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第217話 恩師、安部先生の思い出①


安部先生には、小学5、6年を担任していただいた。

この記事を書くにあたって、ほかの先生も思い出してみた。中学も高校もだ。その結果、「恩師」と呼べるのは、安部先生だけだと、そう気づいて、今、かるく驚いている。

以前記事に書いた、中学時代のM先生も、かなり強烈だったが、いかんせん担任ではなかったので、関りが浅かった。

中学、高校の担任の先生は、ホームルーム以外は『教科の先生』となるので、やはり関わりが薄い。良い先生に出逢ったと思うが、とくに問題もなく卒業しているので、印象に残るエピソードも、あまりない。

それと比べて、小学校の担任は、毎日、そして毎時間、関わる。

2年間、濃厚に関わったので、いくつかのエピソードを思い出した。


◆タバコ

今なら、絶対に許されないが、当時、安部先生は、授業中にもタバコを吸っていた。

先生は、おそらく、35歳以下くらいだったと思う。僕より、20とウン歳年上だから、今は70代後半かな。

安部先生のくゆらすタバコの煙が、窓からの陽光にあたる。吸うまえの煙は、少し青いのだ。そして、吸って吐いた煙からは、その青さが消えるのだ。ただの白い煙になった。少しだけベージュがかった白だ。

当時、その変化が、不思議だったなぁ。


◆耳そうじ

一度だけ、先生が、生徒全員の【耳そうじ】を行なった。

耳かきと綿棒の、両方を用意していた。

僕は、そのときはじめて、乾燥した耳クソではなく、べたついたタイプがあることを知った。

今思うと、この先生の奇行は、『聞こえないほど耳クソが詰まっている誰か』の、救済処置、だったのではないだろうか?

この子、明らかに聞こえていないなぁ。という同級生がいて、親に言うにしても、確かめてからと、そう思ったのではないだろうか。そして、それが『誰』と特定されないように、また、この際だから全員の耳をチェックしよう。

そう考えた気がするのだが・・・。


◆麻雀好き

「どれだけ眠らずにいられるか、知ってるか?」

安部先生が、生徒たちに聞いた。

僕らは、適当に思ったことを言った。そのうち、誰かが「先生は知ってるの?」と聞いた。

「3日」

「どうして?」

「試したんだ。大学時代に」

「へ~」「3日も~」「ヒマだよね? 何してたの?」

「徹まん。ああ、徹夜麻雀」「先生、麻雀が大好きなんだ」

「へ~」

と、なぜか、こんな会話を憶えている。


◆百人一首

第212話で書いたが、百人一首を教えてくれた。

リーグ戦を企画して、運営してくれた。

当時は、『競技かるた遊び』だったが、それでも、文学に触れさせていただいて、今思うと、大変ありがたい。


◆日記

2年間、日記を書かされた。

夏休みなどは、ごっそり書き忘れて、開き直って「書いてません」といっても、許してはくれなかった。

「思い出して、全部書け」と言うのだ。

「3行でもいい。書きなさい」と、粘り強く指示出し続けるのだ。メッチャこりて、以降の長期休みの最終日には、ためにためた日記に、さんざん苦しめられた。


◆いじめ

田舎の少人数の小学校でも、イジメはあった。

絶対権力者の孝則くんが、「こいつを仲間外れにする」と指名し、全員で逃げて、全員で無視して、そのようにイジメて遊ぶのだ。その「こいつ」は、ローテーションで回ってくるのだった。

僕は3年生の夏に転校してきて、佐藤くんが4年生で転校してきた。だからか、僕と佐藤君は、回ってくる回数と、回ってきたときの期間が長かった。

5年生の後半だったと思う。僕の番になった。

4年生のときは、仮病で学校を休んだが、もう仮病は使いたくなかった。かといって、学校に行っても、みじめな思いをするだけ。

そこで僕は、お母ちゃんに相談した。

お母ちゃんは「学校に電話する」と言う。「親に言ったってバレたら、もっとイジメられる」と訴えた。お母ちゃんは、「それもそのまんま、安部先生に相談する」と言った。

安部先生は、「しばらく様子を観察しますから、学校に来させてください」「お母さんから電話があったことは、決して言いませんから」と言ってくれたらしい。

そうしたら、もう、無視されていても、なんか平気になった。そのとき、たまたま図書室から借りた、シャーロックホームズが面白くて、僕は図書室にあるシャーロックホームズシリーズを、むさぼるように読んだ。(結局、全冊読んだ。僕のミステリー好きの原点は、ココだ)

