見出し画像

主体性と力

この記事はこんな方向けに書いています:
・自分で自分の人生を選ぼうとしても、何か邪魔してしまう
・学校や企業で「主体性を発揮してほしい」と言っているが、言動が合っていない気がする
・いじめ、アファーマティブ・アクション、性別分業などの社会問題について何かもやもやする


この度、新しいnoteマガジンを始めたいと思います。
その名も「主体性と力」
主体性を発揮したいと思っている個人、そして「主体性を発揮してほしい」と言っているけど主体性の発揮が見られない組織・社会に対して、主体性を発揮するために必要な環境について紐解いていこうと思います。




なぜ主体性と力に着目するのか


今回私が主体性と力について書こうと思った大きな理由として、2022年に高校で必修化された「総合的な探究の時間」があります。
私は「総合的な探究の時間」など生徒主体の学びを広めたいと思い、2020〜2022年は関東圏の中高で約20種類の「大学での学び探究講座」を企画し、それをさらに広める方法はないかと2022年からアメリカの教育大学院に留学しました。

教育大学院では「Deeper Learning(より深い学び)」についての授業を取っていたのですが、そこで気がついたことは、日本は他の国に比べて理念としては生徒主体の学びが進んでいるということです。
国全体で「総合的な探究の時間」が確保されているところはなかなかありません。
留学していたアメリカは教育制度が分権的で、一部の学校では生徒主体の学びが進んでいる一方、経済的に余裕がない地域では一方通行の授業が行われています。
逆に中国・韓国などでは大学入試の競争が日本よりも激しく、「総合的な探究の時間」や探究を活用した「総合型選抜」はまだメジャーではないとのことでした。

理念としては存在するのに、実態はなぜなかなか変わらないのか。
それは「総合的な探究の時間」を実施する学校・管理職・学校の先生の多くが、「消極的選択」として実施しているからではないかと考えています。

「文部科学省が学習指導要領に追加したから、総合的な探究の時間をやらないといけない」 でも 「実際には文部科学省からは別の指導要綱も出ていて、それもやらないといけない」 「保護者からは良い成績や進学先を期待されていて、それに応えないといけない
…など、色々な外部からの「べき」が組み合わさって、限られた選択(=消極的選択)しかできないため、本来の力が発揮できていないのです。
これを「生徒にはこうなってほしいから、講義型の授業をすることもできるし、探究型の授業をすることもできる。今回は探究型が一番効果的だから、自分の意思で探究型を選ぶ」という決断ができるようにするにはどうすればいいか、考えていきたいと思っています。


主体性とは、力とは


ここで改めて、「主体性」や「力」といった言葉を定義しておきたいと思います。

まず、今回のマガジンでは「主体性 (agency)」を「どの選択肢を選んでも不利益を被ることがない状態で、個人が積極的に選択できること」と定義したいと思います。
そして「力 (power)」については、「個人がある選択肢を取るように、組織的・社会的に働きかける圧力」であり、「放っておいたら集団が流れていく方向」と考えています。
とても厄介なのが、力というのは組織・社会の意図次第で個人には利益がないように働きかけることができ、またその力が必ずしも見えるのものではない(常識や空気など)ということです。



力関係を無視した主体性の問題は点在している


主体性の問題が起きているのは、「総合的な探究の時間」の運営においてだけではありません。

例えば、学校や企業では長時間労働によって心身が壊れることが広く問題になっていますが、この問題も「長時間働くか短時間働くか選べる上で長時間働いている」のではなく、「組織・社会的に長時間働いてほしい圧力がかかっているから長時間働いている」ため、個人の主体性が奪われて心身を壊しています。

そもそも仕事に就く前の段階、進路選択や就職活動のときも、自分が主体的に選びたいと思っていたところを親や先生に反対され、みんなが「良いと言っている」「安定している」と言っているところを目指す経験、も消極的選択の一つです。

究極的には第二次世界大戦のときのようにお国が戦争を始めると言ったら、そこに対して意を唱えることができる個人はいるのか。
個人と組織・社会の関係はそこまで深く関係していると思っています。


この問題を解決するためには:

  • 個人が主体的に選ぶための判断軸や情報を持つこと

  • 組織や社会が力関係を認識して、力ではなくリーダーシップを通して個人を導くこと

この二つがどちらも鍵になってきます。

ここでのリーダーシップについては、パブリック・ナレーティブを教えてくださったマーシャル・ガンツ先生の定義を紹介したいと思います。

Leadership is accepting responsibility for enabling others to achieve shared purpose under the conditions of uncertainty.

リーダーシップとは、不確実な状況下で、他者が共通の目的を達成できるようにする責任を引き受けることである。

Marshall Ganz


今後のこのマガジンの運用については、既にいくつかリクエストを受けている「主体性が発揮されていない事例」について、「主体性」と「力」の概念を使って解説していきたいと思っています。
皆さんの周りでもモヤモヤする事例があれば、コメント欄でぜひ教えてください。

この記事が参加している募集

探究学習がすき

すべての人が組織や社会の中で自分らしく生きられるようにワークショップのファシリテーションやライフコーチングを提供しています。主体性・探究・Deeper Learningなどの研究も行います。サポートしていただいたお金は活動費や研究費に使わせていただきます。