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(17) 二刀流 その2 

ノブちゃんへ (CC月子さん)
 
 ノブちゃんには、月子さんのことを説明しなければならないでしょうね。ノブちゃんにも正直に話したいのです。これまでまったく話せなかった分、自分の気持ちを素直に書きたいと思います。
 あなたも知っているように、彼女は自分の自宅近くのイタリアワインとチーズの専門店に勤めているソムリエでした。月に1回はテーマ別に試飲会が開催され、時間があれば参加していました。
 ある晩、試飲会が終わり、数人でワインバーに行った後、たぶんクリスマスシーズンだったせいもあるでしょう、二人とも一人で帰るのが寂しかったのか、それともアルコールのせいだったのかホテルで一夜を過ごしました。
 しかし、2回目からすでに二人の関係はギクシャクし、気まずいものになりました。というのは、自分は真面目に付きあってもいいと思っていたのですが、彼女のほうが違いました。自分は彼女にとっての生涯の伴侶ではなかったのでしょう。
 自分たちは友だち、良く言えば「愛人」、悪く言えば「セックスフレンド」でした。二人とも熱愛していたというよりも、時々ベッドを共にしたという関係でしょう。自分は彼女にとって年上過ぎたのです。言い換えれば、その壁を乗り越えるほど自分たちは愛しあっていなったのかもしれません。
 月子さんとの関係にも将来はありませんでした。彼女とも20歳以上の年齢差があり、彼女は結婚、できれば子供をほしがっていました。生涯の伴侶、パートナーをほしがっていたのです。その彼が見つかれば、自分たちは別れるはずでした。
 でも、月子さんとの関係は単にセックス目当てではありません。スレンダーでいながら胸はふくよかで、正直言って彼女とのセックスは濃厚で激しく、楽しいものでした。
 それだけではありません。彼女は背が高く、すらっとしていて、白黒のソムリエの服装がよく似合っていました。それに胸に輝く金色のソムリエのバッジ。「ネットでも偽物を買えるのよ」と、微笑みながら誇らしげに付けていたあのバッジ。
 月子さんは性格も芯が強く、店やお客さんの間では気が強いという評判でした。ただ、それは彼女の一面でしかなく、二人でいるときにこぼすあどけない笑顔が大好きでした。彼女と一緒にワインを飲む一時は自分にとってかけがえのない癒しのときでした。
 

二人が好きだったスペインの代表的な白ワイン、アルバリーニョ。産地はもちろんスペイン リアス・バイシャス。エチケットがどこか北斎のあの波のようで。。。

 それに月子さんは一見気が強いように見えてもプライベートでは甘えん坊で、彼女のこの落差、ギャップが好きでした。自分だけに素顔を見せてくれていることが嬉しかったのかもしれません。他の誰にも見せない本当の顔を独占できたことが自分の心を揺さぶったのかもしれません。
 言うまでもなく、男女の関係にはさまざまな形があります。男性が30歳以上年上の年齢差のカップル、逆に女性のほうが年上のカップル、何年も同棲しているのに籍も入れない、結婚式も挙げないカップル、伴侶がいるのに愛人関係にあるカップルなど、恋の形は千差万別でしょう。月子さんと自分の関係はオープンにしていませんでしたが、自分の心の奥底でもし彼女が妊娠したなら、結婚もあり得るかもしれないと内心妄想していたのかもしれません。
 。。。。。そんなことを夢想していた最中にも、自分はノブちゃんと恋愛をしていたのです。月子さんとの関係がどこか冷めていたのは、たぶんそのことと無関係ではないでしょう。時々、自分は二重人格者、ないしは多重人格者のド変態ではないかと疑い、自己嫌悪に陥ることもありました。
 女も男も好きなバイセクシャル(いわば二刀流)で、同時に二人と関係を持っていたなんて、あなたは本当に身勝手ね、と月子さんもノブちゃんも呆れるかもしれません。いや、それどころか絶対に嫌われるでしょう。信じてもらえないかもしれませんが、自分は二人のことが好きだったのです。それが自分の誠、真実だったのです。大好きだったのです。
 でも、自分の行為のなかでもっとも軽率だったのは、そう、本当の自分の過ち、いや、たぶん自分が犯してしまった罪は二人を紹介したことでしょう。
 そして結果的に月子さんとノブちゃんを傷つけてしまい、取り返しのつかない悲劇を招いてしまったことでしょう。夢にも思っていなかったのです――まさかあなたたち二人、月子さんとノブちゃんがつきあい始めるなんて。。。。。
 また、メールします。
 (続く)
 
 
 

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