だから、昼休みに遊び相手がいないことも、気にならなくなった。

僕は、もうイジメられているという自覚が薄くなっていた。そんなタイミングで、安部先生が動いた。お母ちゃんが電話してから、1ヶ月くらい経ってたんじゃないかなぁ。

ホームルームで、「最近、気になることがある」と、先生は切り出した。

「昼休み、豪とじょーじ。この2人が、いつもみんなと別だが、なんか理由はあるのか?」

ちなみに、豪くんは、下級生と遊ぶのが好きだった。今でいうところのオタクで、はなっから、運動的遊びには、興味を示さない人物だった。自分で描いたマンガを、下級生の気の合う子に、解説するのが好きなのだ。

つまり豪くんは、イジメられているのではなく、自ら単独行動を、常にとる人物だった。孝則くんも、豪くんはイジメ甲斐がないのがわかっているからか、いつもターゲットにしなかった。

この、ホームルームがどうなったのか、記憶がない。そりゃあ、「孝則くんの命令で、今はじょーじくんを無視しています」と説明する者が、現れるはずはない。

ただ、普通に声をかけられる、キッカケになった。

翌日からは、普通に、みんなと話し、みんなと遊んだ。


◆自由

男子が、騒いでいた。

「安部先生は、ひいきしている」

良く、意味はわからなかったが、どうやら、佐藤くんが言い出しっぺのようだ。佐藤くんは、大好きなクラスのマドンナの由香ちゃんに、しつこく「スキだ」と言い寄ってたらしい。

由香ちゃんが、迷惑で、先生に相談した。

先生が、佐藤くんに注意をした。佐藤くんが「ひいきだ」と文句を言ってる。

そんな感じがした。

こんなときにも、クラスの男子の動きは、絶対権力者の孝則くんの意見で決まる。

「そうだ、ひいきだ」と、孝則くんが言った。

すると、お調子者の治くんが、「そんな、ひいきする先生の授業は受けたくない」と、ヨイショ発言をした。

いつの間にか、男子対女子の構図となり、男子は「オレたちは自由を求める」「先生の授業は拒否する」と、なんか、変に盛り上がった。

要は、誰も、孝則くんには逆らえないのだ。

ちなみに、こんなときも、豪くんだけは、治外法権にいる。

孝則くんが号令をかけた。

「次の授業で、先生に文句を言う」「自由を求める」と。でも、孝則くんが言い出しっぺにならないことは、全員が知っていた。


次の授業が始まるとすぐに、「先生はひいきしている」と誰かが言った。次のターゲットにされたくないので、それぞれが似たような文句を言った。「自由が欲しい」と、なぜか、そんな主張になっていた。

先生が、「よし、わかった」「わたしの授業がイヤなんだな」と言った。

「幸雄、どうだ?」

「はい、イヤです」

「よし、今日から自由だ。廊下に出て良い」「教室から出なさい」

「はい」

「じょーじ。どうなんだ?」

「僕も自由がイイです」

「よし、教室から出なさい」

なぜか、これ以降は、誰も教室から出てこなかった。

話が違うじゃないか~!


それから何日か、僕と幸雄くんは、授業に出ないで遊んだ。昼休みはみんなと遊んだ。学校に登校して、1日中遊んで帰った。

誰も、孝則くんは責めない。

そして、僕と幸雄くんが、授業中の時間は、何をして遊んでいるのかを聞いて、そして笑った。

この、自由を求めたクーデターは、あっけない終わりだった。何かの授業を恨めしそうに、僕と幸雄くんがのぞいた。

それを見た先生が、「授業を受けたいのか?」と聞いてくれたのだ。

「はい」✖2

「自由がいいんじゃなかったのか?」

「自由は、もういいです」✖2

「そうか。なら授業に加われ」

こんな感じだった。


◆〆

書いているうちに、いろいろと思い出して、けっこうなボリュームになった。

まだ、思い出深いエピソードがあるので、明日の記事で書く。


書いていて、思った。

ゆかりちゃんは、どんな小学生だったのだろうかと。

よく僕は、「校庭ばかり眺めて、チョウチョを見てたんやら~」とイジる。授業をちゃんと聞いていなかったんだろう?という、ちょっと小バカにした発言なのだ。

僕は、「そんなことない! ヒドイ!」となって、「そうか、そうか、ゴメンゴメン~^^」って、そんな予定で言っているのだ。

現実は、「チョウチョなんか見とらん。トンボやて」と、真面目な顔で回答される。

これが、ウケ狙いではなく、ゆかりちゃんは、ただ単に、事実を語っているのだ。だから、メッチャおもしろいのだ。


僕は、そんなゆかりちゃんが大好きなのだ。

昨日の記事の添い寝は、添い寝じゃなく、「じょーじが、二度寝して遅刻しないように、見張ってあげてたの」ということらしい。

照れ屋、なのだ。

僕は、そんなゆかりちゃんも大好きなのだ。




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