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流動的な わたしの魂

セクシャリティを語るとき、あなたは不快さを感じる?
私は男女に分け隔てて語るとき、疑問のような一種の不快感を感じる。だけどそれを声にして訴えるのは面倒で、当たり前のように女性に〇をして、女性用のトイレを使い、マームやヤングレイディ、ミセスと呼ばれてにっこりと笑顔を返す。
なぜ性別で分けられなくちゃいけないのだろう?大多数が男女でくくられるから?男女が判らなくては、何か支障があるのだろうか?皆人間なのだから個性も好みも違うはずだ。男性であってもピンクが好きな人はいるし、女性であってもミニカーで遊ぶこともある。ステレオタイプの押し付けが、そのイライラの根源だ。
本来社会では男女の判断は個人に任せられており、もっと自由だった。遠い昔の世界には、性別なんてなかったのかもしれない。
ジェンダーとは性別であり、性的指向とは恋愛対象だ。
私は小さな頃から性別が流動的であり、色んな人を好きになった。それこそ怖い、という感情はあるのだけれど、憎い、嫌い、というのがよくわからず、どんな人にでも興味を持った。嫌悪が何か、たぶん未だにわからない。
性別が流動的であっても、ちょっとした好みが変わるだけで、中身は私のままであるし、解離などはない。小さな頃から男の子みたいな恰好をすることもあったし、サッカーをやってみたり、乗り物に夢中になった事もあった。でも一方でお化粧やかわいい洋服やきれいな宝石にすごく興味もあったし、インテリアや小物にすごくこだわりを持っていた。母はどんな洋服でも快く買ってくれたけれど、彼女が着せたいのはフリルの付いたちょっと時代遅れのメルヘンな洋服だった。そして彼女の選ぶ色は真っ赤やピンクが多かった。私はその反動か、黒や青などの地味な色が大好きだった。メルヘンな洋服でもそれがきれいな青だったら着たのかも知れない。実際小学生の頃、近所の量販店の婦人服売り場で、真っ白なペチコートがついた小さな花柄のくすんだ青のロングスカートを見つけた時、真っ先に母にねだった。その頃は本当にボーイッシュな格好しかしていなかったので、母も驚きすんなり買ってくれたのだが、日に焼けた肌と短い髪にそのスカートは全くしっくりこなくて、随分と鏡の前で惨めな気分になった。
私はいまだに自分の性別に惨めな気分になる事がある。惨めというのか、変化が自分の意志に反してやってくるので、その流れについて行けず、混乱してしまうのだ。それは周りの人間も混乱させてしまうようで、私がお洒落をし始めたら浮気を疑われたりする。どういう周期で変化がやってくるのかもわからないし、何が引き金になるのか統一されていない。

最近面白い事があった。

私は化粧品や香水の類が大好きなのだが、それは私にとって自分を着飾る為の道具ではなく、ただ持っているだけでうれしい気分にさせてくれる魔法のアイテムのようなものだ。だから普段化粧はほとんどしないし、ファンデーションなんて一度も塗った事がない。香水も匂いを嗅ぐのは好きだけれど、着けるのはあまり好きではない。
面白い化粧品を見たり、新しい香りを嗅ぐために、たまにデパートに行く。アメリカのデパートである。日本のようにかしこまった感じは全くなく、気の抜けただるそうな店員が何か質問はあるか聞いてくる。ないと答えると大抵の場合はほっといてくれるので、色んな匂いを嗅いでみるのだ。これこそ躊躇なく色々な匂いをかいでみる。私は自分の体に着けるお気に入りのにおいが少しだけど、ある。
ひとつは高校生の時ある女性が贈ってくれた、ケンゾーのPour Hommeだ。これはミニサイズだったので、たまに少しだけ自分の腕に着けては楽しんでいた。甘くてちょっと風変わりな香りが特別だった。世の中はマリン系のフレグランスが流行っていたころである。あのマリン系はちょっときつくて、自分の好みではなかったので、このケンゾーの香りは納得のいく香りだった。ちょっと前に、もうミニサイズの中身が無くなってしまうからと、大きなサイズを買った。しかし、新しく買った香りはマリン系のきつい香りで、自分が持っている香りが劣化したのでこういういい匂いになったのか、じゃあこの新しい香りも成熟させないといけないんだと思い、がっかりした。同じPour Hommeなのに、こんなに違う香りになってしまうのだろうか?執念でリサーチした結果同じように感じている人がいて、Pour Hommeは三度香りが変わったことがわかった。私の好きな香りはオリジナルの香りで、その後買ったのは二度目の香りらしい。マリンの香りが強くなり、古い香りを知る人たちには不評で、三度目の香りはそれこそ皆にダメ出しをされていた。自分の鼻がおかしくなくて、香水が成熟したからああいう香りになったのではない事がわかり、私は次第にその初代の香りに執着し、オークションサイトでビンテージと書かれたものを手ごろな価格で手に入れた。これをちびちび使えばきっと死ぬまで大丈夫であろうと思う。ケンゾーよ、なぜ同じ名前なのに三度も香りを変えたんだ?愛用者が混乱するではないか。
もう一つはボディショップのデューベリーというフレグランスオイルでこれはもう廃番になってしまったのだが、きりりとしたジューシーな香りで、甘い嫌みが全くない。そして最後にこれはサンプルセットに入っており、これだけ気に入ってしまいもう空になってしまったので、今売っているお店を探しているところなんだが、Juliette Has A Gunというニナ・リッチの曾孫であるロマノ・リッチが生み出したブランドのミス・チャーミングという香水だ。これはもう腐った果実のような絶妙な香りで、かといって嫌みが無くすっきり優しく香るので、着けている本人にしかわからない位の距離感で攻める香水だと思う。
私は残り香が漂うようなきつい香水は着けたくない。あくまで隣にいて、ちょっと深呼吸したらわかるくらいの香りが好きだ。なんかいい匂いがする、気になる、そんな感じの匂いがいいと思う。
この三つのにおいは、自分が今まで嗅いで、着けて、やっと探し出せたお気に入りの香りだ。

