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プレミアリーグ第10節 エヴァートンVS.マンチェスター・ユナイテッド レビュー

 今さら感満載。最近忙しく、ツイッター含め更新が止まっていますが、プレミアリーグの全試合レビューは達成できるように頑張りたいという所存ですので、お付き合いよろしくお願いします(笑)
 試合は1-2でユナイテッドの勝利でしたが、内容は同点でもおかしくなかったという見方もできる試合でした。それだけエヴァートンの振る舞いが素晴らしかった一方で、この試合で勝ち点3が取れたというのは、「厳しい状況でも勝ちをものにする」という強いチームの条件がユナイテッドに備わってきたようにも思います。
 今回は好調エヴァートンのこの試合でのハイパフォーマンスと、それでも勝利をもぎ取ったユナイテッドのチームとしての対応力・総合力を中心に言及できればと思います!!

①スタメン

Ⅰ.ランパードが仕掛けたインテンシティバトル

1⃣ユナイテッドを苦しめたエヴァートンのプレッシング

 多くの人が感じたこの試合の印象は、「速い」「激しい」という部分ではないかと思います。
 5'という早々の時間帯にイウォビの得点が決まったことでその後のエヴァートンは少し落ち着いたものの、15'にアントニーの同点弾が決まると、エヴァートンは再びミドルサードから相手陣内エリアでのプレッシングを敢行。ユナイテッドも持ち味である攻守の素早い切り替えからの速攻、プレッシングといった振る舞いを見せたので、選手それぞれのボールを持つ「時間」がかなり短くなる「速い」展開の試合となった。

②エヴァートンのプレッシング(概念図)

 エヴァートンのプレッシング、非保持の振る舞いの基本的な考え方は「とにかく中央封鎖、サイド追い込み」である。プレッシング時には4-3-2-1に近いかたちでスタートし、相手の中央への縦パスのコースを切り続けながら、相手のGKやCBがSB(またはその位置にポジショニングする選手)に対して出す横パスを「はめパス」として一気にWGを中心にボールホルダーに圧力を掛けて、中央へのパスをカットもしくは制限して相手をサイドへと追い込むスタイルだ。サイドで相手のボールホルダーに対して「4-3-2-1の鎖」を作るという考え方も見て取れるため、プレシーズンで対戦したアストン・ヴィラに近いかたちといえるが、3トップで追い込むヴィラに対して、IHを押し出して2トップ(または4トップ)気味にサイドに誘導するのがエヴァートンのプレッシングの特徴でもある。

③エヴァートンのプレッシング(サイド誘導4-2-4)

 エヴァートンは③のようなかたちでCFが相手のCBの1枚に圧力を掛けてもう1枚の相手CBに横パスを出させたところで、IH(主にイウォビ)が列を上げてさらにボールをサイドに誘導。その際に仮に中央にパスが入っても相手中盤には前を向かせないように、アンカーともう一方のIHでしっかりとマークすることで、相手に否が応でもボールをSBに集めさせる。そのSBへの横パスをきっかけにスピードのある両WGが一気にプレッシャーをかけ、全体も同サイドに圧縮し、ライン間を極端に狭くし、ボールを相手から取り上げていく。もちろん、上記したような構造上の問題以上にエヴァートンの選手のプレッシャー(追い込み)の速さ、徹底したプレスバックによるライン間のスペースの排除は凄まじく、エヴァートンのプレッシングを含めたボール非保持の走力を前面に押し出した振る舞いにユナイテッドが苦戦していたということは間違いない。
 あれだけ足元の上手いダロトの(相手のサイドへの追い込みを一気に外すための)中央への斜めのパスが再三カットされていたのも、単に個人の問題だけでなく、以上のようなエヴァートンの守備の構造と選手の献身的な働きがあったからといえる。

2⃣それでもリードしたのはユナイテッド。その要因は…

 前半だけでなく、この試合全体でのプレッシングの機能、ビルドアップ局面でのロングボールも厭わない姿勢で「陣地回復&プレッシング」という対ユナイテッドシフトを完遂したようにも見えたエヴァートンであったが、前半のスコアは1-2とユナイテッドがリード。
 両者の得点を振り返ってみると、5'のエヴァートンの1点目はGKピックフォードのロングボールを最終的にマイボールにした速攻での得点。そして、15',44'のユナイテッドの得点はどちらもビルドアップミスを相手から奪い返しての速攻での2得点となっている。ユナイテッドの2得点は相手がボール奪取したことによって前がかりになりかけたところを速攻でついたもので、ある意味多くの偶然性のある得点であり、エヴァートン側からすれば納得のいかない失点とも思える。しかし、(少しこじつけかもしれないが、)この2得点が生まれたのには、相手のハイプレッシングの戦い方に飲み込まれずに上手く対応し、試合のペースを渡さなかったユナイテッドの「チーム力の高さ」があったといえる。

➃ユナイテッドのビルドアップ(1)
⑤ユナイテッドのビルドアップ(2)

