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プレミアリーグ第9節 マンチェスター・シティVS.マンチェスター・ユナイテッド

 前半、シティとハーランドの異常さを知り、後半もその脅威に粉砕される結果となりましたが、ユナイテッドの選手たちの意地を見た試合でした。もちろん悔しさもありますが、シティの強さが引いてしまうレベルだったので、「さすがシティ、1月にホームでリベンジできるように」という印象です。では、レビューいきましょう。

①スタメン

Ⅰ.前半4-0の衝撃とその必然性

1⃣ユナイテッドを機能不全にさせたシティのビルドアップ

②ユナイテッドのプレッシングと狙い

 ユナイテッドのプレッシングは4-2-1-3(または4-2-2-2)での中央追い込み型。このブログではかなり言及しているが、改めて。CFの中央からの追い込みとWGの相手SBへのパスコースを切りながらのプレッシングで相手のパスコースを限定して、そこを挟み込んでボールを奪う狙いである。リヴァプールの4-3-3プレッシングに似ているが、リヴァプールのそれに対して中盤が2枚、前線に4枚となっている分、相手への圧力やショートカウンター時の威力は増す一方で、上手く剥がされると中盤に広大なスペースがあるため、相手に容易に前進されてしまうというデメリットがある。いわば諸刃の剣だ。

③シティのビルドアップと狙い

 その諸刃の剣に対して、シティはしっかりと狙いを持ったビルドアップを準備していた。そのキーワードは「ソシエダと同じ」である。
 まずそのかたちから言及すると、③のように基本的にボールサイドのSBとWGは2人ともタッチライン際にワイドに立ち位置を取り、相手のWGとSBをピン留めして中央のスペースをつくる。その空いた中央のスペースにボールを持つCBが「運ぶドリブル」で侵入しながら、ハーランドの列を下りる動きによってライン間で数的優位をつくり、そこにパスをつけたりして前進を図る。相手がライン間でのマークに終始しボールホルダーのCBを自由にすれば、CBは相手のブロック内にどんどん侵入し、相手が強烈な同サイド圧縮をしてきた場合にはサイドチェンジという奥の手も備えていた。
 この試合、2’(1),2’(2),4’,5’,6’,11’,21’,25’,29’,31’,37’,51’,60’,63’,80’,81’,
85’
とこのかたちからビルドアップに成功しているが、シティの強いところはここに個々人の技術の高さや個々人の状況判断によるポジショニングの修正があるということで、2'(1),11',25',31',37'のシーンは高い位置を取るWGが中に入り込み、SBがさらに高い位置を取るという連動によって前進しており、そのうち31',37'のビルドアップが結果的に得点(2点目と3点目)につながっている。

➃[ソシエダ戦レビュー抜粋]ソシエダの4-3-3ビルドアップ(1)
⑤[ソシエダ戦レビュー抜粋]ソシエダの4-3-3ビルドアップ(2)

 実はこれとほぼ同じかたちを、EL第1節で対戦したソシエダも後半から行っており、ソシエダは前半の4-3-1-2からこの試合のシティのような4-3-3に変更したことによって、ユナイテッドのプレッシングを機能不全にさせることに成功していた。
 シティがこの試合に向けてどれほどの準備をしてきたかはわからないが、おそらくソシエダからインスパイアされたであろう③のような配置と狙いはユナイテッドにかなり刺さっていた。

2⃣シティの4-4-2とカウンタープレス

⑥シティの4-4-2(4-2-2-2)プレッシング

 前半のユナイテッドは低い位置からのビルドアップにおいてGKによるロングボールでの「省略」を試みたため、ユナイテッドのボール保持局面はミドルサードでの局面が増えることとなった。ただ、そのミドルサードでのシティの4-4-2(4-2-2-2)によるプレッシングにユナイテッドは苦しめられる結果となった。
 シティは⑥のように4-4-2を基本としながら、2トップ+WGでパスコースを制限し、状況に応じたWGの立ち位置、コースの切り方によってサイドに追い込むパターンと中央で挟み込むパターンを使い分ける。まさに現状ユナイテッドが行っているプレッシングの理想形のような守備である。相手の縦パスが入った際のシティの選手一人ひとりのプレスバック、中央圧縮の意識も高く、ライン間でパスを受けるユナイテッドの選手はほとんど余裕がないためにボールロストしたり、それを恐れて後方の選手がDFライン裏に蹴っ飛ばしてボールを失ったりするケースが増えていった。
 また、ユナイテッドはシティの「ボールを奪われた後の切り替えでの守備(プレッシング)」いわゆるカウンタープレス(ゲーゲンプレス)にも苦労し、ユナイテッドはボール保持が安定しないどころか、相手の2次攻撃、3次攻撃を受け続け、ユナイテッド陣内深いエリアでのプレーが増え、プレーエリアにおいても不利な状況に追い込まれる前半となった。

 ボールを奪ってからの縦に速い攻めによって好機を作ることもあったが、ほぼ全ての局面においてシティにペースを握られた前半のユナイテッド。8'にサンチョがパスカットに成功するも、アカンジにすぐさま奪い返され、ユナイテッドのチームとしての矢印が反転した際に空いた1列目と2列目の間を使われ、最後はフォーデンが決め1-0となると、その後(上述したビルドアップから)31',37'に得点が決まって3-0。44'にはカウンターで4-0となり、シティがユナイテッドを内容、結果の両面において文字通り圧倒した。

