遠藤航が新たな扉を開けた
2023年8月17日、衝撃的なニュースが飛び込んできた。
VfBシュツットガルトに所属する日本人MF遠藤航の、イングリッシュプレミアリーグの超名門・FCリヴァプールへの移籍決定というビッグニュースだ。
これは日本サッカー界にとってエポックメイキングといえる移籍である。本当にとんでもない出来事なのだ。
FCリヴァプールの現状と、遠藤航が与えた衝撃を、ここに記したい。
移籍市場で後塵を拝す名門
リヴァプールは今夏の移籍市場での動向が最注目されるクラブの1つだった。ユルゲン・クロップ監督就任後、常にヨーロッパ最高峰コンペティションであるチャンピオンズリーグ出場圏内を維持し、リーグ優勝・CL優勝も果たすなど一時代を築いたが、2022-23シーズンは5位に沈みとうとうCL出場権を逃してしまった。
チームの刷新が急務となる中、ファビーニョ(アル・イティハド)、ジョーダン・ヘンダーソン(アル・イテファク)がサウジ・プロ・リーグの大波に飲み込まれチームを去った事で、4-1-2-3のアンカーポジションが完全に空席となる緊急事態に陥った。
この夏に獲得したドミニク・ソボスライ、アレクシス・マクアリステルに、チアゴ・アルカンタラ、カーティス・ジョーンズを加えた豪華絢爛な攻撃的ミッドフィルダーのいずれかにアンカーポジションを任せる事も考えられたが、高いトランジションを求められた際に本職アンカー不在というのはやはり心許ない。
リヴァプールも当然優秀な守備的ミットフィルダーに食指を伸ばした。しかし本命だったロメオ・ラヴィア(サウサンプトン)、モイセス・カイセド(ブライトン)の争奪戦は資金力で劣るチェルシーに敗北。ジョアン・パリーニャ(フルハム)は親善試合で負傷した肩の具合が不明瞭。
そこで選ばれたのが遠藤航だ。ブンデスリーガでのデュエル勝率トップという実績、シュツットガルトでキャプテンを任されるメンタリティ、身長は高くないものの強さを見せる空中戦、1600万ポンド(約29億8000万円)という代表の主力級にしては安い移籍金、そして過去に在籍した南野拓実という日本人の成功。
このように遠藤航を獲得する理由は幾つも挙げられるのだが、この移籍が驚きをもって報道されたのには大きな理由がある。
年齢だ。
『若い日本人を安く買い、育てて売る』のが従来の常識
遠藤航は1993年2月生まれの現在30歳。
栄養科学やスポーツ医学が発達した現代においてはサッカー選手として脂の乗った時期といえるが、日本人と欧州トップリーグの関係性では30歳でのビッグクラブ移籍は前例の無いものである。
例として、加入当時チャンピオンズリーグ・ヨーロッパリーグへの出場に絡んでいた強豪クラブに日本人が加入した時の年齢を記載する。
中田英寿 22歳【ASローマ←ペルージャ】
小野伸二 21歳【フェイエノールト←浦和レッズ】
長友佑都 24歳【インテル・ミラノ←チェゼーナFC】
内田篤人 22歳【シャルケ04←鹿島アントラーズ】
香川真司 21歳【ボルシア・ドルトムント←セレッソ大阪】
23歳【マンチェスターユナイテッド←ボルシアドルトムント】
宮市亮 18歳【アーセナルFC←中京大付属中京高校】
宇佐美貴史 19歳【FCバイエルン・ミュンヘン←ガンバ大阪】
中島翔哉 24歳【FCポルト←アル・ドゥハイルFC】
南野拓実 25歳【FCリヴァプール←レッドブル・ザルツブルグ】
冨安健洋 22歳【アーセナルFC←ボローニャFC】
久保建英 21歳【レアル・ソシエダ←レアル・マドリード】
このように、そのほとんどが20代前半での移籍である。国籍にかかわらずサッカー界においてこれは常識で、選手の移籍金は年齢が上がれば上がる程安くなる。つまり若い選手の方が価値が高いのだ。
そういった意味で日本人選手という市場はビッグクラブからするとあくまでも青田買いの場という意味合いが強く、単純な戦力としての評価以外に、自クラブで育てて名を挙げ、最終的に利益を出して売る事が重要となる。
しかし、今回の移籍は違う。30歳を超えた遠藤航の市場価値はコンディションや成績に関わらず下がっていく事がほぼ間違いない。つまり遠藤航の獲得には未来への投資という要素が一切無く、『チームに必要な即戦力』としての評価のみという事なのだ。
そういった評価を世界的クラブであるFCリヴァプールが与えた。
この出来事は日本人フットボーラーの新たな扉を遠藤航が開けたという事実に他ならない。
もちろん、まずは想像を絶する苛烈さのポジション争いが遠藤航を待ち構えているだろう。しかし、持ち前の守備性能とダイナミックなプレースタイル、樹木のようなメンタリティをもってポジションを掴み、日本のサッカーファンにもう一段上の夢の景色を見せてほしい。
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