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明るい夜に

それはほとんど月のフチ。明日は仏滅で新月か、真っ暗な世界が待っているぞ、という予告のような三日月。

電車を数分乗れば繁華街に着く。新月だろうと満月だろうと明るい夜がそこにある。でも、少し街灯の少ない道を歩くと、その差は歴然。満月の日の夜の明るさに驚く。真っ暗な日を真っ暗だと思わないけれど、満月の日は明るいことに気が付く。だからそれは、ほとんどの日が暗いことを意味している。生き物っていつも何かと比べて生きているから分かってしまう。それは優劣の場合もあれば、経験から差を見つける場合もあるだろう。

「もっと良い人が現れるかもしれない」と、結婚を踏みとどまっている人がポロリと本音を漏らした。一度も結婚したこともなければ、結婚について具体的に考えたこともない人生と承知の上で言うが、人と人を絶対に比べてはいけないと思う。酔っ払いの席での話だから、伝え方のニュアンスが少しずれたのかな、とは思うけど、なんか、そういうことではないんじゃないかって思ってしまった。だから「比べるものじゃないんじゃない?」と、知ったような口を利いてしまった。ハッとしたような顔をしていたけれど、イラっとさせてしまったかもしれない。でも言わずにはいられなかった。もしそういうことなら、私はやはり結婚できない類の人間かもしれない。新月の夜、会ったばかりの人たちと、浅いような深いような話を朝までしてしまう。

「ああ、明日は満月だ。」少しだけ欠けた月を見ながら一人で歩いている夜。明日はあの子を誘ってみようと、明るい夜の日に、明るい夜の計画を立てた。

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