最近その三つの香りに全く別の香りが加わった。

Gucciのギルティ アブソリュートの男性用だ。この香りはシンプルで、香水本来のトップ・ミドル・ベースという構造になっておらず、殆ど香りが変化することなく持続する。初めてその香りを試した時から、なぜか虜になってしまったのだ。シンプルな香りの構造は、ウッドレザー、ゴールデンウッド、パチュリ、ベチバーの四つだ。そのうちウッドレザーはこの香水の為に開発された香りで、ゴールデンウッドはアラスカヒノキの香りが配合されている。全く甘くなく、一般的には男性的な香りである。香水を選ぶときは慎重に時間をかける。それこそ小さなボトルがかわいいミニサイズ以外は、サンプルでもテスターでも試せるなら自分の肌の上で香りの変化を嗅ぎ比べるべきだ。(私は香り以外にもかわいいボトルを集めるのが好きだ)

(アメリカのモールにあるSephoraという化粧品屋さんでは、頼めばほとんどの商品のサンプルを貰えます。(一人三つまで)香水は結構高いので失敗したくない人はサンプルを貰ってみるのもいいと思う。)

香水売り場にはムエットという香りを吹きかけ嗅げる紙が置かれているが、その紙の上と人間の肌の上では面白いほど違う香りになる。香りの変化する時間も違うし、それこそ違う人が着ければ全く違う香りになる事もある。だから、あ、この香り良いなと思ったら、衝動買いはせず、一度着けて次の日まで待って、それでもいいなと思うなら買うべきだと思う。もしも可能ならサンプルを貰い何度か着けてみる事をお勧めする。


私もこのGucciのギルティ アブソリュートのサンプルを貰い、何度か着けてみた。もうこれこそ自分の香りだと思い毎日のように腰辺りに控えめに一吹き、シュッと着けるだけで満足だった。何度も深呼吸をし、その香りを楽しんだ。これは、もう大きなボトルを買おうと思った矢先だった。その香りを受け付けなくなったのだ。それと同時に女性的行動が目立つようになり、化粧品を買いあさり、繊細なワンピースを着たい衝動にかられた。毎日のようにネイルの色を変え、デューベリーの香りがしっくりと来る鼻になってしまった。ロマンティックなDVDを引っ張り出して下の子と観賞したり、メイクオーバーの番組を気持ちよくみている。化粧品のサイトに一日中張り付いて、気になるものをチェックしたり、甘いお菓子やケーキを躊躇なく食べた。ちょっと傷付いた。あんなに好きだった香りが、吐き気がするほど受け付けなくなるなんて、どうしたんだろうと。この変化の急激さに自分の思考がついて行けず、混乱した。
と同時に自分はすごく恵まれているな、とも思う。好きなものが沢山あって、好きなファッションも定まってないからお金はかかるし、好きな香りも変化するから時間がかかるし、だけど色々な事を知っている。知りたい事はとことん調べるし、欲しくても手に入らないものは自分で作ったりもする。かわいいも、かっこいいも、素敵も、ダサいも、エレガントも、ぼろも全部好きだし、可能性はどこにでも転がっている。悲観しなくていいんだと思った。混乱はすると思う、だけどそれはいい事なんだと思える。私は人間なのだから、好きになったり、興味を持ったりする対象に境界線なんていらない。いいなと思うものを追求すればいい。お気に入りの匂いが、流動的な性のせいで一時期ダメになったとしても、それはきっとまた戻ってくるので、また好きになる事だって大いにあり得る。

最近は、コムデギャルソンの香水が全部気になっている。こっちではダウンタウンとハリウッドにある、変わった香りを集めているセレクトショップで嗅げるみたいなのだが、そこでもサンプルを売っているので、散財してしまう。�香水といえば、最近多くのデザイナーブランドの香水に配合されているであろうセタロックスに似た香り、Juliette Has A Gunのノット・ア・パフュームのにおいなんだが、これは私にとって血液や裂傷の香りと結びつくのであまり好きじゃない。Gucciのギルティ アブソリュートにも女性用が登場して、あ、これはもしかして対で使えるじゃないか?男性寄りの時はPour Hommeを女性寄りの時はPour Femmeを使えばいいじゃないの!なんてわくわくして試しに行ったら、グレープフルーツっぽい匂いから撃沈し、残り香がそのセタロックスだったのでげんなり。グレープフルーツって香水になると、ちょっと猫のトイレっぽい匂いがしませんか?香りで受け付けないのはグレープフルーツとココナッツ、セタロックス、そしてシナモンの強い匂い。あとボトムノートにたまに配合されている、なんか濡れぞうきんを放置したような香り、あれがダメだなあ。
今まで結構男性寄りだったせいか、あまり美容についてのコラムが無いのでこのまま女性寄りが続けば美容コラムが増えるかも?

*ジェンダーの心の変化等は人それぞれだと思います。これはあくまで私に起こった事なので、すべてのフルイドの方がこう感じているのかはわかりません。

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