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「居場所」から帰りたい

帰りたいのに、帰れない。
自宅でやらないといけないことがある!

 特別養護老人ホームで介護職をしていた時には、入居者の言動で良くありました。夕方以降になると、施設の入り口近くやエレベーターの前で、家族が迎えに来ることを待っている。たまに来る面会者や業者の出たり入ったりのほんの少しの空間から出ていってしまうこともありました。

 まず、「帰宅願望」の基本的なところから、

認知症のBPSD(心理・行動症状)のひとつに帰宅願望があります。「家に帰りたい」と訴えたり、実際に家を出て行ってしまう症状です。
自宅以外の場所で「帰りたい」という欲求が出ることはもちろん、家にいても帰宅を訴え、時には外に出てしまう場合があり、介護者は対応に困ることもあるでしょう。
しかし、落ち着かない環境にいる時に、安心できる場所に帰りたいと考えるのは自然なことです。認知症の方の帰宅願望もそれと同じと考えてみましょう。

 こうやって、書かれているものの、障害者支援の仕事もしていくと、高齢者だけの問題ではなく、障害者にも当てはまるなと感じています。障害の種別も年齢も関係ありません。

 高齢者による帰宅願望と似ているところもありますが、障害者の場合では、帰る場所が多様だということが特徴のような気がしています。「自宅」といっても「実家」のことではなく、「以前暮らしていた場所」ということもある。だから、他人の家かもしれないし、どこかの公園かもしれない。

 高齢者入居施設では、帰宅願望のある入居者に対しては「気を紛らわすように」「しっかり話を聞いて安心させるように」と言われていますが、障がい者の場合では、「話を聞いて」「気を紛らわす」ことは難しいように思っています。それは、話をすればするほど、記憶がどんどん明らかになっていくように思っています。話すことがダメとは思いませんが、思い出した記憶について、他の利用者、入居者にも広がっていくことがある。

「グループホームに帰りたくない」

 障がい者ではグループホームや障害者入所施設に入居していても「自宅に帰りたい」「グループホームに帰りたくない」と思うこともある。

 これまでの相談支援をしてきた利用者の中でも、グループホームから通所施設に通っていたけれど、活動が終わってもグループホームに帰ってこない。出かける前には普通に出かけたはずなのに『何処に行ったのか?』と心配する。本人の出掛けそうな場所、近くのスーパーなどを探すが、見つからない。
 結局は、約3時間後に、実家(入居する前に暮らしていた家)の近くをウロウロしていたところを支援員に発見されて、戻ってきたこともあります。また、2日くらいしてから、ふらっと帰ってきたこともあります。
 理由を聞いても話してはくれなかったけれど、見つかった時は必死な形相だったそうです。その形相は「行きたい場所が見つからない(行けない)から」なのか、「自分の今のいる場所や状況に気が付いて、今の住まいに戻らないといけないから」なのか。

「施設」だから嫌なのか?

 このことを問う前に「何で帰りたいのか」とともに「本人にとってここは何所なのか理解できているか」を考えてみてはどうだろうか?
 例え、通所施設でも入居施設でも相談機関でも、この場所が本人にとっての「快」「不快」でいうところの「不快」であるのならば、安心できる場所に行きたいのは普通のことだと思います。
 逆に言ってしまうと「自宅」であっても、自分の居場所でないと思ってしまうと「帰宅願望」=「徘徊」につながってしまう。

行動力

 高齢者も障がい者も思い込んだら、一直線ということは同じです。

 それが、例え通所中であっても、少しでもスキがあれば歩いて自宅に帰ることがあります。
 また、連絡手段(電話番号など)や移動手段(タクシー、電車など)が分かっていれば、出かけてしまうこともあります。金銭的なことに関しては、自分のおこづかいで何とかするかもしれないし、他の利用者から借りることもあるかもしれな。ただ、ばれてしまったらますます金銭管理は厳しくなる。
 また、家の近くまで行けたとしても、家自体がなかったり、家族が拒否していることもあるから、ますます行動が大げさになっていく。家族(家主)が帰宅したら、車庫の中にいた、ということもあるかもしれない。

 でも、そんなことがあっても「自分を止めることができない思い」があると思います。必死になっているということは、その反動(燃え尽き症候群みたいなもの)も気になってしまいます。

本人の思い

 「なんでそんなところまで行ったの?」と聞きたいけれど、本人は答えたくないことでもあると思います。
 「自宅」があるかどうか、ということも考えてしまいますが、本人には忘れてはいけない場所ということは支援者は理解しないといけない。(今は)自宅には帰ることはできないことは分かっているものの、「自分はここにいるべきではない」と思ってしまうような雰囲気を感じ取ってしまうほど、自分を大切にしていると思います。

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