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良薬は口に苦し。馬鹿舌を除けばの話だが。

奥さん、やめた方がいいですぜ。悪ぃことは言わねぇ、そいつはマズすぎる。現にアンタの旦那さんもこれ食って倒れてんだぜ!?休日を延ばしたいのならもっとまともな方法を選びな!さもなくば3日は動けねぇや。

抑制する声に耳を持たず、私はその緑のたらこパスタを食べる。「やめなって!!!!」青ざめる旦那の友人。いいや、美味い。たらこのピリ辛が舌の上で踊る。

私の能力は、食べたもの全てを美味しくする力だ。


昔っから残飯を好んで食べた。親戚一同ドン引き、しまいには手羽先の骨だけを食べ始めた。主食はポリポリした硬い茹でる前のそうめんだ。できることなら虫だって食べたい。もっとも、食べるものの見てくれは変わら無いのだが。起き上がる旦那。「お前…また食べたのか?」「そうよ」微笑む旦那。私だって美味しくて口角が下がらないわ。

「いや!こいつは驚いた!ユウジ!アンタの奥さんやべぇな!この調子じゃ放射線まで食っちまうんじゃねぇか!?」
「嫌ねぇ、人をブラックホール扱いしちゃダメよ?もしレディーを粉砕機のように扱えばあなた危ないわよ?」
「ガハハ!違ぇねぇや!」
「…奥さん、いや、姉さん。コイツはあんたの評判を聞き付けたある国からの極秘なんだが、こいつを喰ってくんねぇか?」

「すまない、僕はここらで出るとするよ。精神病院で妻の食事シーンが原因で来ました。なんて言えばどうなると思う?大学病院から全てのクリニックまで願い下げだと言われるのが関の山だよ。」珍しく旦那の友人は気の利いた事を言わず、頷くだけだった。

「いいかい?姉さん。」

銀に眩しく光ったアタッシュケースが開けられる。緑がかった青。ブルーチーズのカビを連想させるような色の調理の途中で投げ出したミンチ、中途半端にこねられた粘土のような形をしている。
「なぁに?これ。」
「どうやら、オドラデクと言うらしいですぜ。前任者はこれを喰って死んだ。あんたと同じ能力を持ってたんだが。確か前回のは星型だった気がするんだよな。どうだ?行けるか?」

「えぇ。私、今、死っていうの?感じてるわ。まるで『シャイニング』のハローランみたいにね。」
「そうだな。彼みたく生き残る事を願っておくよ。」
「じゃ、いただきます。」

美味い!

ドロっとした口触りの中にある、コリコリとした食感!少し酸っぱく、それに対立するようかの甘さ!これは本当に、天下物でございます。

恍惚の表情をした私を見て安心したように「喰ってくれたか。」「えぇ、ごちそうさま。」「いいや、お粗末さまと言ったところだ。」「あら?これは貴方の生みだしたモノ?」「あぁ、そうだ。俺のモノさ。捕まえてアンタにあげるついでに、国からの依頼って訳さ。伊達にハンターやってる訳じゃねぇよ。あ、旦那には言うんじゃねーよ?俺がハンターやってるって。」

「はいはい。まぁいいわ、ご馳走様。」

「あぁ、またのご来店お待ちしております。」

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