 この試合の前半でユナイテッドのビルドアップが成功したシーンは主に7',24',37',41',42'となっており、ビルドアップで相手のプレッシングを寄せ付けなかったとはいえないまでも、それなりに機能していたとはいえる。
 ➃、⑤はそのうちの1シーンであるが、➃ではダロトを内側にポジショニングさせることによる相手のWGの迷いを起点に、(相手WGが)CBにプレッシャーを掛けたことによって空いた相手WG裏をアンカー経由で攻略している。⑤ではカゼミロのポジショニングによってSB⇒WG⇒CHのレイオフでその後のビルドアップ、ロナウドの左足シュートのチャンスにつながっている。
 一見何気ないビルドアップの1シーンであるが、この試合を通じて相手の強烈なサイド追い込みに対してユナイテッドが、SBとWGのパスコースに角度をつけるポジショニング、SBから相手ライン間やバックパスのパスコースを確保など、SBに多くの選択肢を用意する配置がしっかりととれていたことがわかるシーンでもある。ユナイテッドは狙いのある再現性を持ったビルドアップによって、前進が綺麗に成功しなくても、後方へのバックパスでやり直したり、奪われた後のカウンタープレスで奪い返したりと、簡単にボールやエリアを奪われることはなかった。このことが、前半をリードして折り返した一因であるといえる。

 また、上記のボール保持局面以外にも、ボール非保持局面におけるプレッシングや(得点シーンのような)ポジティブトランジションでの速攻やネガティブトランジションでのカウンタープレス(ゲーゲンプレス)も高い強度で機能しており、4局面の全てにおいて相手を上回っていたのがユナイテッドだったのは間違いないだろう。(特にネガトラ時のカウンタープレスは高い強度で行われており、これによってユナイテッドは2次攻撃、3次攻撃と試合を支配することができていた。)

⑥前半のスタッツ(左:エヴァートン 右:ユナイテッド)[Sofascore]

 実際、⑥の前半のスタッツを見ると、ボール保持率、シュート数など含めてほぼ全ての値においてユナイテッドが相手を上回っており、エヴァートンがゴールを決めたイウォビのシュート以外はチャンスシーンがなかったということも頷ける内容と結果となった。1つ1つのシーンを切り取れば、互角の戦いのようにも見えた前半だったが、4局面における「総合力」で前半、ひいては試合をものにしたのがこの試合のユナイテッドであったように思う。

Ⅱ.戻りつつある「強いユナイテッド」

1⃣エヴァートンの猛攻とそれを凌いだユナイテッド

⑦後半のスタッツ(左:エヴァートン 右:ユナイテッド)[Sofascore]

 後半は五分五分の展開となったこの試合。⑦のスタッツを見ても、前半に比べてエヴァートンの攻勢が強まっていることがわかる。特に後半30分のゲイェ⇒ガーナー、コールマン⇒DCLの交代以降は、イウォビを右SBに配置して両SBに幅を取らせる2-3-5アタックやロングボールによるパワープレーなど、死なばもろともでゴールに迫る攻めを見せた。しかし、ブロックの位置は徐々に下がりながらも、ユナイテッドは最後まで相手に中央を割らせずにクロスもはじき返すことができており、エヴァートンの明確な決定機は90+1'のガーナーのシュートのみである(それもSofascoreに言わせれば"Big Chances"ではないらしい)。
 また、ユナイテッドはハンドによって取り消されたが、80'にゴールキックでのロングボールからラッシュフォードの得点シーンも演出しており、最後までユナイテッドが「総合力」や相手の戦い方の変化への「対応力」で上回ったことで、2-1の勝利を収めたといえる。

2⃣この試合での収穫と今後

 前節はシティに力の差を見せつけられたユナイテッド。ただ、今節は前節で課題として浮き彫りとなったプレッシングも機能しており、(相手の1トップがモペイだったこともあり、)相手のロングボールアタックにもそれなりに対応できていた。そして上述したように、高いインテンシティで良い振る舞いを見せた相手に対しても4局面の全てにおいて試合をコントロールすることで勝利をしたということは、「苦しい試合でも勝つことのできるチーム」であるという証明にもなった。
 今季はレスター戦、サウサンプトン戦、そしてこのエヴァートン戦と辛勝の試合が多いが、昨季はこの3者に対して4分2敗と勝利がなかったことを踏まえると、勝ちきれなかった相手に勝ちきれるようになったという見方もできる。今節のレビューでも述べたように、ユナイテッドは4局面の全てで「圧倒する(シティのレベルといってもいい)」とはいかなくとも、「相手を少しでも上回る」というチームとしての総合力がついてきているのだと思う。
 このチームとしての総合力の上昇はリーグ戦を通しての取りこぼしの減少につながり、現在の順位がそれを示しているように、終盤での4位以内争いが現実的に見据えられるチームになってきたということがいえる。あとはその完成度をどこまで高められるか、ということが現状レスターやセインツ、エヴァートンよりも上の順位に位置するニューカッスルやブライトンなどを含めたその他のチームに対する結果に直結するはずだ。
 次節はそのニューカッスル戦。シティやリヴァプールも苦戦したエディ・ハウのチームにユナイテッドがどう挑むのか。注目です!では。

タイトル画像の出典
https://www.manchestereveningnews.co.uk/sport/football/football-news/manchester-united-under-23s-live-21670981


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