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「知覚の本質は,脳の物語製造能力...?→!」という本を読んだ

『心はこうして創られる「即興する脳」の心理学』を読んだ.本書の結論には,本当にしびれた.知覚や思考というものは,私が思っていたものではなかったようだ.


知覚と思考の本質は脳の物語製造能力…?

脳は並外れたストーリーテラーで,つぎつぎと物語を生産する.このことは,いろいろな本に書かれていて直感的に理解していた.脳が創り出す思考や感情という物語に,振り回されすぎることなく,行動することの大事さを感じている.

驚いたことに,この物語製造能力こそが知覚と思考の本質であると,本書は主張する.知覚と思考が物語製造の結果だと.はじめは,何を言っているのかよくわからなかった.知覚は,見たまま聞いたままではないのか.

知覚は,見たまま聞いたままではないのか

どうやら違うようだ.知覚は,見たまま聞いたままではない.私たちは,脳という推論マシンが創り出した,現実を感じて生きているようだ.本書では,このことを示すさまざまな分野からの証拠が展開されている.認知科学,心理学,人工知能,そして恐ろしすぎる昔の脳外科手術など.

一例として,視覚についての意外な事実を紹介する.私たちの眼の視細胞は,色を感じる錐体細胞と明暗しか感じない桿体細胞の2種類で構成されている.そして,色を感じる錐体細胞は,中心付近にしかない.そのため,視界のほとんどはモノクロで感じているはずである.にもかかわらず,視界はカラーに感じる.どういうことだろうか.

本書には,上記の例のような直感に反する知見がたくさん紹介されていて面白かった.特に以下の事実を検証するための実験の数々には感動した.

・脳が解釈できるパターンは一度に一つだけ.(色は一色ずつみてる)
・解釈できなかったパターンは記憶されない.(サブリミナル効果はない)
・使うネットワークがかぶらなければマルチタスクはできるが,シングルタスクのときより反応が遅くなる.(しゃべりながらの車の運転はできるが危険)
・選択,行動,感情の理由を知ることはできない.ただし,即興で説明できてしまう.

しびれる結論

本書の結論には,本当にしびれた.知覚や思考というものは,私が思っていたものではなかったようだ.

本書全体の論理展開はこうだ.まず,人の知覚,思考,感情,行動といったものはスカスカであるという証拠を,これでもかと示す.そして,これほどスカスカであるにも関わらず,なぜ世界は理路整然として感じられるのか.それは脳が推論マシーンであり,意味の解釈・創造を繰り返しているためだ,と結論づける.

この結論にはしびれた.「知覚や思考は,脳という推論マシーンによる,意味の解釈・創造のサイクルである(5~50Hzくらいの)」という結論.たしかにそう考えると,さまざまな事実とつじつまが合う.知覚と思考についての,現時点での有力な説だと思う.

おわりに

私の頭の中に入っている脳という臓器.この正体を知れば知るほど,人って面白いなと思う.

本書によると,脳はスカスカでデタラメの即興家である.あらゆることに意味を見い出そうとし,意味を見い出せないときは,新しく意味を創り出す.ときには事実を捻じ曲げてでも.

思えば,子供のとき,まさにこんな感じだったな.自由に意味を創り出し,妄想のなかで遊んでいた.

それにしても,意味を創り出すってすごいな.これが,パターンの外挿という,AIには難しいことを可能にしているのかな.パターンの外挿はどの程度おきるんだろう.ネットワークの物理的な近さは関係するのだろうか.そもそも,意味のあるなしの判断はどうやっているんだろう.

知りたいことがたくさん出てきた.この勝手に湧いてくる,知りたいという興味も,脳が創作しているということか.では,知りたい知りたくないの判断はどうやってるんだろう.

本書を読み,脳が推論マシンなのは納得できた.では,推論の基準はどうなってるんだ.ということで,次は『脳の地図を書き換える』を読んでみようと思う.

以上.

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