20210227 ラテンの宴(エン) レコード紹介テーマ「生音系のDJがいた小箱でよく聞えていた音」

横浜元町の"Gallery + Sushi あまね"で毎月開催している音楽ラウンジ「ラテンの宴(エン)」
そこではDJの時間とは別に、テーマを決めて音楽紹介も実施
今回のレコード紹介のテーマは「生音系のDJがいた小箱でよく聞えていた音」
(20年前の、ある種の場所で感じる夜の雰囲気の音)


2020年現在、ネット上のディスクガイド的DBを使えば、ホントに極簡単に単体の音源の情報については手に入る。
(値段の高い安いの情報も含めて)
確かに便利ではあると思うが、そこに乗ってるレアさや値段にふりまわされねえ?とそのような状況を余り心よくおもっていないオジサンの苦言はともかく、音盤単体の情報だけをいくら知った所で判りえないこともあるかと。「生音系のイベントで鳴ってた音や雰囲気」なんてものは体験しないとその雰囲気は分からないと思います。
そんな場所でなってた音を一掴み紹介

(打ち込みや電子音のダンストラックでなく古いジャズやソウルやそれに類する音で踊ってたシーンを"生音系"と言ったりします)



Alive 「Alive!」 (US 1982)

"Skindo-Le-Le"
生音系のフロア・クラブジャズのシーンのアンセムの一つだと思っている曲。

オリジナルはViva Brazilというブラジリアン・フュージョンのグループの曲だが、このAliveや阿川泰子のカバーバージョンのほうが現場で耳にする頻度が多かったと記憶している。特にAliveのバージョンはよりジャジーでパーカッシブで"都会の夜"と"仄かな野生感"の両方を感じられクラブで酔っ払っていた若造ども(←自分の事)に夜遊びの煌びやかな幻想を感じさせてくれた曲。



David Benoit /「Heavier Than Yesterday」 (US 1977)

"Life is a like samba"

こちらも"Skindo-Le-Le"同様クラブジャズのシーンのアンセムの一つだと思える曲。

透明感溢れるピアノ&コーラスとベースがリードしてゆくサンバ調のリズムが"Skindo-Le-Le"同様「夜の音のある遊び場」の雰囲気を盛り上げていた記憶が。他の曲は正直なところ刺激のない透明感溢れるスムースなフュージョンという印象が強い。(良い曲あるかもしれないが…)

ブラジル音楽やこの手のブラジリアンフュージョンをDJが"ダンストラック"として積極的に紹介したのは90年代前半のイギリスが震源地だったように記憶する。



Elis Regina「Elis Regina In London」(UK 1969)

"Zazueira"
ブラジルの国民的歌手であるエリス・レジーナ。彼女がイギリスで残した一枚。たしか初回発売時にはUK・オランダ・日本だけで、ブラジル版は80年代の再発がレコードとしては初のリリースだったように記憶する。

「ブラジルの爆弾娘」と呼ばれた彼女の本領を発揮するようなアップテンポの曲の数々。正直どの曲を紹介しても「最高!」の一言に尽きるのだが、個人的な気分で「Zazueira」を紹介。

ジョルジ・ベン(マシュ・ケ・ナダの作者であり歌った人)の曲のカバー。曲の後半に分厚いオーケストラのストリングとハンドクラップをバックにほんの僅かだけテンポを落とし(たように聞える)ながらユッタリ伸びやかに歌が上がってゆく感じが2020年代初頭の閉塞した感を吹き飛ばしてくれそうで。



Joe Cuba Sextet /「Diggin' the Most」(US 1963)

"Mambo Of The Time"

ジョー・クーバーはニューヨークのラテンシーンでは知られた人。自身のビブラフォン(鉄琴)を含む彼の楽団は他と比べると比較的少人数のスモールコンボであったようだが、存在感や雰囲気は当初から抜きん出ていたよう。後年はラテンファンク調のトラックも残してはいるが、そのコンボの編成を殆ど変えなかった事実から見ると実は最初期から殆どスタイルを変えなかった(変えるつもりは無かった)のではなんて想像する。