Ⅱ.ユナイテッドの開き直りと止まらないシティ

1⃣原点に立ち返ったユナイテッドのボール保持

 解説の水沼さんも「ユナイテッドはシティをリスペクトしすぎている」とおっしゃっていましたが、前半のユナイテッドのようにボール保持はロングボールで省略してボール非保持→カウンターの一辺倒では攻略されてしまうのがシティのボール保持の強力さだと思います。つまり、(結果論ぽくなってしまいますが、)ある程度ボールを保持してシティのボール保持の機会を減らす必要があるということです。

 前半をうけて、テンハーグの頭の中にもそのような考えがあったのか、後半のユナイテッドはGKからのロングボールをほとんどせず、自陣深いエリアからショートパスによるビルドアップでシティのプレッシングに挑む選択をします。

⑦後半のユナイテッドのビルドアップ

 後半のユナイテッドのビルドアップは特別、この試合の相手に向けたゲームプランを用意するというよりはテンハグ体制での積み上げによるものをぶつけていった。
 若干左肩上がり(+左サイドオーバーロード)気味に左SBに幅を取らせ、リサンドロとエリクセンの立ち位置によって2-3-5または3-2-5のような配置になる。この試合の狙いはアーセナル戦同様に相手のダブルボランチ脇。Ⅰ2⃣で言及したように、シティの両WGは外切りのプレッシングをすることも多く、その際に大きく空く相手WG-CH間のスペースにトップ下のブルーノや内側で仕事するサンチョが侵入して前進する狙いだ。
 もちろん、シティのメンバー変更や選手のトーンダウンが影響したことを考慮する必要はあるが、後半は47’,52’,53’,55’,56’,66’,69’,83’,90+2’とうまく前進できているシーンがあり、その中で56'83'のビルドアップは得点(1点目と2点目)につながっている。
 
 余談になりますが、前半もデ・ヘアのフィードが起点とはいえ、26',35',45+1'と低い位置からのビルドアップはそれなりに上手くいっており、プレッシングがハマらない試合が多い現状のユナイテッドとしては、「シティやアーセナルにも通用した」ビルドアップやボール保持に自信を持って、振舞ってもいいと個人的には思っています。

2⃣シティのブロック守備→カウンターとビルドアップの脅威

 ただ、このユナイテッドの修正とそれによる状況の変化にも対応してしまうのが今のシティ。Ⅰ2⃣でも触れたように、シティの選手は相変わらずプレスバック、圧縮の意識が高く、ユナイテッドがビルドアップに成功してもすぐに4-4-2のブロックを作り直してセットディフェンスに切り替えていく。もちろん、それが上手くいかなかったときにユナイテッドのチャンスになるわけだが、53'のリンデレフのフィードを起点としたユナイテッドのビルドアップからの崩しに対するシティの4-4のラインによる粘り強い守備のように、後半を完全なユナイテッドのペースにしなかったのには、このシティのブロック守備、そしてその後の鋭いカウンターが起因していたのだろう。 

 実際、64'の5点目はデヘアのロングフィードのセカンドボールをものにしたところからの速攻、73'の6点目はアントニーのシュートをブロックしたところからのカウンターと、どちらも非保持の振る舞いの良さから生まれたゴールとなっている。

 そしてビルドアップ。前半からユナイテッドの脅威となっていたシティのボール保持は後半もユナイテッドを苦しめ、(89'のユナイテッドの得点につながるなど、前半に比べてユナイテッドのプレッシングも対応してきていたとはいえ、)51’,60’,63’,80’,81’,85’とメンバー交代後もビルドアップが安定していたということも、同点や逆転を許さなかった要因の一つといえる。

Ⅲ.さいごに この試合の意味するもの

 今回はツイッターを探し回りましたが、あまり良い動画もなく、試合も前半で決まった感もあったので、結構短めだったかと思います。ということで、最後は(いろいろ意見あると思いますが、)僕自身のこの試合の印象なんかを書こうかなと思います。

 ユナサポの方には不快なぐらいにシティの強さ、異常さについて言及してきましたが、正直、今のシティとユナイテッドにはまだまだ大きな差があると思っています。リヴァプールやアーセナル戦のように先制できれば変わった展開になっていたとは思いますが、8分に先制されてしまうとこのような展開になるのもしょうがないという前半の試合内容でした。
 ただ、Ⅱ1⃣で言及したように、この試合の収穫としてユナイテッドのボール保持が通用したということが挙げられます。後方からのビルドアップに取り組んだ後半だけ見れば、3-2で終えているという結果となっていますし。
 開幕戦、第2節と相手のプレッシングに苦しみ、ボール保持を放棄して挑んだリヴァプール戦から続いた連勝が途切れたシティ戦では、ボール保持が武器となるほどにチームとして成長していた一方で、今度はプレッシングでの弱みが大きく露呈したユナイテッド。シティのようなボール保持、ビルドアップの完成度を持つ相手がそう多くないことも確かですが、レスター戦、アーセナル戦、ソシエダ戦とプレッシングがハマらない試合が続いていた感は否めず、課題があることは間違いないと思います。
 ロングボール大作戦を行ってくる相手を含めて、今後どのようにボール非保持での振る舞いを考えていくのか、ボール保持により磨きをかけてその機会自体を減らすというのも1つの手段ではあります。その辺含めて、結果は残念でしたが、このチームの「成長」に今後も注目したいと思わせるような試合でした。EL挟んで次節は開幕2連敗後に6戦負けなしという謎多きランパード・エヴァートン。楽しみです。では。

タイトル画像の出典
https://mrfixitstips.co.uk/previews/manchester-city-vs-manchester-united-prediction-and-betting-tips/

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