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『辻角Lawyer』レビュー/籠り虚院蝉

点と点が繋がり巨額事件の背景が見えてくる司法×金融ハードミステリ。

金融について門外漢の自分も非常に興味深く読ませていただきました。正味10万字の作品ですが、そうとは感じさせない内容の濃さに高い満足感が得られる作品です。

所属する弁護士事務所所長が失踪し、のちに自殺体として発見されることに端を発した一連の事件が、やがて弁護士界の非弁提携(弁護士資格がない者に弁護士業務を委託する)問題に繋がり、やがて裏社会とも関わる巨額のマネーロンダリング事件として発覚するという流れです。

専門的な用語がかなり多く正直なところ読むのにかなり難儀しました。その分いろいろ調べながら読むことができ、作品内容と合わせて業界のディープな知識を得ることができました。いわゆる「わかりやすい」小説が求められる昨今(あるいはカクヨム上で)でこのようなハードな内容の作品は需要がないと思われる方も多いかもしれませんが、自分はそうは思いません。

また狭義の「お仕事小説」と呼ばれる作品かもしれませんが、いま流行りの要素は一切なく、登場人物も悩みや苦しみを抱えながら仕事にストイックに取り組む「不器用な大人」たちが活躍しており、カクヨム掲載の作品としては非常に読み応え十分です。書店の文芸棚に並べられていてもおかしくないと思います。

惜しむらくは最初に述べたように、この作品が約10万字でまとまってしまっていることでしょうか。ここは諸刃の剣だと思います。かなり専門的な要素を取り扱っていますが、事件に言及する説明に割く文章量が少なく、時系列に関しても一年後と一年前を行ったり来たりする構成になっているのでやや混乱します。実際、連載途中でエピソード順を変更したようです。

上記さえクリアすれば作品単体としての完成度が飛躍的に向上すると思います。カクヨムコンでは評価が難しい作品ですが、それゆえ受賞して書籍化、一般文芸市場で日の目を見てほしい作品であります。

籠り虚院蝉

本レビューは発売前のプレ版を「カクヨム」で公開したときのものですが、現在は公開しておりませんので原文のまま転載しました。またkindle版では指摘箇所を修正しました。


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