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映画で現実を忘れたい人は見ちゃだめ|映画【オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分】


苦境だらけの人生でも、一瞬、全てを忘れて休みたい。
映画を見る時だけは、現実から目を背けたい。そんな甘い考えを許してほしい。

しかし、それが叶わなかった映画がある。

「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」

人生は苦境の連続だ。思い通りに事が運んでいくことなんて少ない。たった一度の選択の誤りが、人生を苦境に立たせることは往々にしてある。

彼の人生の、まさに苦境のスクランブルを淡々と眺めるだけの映画。車内のワンシチュエーションで86分。出演者は彼の他におらず、電話を通して声だけで登場している。

仕事も、家庭も、ごく普通、だけど幸せな人生。しかし、たった一度の過ちを正すためだけに、全てを捨て車を走らせている。

傍から見れば、たった一度の、ともすると些細な過ち。全てを捨ててまで正すべきことなのか疑問に思う。目をつぶって逃げれば良いだけのことなのに。


他人の人生を通じて、自分の人生を振り返る。映画にはそういう側面もあると思う。この映画は特に、人生のほんの一部分を切り取り、それをありのままに見せてくる。創作とはいえ、どこか創作とは思えない圧がある。

彼は苦境のスクランブルを、淡々と会話だけで交通整理していく。見ているこっちは胃がキリキリしてくる。それは彼に自己投影しているからではない。自分の人生で、今まさに嫌だなと、目をつぶっていることを思い起こさせるからだ。映画を見ている間だけは忘れようとしていた、現実の自分を無理やり連れてくる。

彼の行動を通じて、この映画は語り掛けてくる。人生は、一本の高速道路と同じなのだと。すごいスピードで前にしか進まない、Uターンはできない。目をつぶった次の瞬間、事故がおきるということを。

オン・ザ・ハイウェイ。彼の人生の物語と、高速道路を運転する彼の行動が、妙にシンクロしていて、とても唸らされる映画だった。


さて、現実に戻る前に、もう一本見よう。


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