日本人だと表現しにくい米国の差別について浮き彫りにしてくれる本著。

現代だけでなく、戦後の日本国憲法に女性の権利を記載してくれたアメリカ人ベアテ・シロタ・ゴードンによる自伝も紹介されています。ゴードン氏は、民法を作る日本人男性が無視できないようにと、憲法に女性の権利を具体的に明記しました。
こちらも歴史好きにはたまらない、非常に良い本でしたのでおすすめです。

最後は、MeToo運動で広まった考えである「黙っていることはComplicit(共犯的)だ」という名言を載せておきます。

Silence is complicity
誰かの人権が侵害されている時に、他社が何も言わないことは、人権侵害の共犯になっている

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