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【読書】混乱、葛藤、矛盾。「愛と家族を探して」(佐々木ののか著)

「愛と家族を探して」(佐々木ののか著/亜紀書房)を読み終えた。自分の中にあるいくつもの矛盾する価値観を突きつけられ、混乱した。それでも読み進めずにはいられなかった。

 本には著者を含めた8つの「家族」をめぐる話が収めされている。いや、「家族」とくくっていいのか分からない関係性だ。法律婚ではなく契約による結婚、精子バンクを利用して子どもを産んだ女性、恋愛関係ではないけれど同性パートナーシップ制度の利用を考える女性2人、血縁以外の大勢の人々で子どもを育てる共同保育など。

 私はこれまで「家族は色んな形があっていい」と思ってきたし、選択的夫婦別姓には賛成の立場。血縁が全てではない。血縁に縛られることで起きる不幸も重荷もある。生きる上でパートナーがほしい気持ちもよく分かる。

 でも、だ。この本に出てくる事例やインタビュー内容の全てに共感できるかと言えばそうでもない。抵抗感がある事例もある。

 例えば親以外の大人も一緒に暮らして子どもを育てる共同保育。血縁だけに縛られず「子どもはたくさんの大人の中で育った方がいい」という考えは素晴らしいと思う。けれど、じゃあ私が幼い娘を連れてそうしようとは思えない。家族以外の大人が出入りするのは正直、怖い。息子じゃなくて、娘ということもあるだろう。一方で「家族」というくくりに絡めとられて社会から孤立して追い詰められていく親子がいるのも事実で、それなら、他の人々が入った方がいい。けれど「暮らす」となるとまた別なんじゃないか。

 こうやって思考が行き来してしまうのだ。あれ?私の中にも「家族はこうあるべし」という固定観念があるんだ、と突きつけられる。

 読み進める中で「普通の生き方してるアンタにはこの苦しみ分かんないでしょ」と言われているような気になって辛かった。うちはステップファミリーだったけど、物心ついた頃には落ち着いていたし、「両親と私」で育ってきた。そしていまは法律婚して子どもがいる。形だけ見ればまさに「普通の家族」。でも、だからぬくぬく育ってきた訳じゃないし、家族というものに対する葛藤や苦しみも抱えてきた。

 読み終えて感じたのは、別に全部に共感や理解はできなくてもいいんじゃないか、ということだった。自分と違う感性や考え方だからといって自分に実害が出るわけではない。「自分はそう思わないけど、それも別にいいんじゃないの」くらいの距離感がとれればちょうどいい気がする。自分と違うからといって排除したり攻撃したりするのは止めるべきだけど、無理に分かったふりをしたり、共感できない自分を「私は固定観念に絡めとられた凡庸な人間なんだ」と責めるのもおかしな話だ。どっちの価値観が良い悪い、ではない。

 自分だって、働きながら子どもを育てたり、双方転勤族ということで、批判されたり「大丈夫なの?」「やっていけるの?」と言われたりして、その度に嫌な思いをしている。「うるせぇな、一ヶ所に両親と子どもがいるだけが家族じゃないし、そういう家の子どもだって問題抱えることもあるじゃん!ほっとけよ」といつも思ってきた。もちろん、本当に共感や理解してもらえたら嬉しいけど、そっとしておいてほしい。

 「家族」について自分の価値観や経験と向き合わずにはいられない苦しい本だけれど、また読み直したいと思う。その時には、また今回と違う感想になるだろう。

 

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