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オウンドメディア運営のため「社員ライター育成」の仕組みの作り方

過去2年にわたって「新規事業」をテーマにしたオウンドメディア運営を続けてきました。今日はその中で取り組んだ「社員ライター育成」の試行錯誤について書きたいと思います。個人的に今後の企業にとって「書ける人のチーム」というのは得難い財産になるのではないかと思っています。それがどうすれば形成できるのか、自分達の試行錯誤と、そこで得たインサイトを書いてみたい思います。

1. オウンドメディア運営と課題

2018年から企業内新事業インキュベーションの部門で「新規事業」をテーマにしたオウンドメディア運営を開始、自分は編集長的な役割で携わってきました。これです。

パナソニック アプライアンス社の企業内アクセラレーターとして「未来の『カデン』をカタチにする」をビジョンに据えて活動しているGame Changer Catapultのオウンドメディアです。

「オウンドメディア運営」や「コンテンツマーケティング」については、素晴らしい先行事例が多く、イベントに参加して学んだり、書籍で学んだり、ネットワーキングで質問できる人脈を作る、などしてゼロから作り上げてきました。

運営する中で慢性的な課題として上がったのが、「書ける人リソースの不足」。一つ一つのコンテンツのクオリティ向上、ターゲットへの最適化など、他にも重要なことは多々ありますが、「何も言わずにまずは100記事」(社外で繋がりのあった方に教えていただいた名言)という言葉があるように、「コンテンツの量」も重要な要素であり、解決することが難しい課題でした。

コンテンツ量を増やそうとした時にネックになるのが「書ける人リソース」。自分が「一人編集長 兼 ライター 兼 営業(SNSなどのリーチ施策)」という状態が長いと、自分の書ける分量が書くリソースの上限になってしまいます。一方で、そこを外注すると、記事を増やすごとに外注費用がかさむ構造になり持続性がないし、社内にナレッジを貯めることができない・・・、と悩んでました。

2. リソース確保の工夫:社員をライターとして育成する

コンテンツが量産できないことの何が問題か?私たちの場合は「自分たちの活動(各事業の進捗状況のレポート、イベントレポートなど)」についてタイムリーに伝えきれていなかったことが課題として上がっており、そこにリソースを投入したいという思いがありました。

もちろん、本来であればその事業に携わる本人、イベントに出展した本人が自らコンテンツを書くのが一番いいし、そのための方策も検討中です。一方で、事業開発をやっている本人はそこに100%力を注いでほしい、という思いもあり、別の方法を模索していました。

そこで書くリソースを確保する方法として私達がトライしたのが、社員ライターの育成。他部門の若手社員を社員ライターとして育成し、私たちのオウンドメディア運営に協力してもらうということに取り組んできました。

3. 社員をライター育成する上で工夫したこと

では、具体的にどんなことをやってきたのか、いくつかポイントをあげてみます。

① ライター候補のスカウト
まずは社員の中からライターに向く人をピックアップする必要があります。ライター候補については、編集チームのメンバーが各自で知っている&適性がありそうな社員をピックアップしてスカウトする形でやっていました。気をつけたのは、「ライター候補と私たちの間にWin - Winの関係を構築できることを意識してメンバー探しをすること。」私たちの側のWinは「記事を書く労働力を提供してもらうこと」とはっきりしています。逆に私たちは何を提供できるか。給与のような形で報いることができないので、ここは真剣に考えました。具体的には、「参加者の興味関心に沿ったイベント参加の機会提供(チケット提供)」「社内外の人脈形成をサポートする」というようなことが私たちが提供できるWinとして提示していました。だからこそ、手当たり次第ではなく、自分たちの持っているトピックスと興味関心が合う人に声をかけるよう気をつけていました。

②取材ナレッジの明文化と目的意識の共有
上記のように、「イベント取材」をお願いすることが多かったので、取材のナレッジを明文化して、事前トレーニングができるようにしていました。具体的には下記のようなことをトレーニング
- イベント概要・自分たちの出展意図
- イベント現場での撮影してきてほしい写真構図の一覧
- 話を聞くべきキーパーソンと、それぞれに対する想定仮説の事前検討

加えて、私たちのオウンドメディアの目的意識を共有することも丁寧にやるようにしていました。なぜ新規事業に取り組む自分たちがわざわざオウンドメディアで「伝える」ということにもこだわっているのか、「伝える」ことで新規事業開発の側にもたらしたいメリットは何か?ということを事前に話し合っていました。

③記事の定型化 & トピックス時点での方向づけ
これは社員ライター活用のためにやったことではないのですが、自分たちで制作する記事も含めて、記事を定型化 (リード文+4段落、各段落に写真を1枚添付)しています。これは書き手を増やしていくためにも非常に良かったです。普段文章を描かない人が「文章の構成は自由です」って言われると固まってしまうと思うので、「埋めなきゃいけない枠が決まっている」という状態を作るとライターさんにとっても作業を進めやすそうでした。

定型化されている枠を生かして、 イベント後なるべく早い段階で、「各段落に何を描きたいか箇条書きで書いて提出してもらい、チェック」というステップを入れていました。事前に社員ライターと私の間でチェックし、その内容を編集会議にかけ、記事の方向性をその場で決裁者、編集会議メンバー、社員ライターの3者間で合意してから実際に原稿を書くというステップに進んでもらっていました。

