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EL Round16 1stleg マンチェスター・ユナイテッドVS.ACミラン〜貴重なミランの同点弾は必然性を孕んでいる!?〜

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両チームのスタメンはこんな感じ。今シーズンは毎週ミッドウィークがあることもあり、プレミア以外ほとんど見れていない状況の自分からすると、多くの主力が離脱するミランのスタメンの中でメイテ、サーレマーケルズあたりは初見でした。一方のユナイテッドは前節からラッシュフォードが追加で離脱することとなり、ジェームズが左WGに入ったほか、ターンオーバー的な要因からバイリー、テレスを起用してきました。(クルニッチは㉝でした。すみません)

カギはボール非保持の局面!前半の主導権を握ったミラン 

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 上の図がミランのプレッシングを含めたボール非保持のかたちを表したもので、サウサンプトンのプレッシング、ボール非保持のかたちに似ていると思います(サイドバックの縦スライドの有無など相違点もあるけど)。このプレッシングによって、ミランは10',14',18',22',24',28'に成功し、ネガティブトランジションでのプレッシング(いわゆるゲーゲンプレス)で、9',27',45+1'にボールを奪え返すことに成功しています。ちなみにライン間に位置するブルーノに対しては全体をコンパクトにして、自由なスペースを与えないことで、ミランのダブルボランチがユナイテッドのダブルボランチをそのまま見るかたち(同数プレッシング)を見せたり、非ボールサイドのボランチが対応していました。この試合にミランがダブルボランチにトナーリではなく、運動量に自信がありそうなメイテを起用した意図が透けて見えます。

 ユナイテッドも苦しみながらも徐々に相手のプレッシングに慣れていき、3',13',20',26',32',43'にビルドアップに成功しています。その内訳は13',26'はスローイン、FKなどのリスタート獲得、3'はSB→ボランチによる相手の1-2列目間の利用、20',32'はGKの利用による数的優位の確保、43'は不明となっています。たいていこのようなプレッシングをしてくる相手には3'のようなビルドアップが理想的と言えますが、そのようなビルドアップがうまくいったのはこの一回ぽっきりで、ミランが同数プレッシングの頻度を増やしたこともありますが、ユナイテッドのビルドアップの「再現性の低さ」が露呈することとなってしましました。

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一応、図解してみました。少し小難しい言い回しですが、相手がサイドに追い込むプレッシングをしてきた際に重要なのは、その追い込みに従いながらも、どこかで相手の追い込みとは逆のベクトルのパス(横や斜めのパス)を通すことといえます。

それでも押し切られなかったユナイテッドの安定感

 ユナイテッドは相手のプレッシングに苦しみ、前半の主導権をミランに握られますが、ミランが完全に押し切る展開にならなかったのにはユナイテッドの撤退守備の強さ、定位置攻撃による崩しがある程度機能したことがその要因として挙げられます。(前半のスタッツを下記してみました。)

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(https://www.sofascore.com/manchester-united-milan/KsRdbより転載)

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 まず、お世辞にも機能しているとはいえなかったユナイテッドのプレッシングを見てみると、ほとんど相手がダブルボランチを置いた立ち位置でビルドアップする場合に行ういつも通りのプレッシングとほとんど変わりませんでしたが、強いて言うならAWBに縦スライドがほとんどの場合で行われていたことがこの試合のプランだったのかもしれません。ただ、ミランは14',23',25',34',45+1'とブルーノの脇とダブルボランチの脇(つまり噛み合わせのズレ)をうまく利用したビルドアップに成功したり、ロングボールを多用し、自らボールを捨てたりすることで、ユナイテッドのプレッシングをうまく機能させませんでした(プレッシングでボールを奪われ、ユナイテッドのチャンスとなるシーンを作らせなかったといえます)。

 ボール非保持のもう一つの局面、「撤退守備」ではユナイテッドの今日のSHはグリーンウッドとジェームズということで、4-4-2を採用。ラッシュフォードの場合は意図的に守備をサボらせて、「肉を切らせて骨を断つ」スタイルで守ることも多いですが、この試合ではAGも絡んでくるため、そのようなスタイルにはしなかったと考えられます。それによって、撤退守備における守備の「固さ」は増し、危ういシーンはありましたが、無失点で前半を折り返すことができました。

 そして上記スタッツのユナイテッドの「BIg chances」の1というのは恐らく、39'のCKからのマグワイアのシュートですが、このチャンスを生んだのがユナイテッドの「定位置攻撃」(ビルドアップ後の“崩し”のフェーズ)でした。

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これもユナイテッドのプレーモデル的な要素の一つですが、ユナイテッドは「定位置攻撃」の際にボランチの一角が「IH落ち」することで、相手2トップの脇からチャンスをつくることを試みます。このかたちから、「Big chances」の起点となった36'の崩しを生み、また8'にもマルシャルのボレーシュートを生む起点となりました。

 ミランのペースのようにも見える前半をほとんど互角に終えることが出来たのは、4局面においてどの状況でも「戦える力」がある今季のユナイテッドの強さに通ずる部分がある気がします。