紹介曲は英語詩で歌われたポップなマンボ。DJとして本音を言うとマンボというリズムはその種のダンスレッスン (サルサの事ね)をしてない人にとっては大変"踊りにくく感じられる”リズムのようである。が、曲のポップさ故か普通の人でも興味を持ち揺れ動きだす例外的な曲。


ECD 「君は薔薇より美しい」 (Japan 2001)

布施明の名曲「君は薔薇より美しい」 (1979) をECDがカバー。

過度に味付けしすぎずミッキー吉野作曲の原曲のもつ"昭和の夜の煌びやかな感じ"を底上げし、DJが出てきた後の文脈でも効力を発揮するようにした一曲。(ECDはそのあたりの"やり過ぎない加減"が絶妙にうまいですよね)

今回の盤紹介のテーマにしたとき「何聞いておどってたっけ?」と考え引っ張りだしてきた一枚。ついこないだ、オトトイぐらいにリリースされたって感覚だったけどクレジットみたら2001年。

「思えば遠くへ来たもんだ、な…」と切ない気持ち溢れながら部屋で12インチにあわせて歌いそして泣いた…(20年前かい!驚)



しばたはつみ「濡れた情熱」 (Japan 1975)

"私の彼"
そこらに転がっている歌謡曲のレコードの中から"使える"曲を掘り出すのも生音系現場ではよくあった。(ダンストラックとして解釈できDJで使用できるものを"使える"と表現します)

しばたはつみは"シンガー・レディー"(ルパン三世を手がけた大野雄二のアレンジ)という超強力な"使える"曲がDJにはよく知られている。

紹介曲はフランスのミシェル・フーガンの曲に日本語詩を載せた曲。前田憲男アレンジで疾走感溢れる歌謡ラテングルーヴの上に乗る、2021年現在ではコンプライアンス完全NGな"ヒモの彼氏が大好き~!"な歌詞の一曲。

「車もない、お金も力もない、いい男でもないけど~ …でも」なんですってよ、諸兄!

この曲で踊ってモテとは何かをつかめ!



Dansers Inferno / 「Creation One」 (US 1975)

"Sambre Guitar"

この曲も生音系のフロアではよく耳にした定番曲。オリジナルはマイナー極まるレア盤としてしられるが、DJ華やかりし頃は美味しい曲だけをコンパイルしたコンピレーションも数多くリリースされており、そういったコンピの中に収録されていた記憶がある。

印象的なホーンにパッカッシブに疾走する曲はハウス系のトラッククリエイターもひきつけたようでサンプリングネタとしても有名のよう。



Sam Gendel 「Satin Doll」 (US 2020)


"Love Theme From Spartacus"

近年の"面白い"所には必ず噛んでいるらしいキーマン、サム・ゲンデルがジャズ・スタンダードばかりを演奏したアルバム。名門レーベル・ノンサッチより。
この盤の選定基準は今回のテーマとはずれて「最近聞いて面白かったレコード」としてセレクトしました。

ジャズ・スタンダード曲集という看板を掲げながら "浮遊"/"不定形"/"曖昧" という形容詞でしか語りえないような曲群はジャズともエレクトロともヒップホップともなんとも言えない作品ばかり。気持ちは良いし才能もあるとはおもうがこの空虚感というか未来は無いぜ!な感覚はなんなのか? 

実は彼だけの話でなく、2018年くらいから南米のジャズ/ネオフォルクローレ/欧州のヒップホップ/Jポップですらこの "冷温NO-Future" な感じの作品がバンバン出始めている感じがする。皆でしめし合わせているわけではないだろうが、この未来を全く志向しない感じが現代の繊細なクリエイターが共通して受信している2020年代の気分なのだろうか?もしそうだとしたら救いが無いような気がする。(そう思うのは俺がオジサンだからか?)

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