④丁寧な事後ヒアリングを通じて参加者のWin作りに繋げる

参加してもらった後は、この取り組みに参加してよかったこと、マイナスポイント、苦労した点などを毎回丁寧にヒアリングしていました。始まったばかりの取り組みなので、どうすれば参加する社員ライターがスムーズに参加できるか、参加者のWinをどうすれば作れるかという観点でヒアリングを実施。また、別部門の社員の自主的な意思で協力していただいているので、先方の上司に正式に協力への感謝を伝えることも毎回やっています。

実は③のポイントなどはこのヒアリングから出てきたポイントだったりします。最初は原稿を書いてもらった上で編集会議にかけていたのですが、ヒアリングの結果やり方を変えました。社員ライターにオウンドメディア運用に参加してもらう上で難しいのは、「独自の視点を生かして自由に書いて欲しい」一方で、「オウンドメディア全体の方向性の中で抑えて欲しいポイントは書いてほしい」というすり合わせが必要になることです。それであれば原稿ではなく、箇条書きの部分で確認すべきという点に気づくことができました。

①のライター候補のスカウト方法ともつながりますが、「参加者のWillが繋がるように」ということはかなり意識してやっていました。企業内新事業インキュベーション取り組みであるGame Changer Catapult自体が、従来の上意下達の組織ではなく、参加者一人一人の自発的な情熱や意欲に突き動かされて目的に向けて邁進する新しい形の組織を目指している、というのもその理由の一つです。関わる人の意欲が最大限に発揮されるにはどうすればいいか、というのもヒアリングのポイントの一つでした。

4. 成果

試行錯誤しながらの取り組みでしたが、オウンドメディア運営に「社員ライター」が参加することで下記のように色々な成果をあげることができたと思っています。

①記事のクオリティアップ : 新しい視点の獲得
部門外の若手社員にライターとして参加してもらうことで、結果的にいろいろな職種・プロフェッショナル(商品企画・エンジニア・デザイナー・マーケターなど)に記事を書いてもらうことになりましたが、それが良かったです。部門内メンバーのみで書いている時よりも多様な視点が得られ、それぞれのバックグラウンドを生かした深いインサイトが含まれた記事を作ることができるようになりました。

②記事量の確保 & リーチの確保
「書ける人リソース」を増やすことにより、もともとの狙いだった記事数の確保もできるようになりました。(一方で、社員ライターさんに最初に参加してもらうときは、上記のようにレクチャーも丁寧にやらなければいけないので、期待したほど手放しで記事数が増えるわけではない、という現実的なこともわかりました。後述しますが、書ける量をもっともっと増やしていくためには、参加してくれるライターさんをコミュニティ化し、なんども携わってくれる仕組みを作る必要があると思います。)

加えて、もう一つありがたかったのはライター自身の友人などへのリーチが期待できることでした。こちらからお願いしたこともあり、「こういう記事を書きました」と拡散してくれる参加者が多く、今までリーチできていなかった読者に社員ライターを通じてリーチできるのは良かったです。

③参加者がWinを感じてくれたこと
ヒアリングの結果、参加者が以下のようなWinを感じてくれたことについても非常に嬉しいことでした。

- 「新規事業」の現場に携わる機会
- 社内外の人脈形成
- 自分の名前でコンテンツを制作・発表する機会

特に若手社員の中には「新規事業に携わってみたいけど、今はまだそのチャンスがない」という思いを持った社員も多く、その人達にとって、「事業を作る」以外の方法で参加する機会を提供できたことはすごく良かったかなと思います。Game Changer Catapultへの理解・エンゲージメントが高められました。

欲を言えば、今後は「書きたい」「コンテンツに携わりたい」という思いを持つ人にとって、「発表の場としてあそこに書いてみたい!」「ここに記事を出せたら嬉しい!」とおもってもらえる場にしていければ、とおもっています。

5. 今後の課題

①オウンドメディアに携わってくれるライターコミュニティの形成
まだそれぞれのライターさんに1度ずつしか参加できてもらえてないので、繰り返し携わってもらい、ライターコミュニティを形成するところまでやってみたいなあと思っています。

先にも書きましたが、初めて参加する場合最初のトレーニングも結構リソースを割く必要があります。(目的意識共有、現場取材ナレッジの伝授、トピックス出しの支援など)なので、それを身につけてくれたライターさんの参加を1回で終わらせるのがもったいなかったです。2回目目以降の参加を募って、それぞれのライターさんの強みや専門性を生かしたオファーとかができる体制を作っていければなあと思っています。当初の目的である記事量の確保という意味でもそれは必須だなとおもっています。

②「書ける人クラスター」の形成
この社員ライター育成の企画を含め、オウンドメディア運用の仕事をすることで、「書く」ということはかなり向き不向きがあることに気づきました。「あんまり苦労しなくても書ける人」とか「書くのが好きな人」、「書くことにやりがいを感じられる人」もいれば、そうでない人もいる。自分が見てきたことからインサイトを抽出し、ひとまとまりのコンテンツとしてまとめられる「書ける人」というのは非常に貴重だなと気づきました。

今後企業が自らのことを自分の言葉で語る必要はますます高まると思いますし、「書ける人」の存在も非常に重要だと感じています。一方で、(少なくともうちの会社では)「書ける」というスキルは職種・職能や社内のスキルとして規定されていないので、どこに書ける人がいるのかというのはよくわからん、ということもわかりました。「書ける人クラスター」としてまとまっていないのです。

「書くこと・文章で表現すること」が得意、好き、という共通点をもつ人をクラスターとしてゆるくつながっていく、その力を企業の声を伝えるために生かしていく、ということも将来やっていきたいこととして見えてきました。

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