ディアロの投入により機能し始めるプレッシング

 互角でありながらもビルドアップとプレッシング(=相手のビルドアップ)というサッカーの重要なフェーズにおいてうまくいっていないのはユナイテッドであったわけですが、マルシャルが負傷により途中交代となります。マルシャルに代わってディアロが投入されますが、怪我の功名とでもいえるようにユナイテッドのプレッシングが機能し始めます。マルシャルはシティ戦のようにモチベーションが高まると献身的な守備を見せますが、良くも悪くもプレッシングにおいてはあまり計算が立たない選手です。(その分、爆発力のある攻撃においては欠かせない選手でもあります。)

 若干マクトミネイがダロトに早めに寄せていることが見られるなど修正点もあるかもしれないですが、ユナイテッドはプレッシングのかたちというよりは「人」が変わることでプレッシングの強度を上げることに成功しました。

 そして、そのプレッシングからユナイテッドの先制点が生まれます。4'にプレッシングからドンナルンマのロングボールを回収したユナイテッドは一度ボールを奪われますが、カウンタープレスで奪い返して、マグワイアから2-3列目間に位置するブルーノにボールが渡ったところでファウルを得ると、そのFKを起点に今度は1-2列目間に降りてきたブルーノから裏に抜け出したディアロのヘッドで先制です。ブルーノは流石ですし、ディアロは身長は低いですが足元がうまい選手は競り勝てないだけでヘディングも上手いという私の仮説を証明してくれました(笑)。

29'の交代の是非について少し考えてみる

 ユナイテッドは得点直後こそ、激しいプレッシングを見せ、8',10'とプレッシングに成功しますが、その後は徐々にプレッシングの開始ラインを下げ、ユナイテッド→撤退、ミラン→定位置攻撃のフェーズが増えていきます。リードしているチームが撤退してカウンターの機会を伺うのはサッカーの定石ですが、29'に個人的にはこの試合のキーポイントとなったと思われるユナイテッドの交代がありました。

 ミドルゾーンでのプレッシングを試みることが多くなったユナイテッドですが、ダブルボランチの脇を使われ11',15',22'とビルドアップされるなどのシーンが多くなったところでの29'の交代となりました。自分はこの交代を最初に見たときは、「相手との嚙み合わせを合わせるために5-3-2にするのか!」と感激していましたが、そうはならず以下のような並びになりました。

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ブルーノ→フレッジ、AWB→ウィリアムズ、ジェームズ→ショーとそれぞれ変わった選手がそのままの立ち位置で入る交代となりました。交代する選手から鑑みて、恐らくこの交代はターンオーバー的な要素が強いと思われますが、この交代によって試合の風向きが大きく変わったのも事実だと思います。常に週2試合が行われる過酷な今シーズンにおいて、このような交代に対しては致し方ない面もありますが、この交代以後、ユナイテッドはビルドアップが機能不全となり、ミランが終始、ユナイテッド陣内でプレーする機会が増えていきます。実際、後半にミランが(ゲーゲンプレス[G]も含め)プレッシングに成功したのが交代以前が19',20'×2',22'[G]で、交代以後は31',32'[G],33'[G],38'[G],43',44'となっていて、気持ち程度かもしれませんが交代以後に増加していることがわかります。ミランのゲーゲンプレスの値が伸びたのは、フレッジがトップ下にいたり、ショーが左SHに置かれたのも一因だと思われ、ユナイテッドがボールを奪い返した後の判断のスピードの低下につながったといえます。(※先ほどのマルシャル同様、これは彼らへのディスリスペクトではありません。ショーやフレッジはジェームズやブルーノとは違ったすばらしい特徴を持った選手には変わりありません。)

 個人的には4-2-3-1のままでいくのであれば、(勇気がいるは判断ですが、)ショーではなくショレティレをという選択肢もあっただろうし、5-3-2に変更するという手もあったのではないかとは思います。ただ、これはクラブマネジメントなどは全く知らない一素人の結果論的意見なので、スールシャールの采配を責めるわけではありませんし、正直タイトルも重要ですが、まずは来季のCL権の確保ということを考えたときに、EL優勝よりもPL4位以内確保の方が現実的だということも理解できます。読者の皆様には、あくまでも試合におけるターニングポイントになったのではないかなということで考えていただけると幸いです。

そして、ミランがフレッジのパスをカットしたポジティブトランジションの局面から、メイテが「時間」を得ると、ディアロが上がっていたスペースに入ってきたレオンが個人技からコーナーキックを獲得し、そのCKをケアが合わせて同点弾となり、そのまま試合は終了となりました。

 トータルスコアではリードされたユナイテッドはこのラウンドを突破するためには2ndlegで2点以上取る必要が出てきました。2ndlegではリードしたミランがどのような振舞い方をするのか(プレッシングor撤退)、もし1stleg同様の強力なプレッシングを掛けてくるのであれば、ユナイテッドがそれをどのように剥がすことが出来るのか、が注目ポイントです!そこには、両チームの離脱者が一週間でどの程度戻ってくるのかがキーになるかもしれませんね。それでは。

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