タイトル

背部触覚刺激による長期利用を目的とした自発的姿勢矯正システムの構築(その3:関連研究)

姿勢改善を促す研究では不良姿勢を検出しフィードバックを返す手法が多く用いられている.その中から,様々なセンサを用いて姿勢検出を行い,フィードバックを返す研究を紹介する.

美体化装置のこれまでの研究と課題

石松ら [1] は,Microsoft の Kinect センサーで姿勢計測を行い,不良姿勢が一定時間継続 すると背中に触覚刺激を提示し,半強制的に姿勢の改善を促すシステムを製作した.図1.1に先行研究のシステムの概要,下部に制作された装置を示す(図1.2).

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(図1.1 先行研究[1]で制作された装置)

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図1.2 先行研究[1]で制作された装置

また,視覚情報を提示した場合との比較実験によって装置の有用性を検証した.その結果,触覚刺激と視覚情報どちらのフィードバックでも姿勢を正せたことが明らかとなったが,姿勢の正し方,刺激の気付き やすさに違いが見られた.
また姿勢の正し方について,視覚情報は頭から下方向に姿勢を正 していたのに対し,触覚刺激は腰から上方向に姿勢を正していた.骨盤を前傾させることで, 身体に負担をかけずに良姿勢をとることができることから,腰から上方向に姿勢を正した触 覚刺激の方が姿勢を維持できる可能性がある.
しかし,被験者の姿勢の検出を Kinect による 画像処理で行っていたため,計算処理が膨大で30分以上の測定ができない問題と,触覚刺 激の提示距離が一定だったため,不良姿勢時に前傾姿勢になった時,背面上部に触覚刺激提 示部が届かない問題があった.これらの先行研究での課題を踏まえ,姿勢検出部と触覚刺激 提示部,前後運動部の改良を行う.

近接センサと3 D 運動解析システムを用いた姿勢検出に関する研究

Won ら [2] は,近接センサで姿勢を検出し,音のフィードバックを返すシステムを提案し ている (図 2.1).2 つの長距離近接センサ(AS80-50DN3,Autonics,Republic of Korea)を 椅子に設置し、姿勢検出を行った.近接センサによってユーザの状態を検知し,3 D 運動解 析システムによって検知された頭部,肩,および胴体の屈曲角度から,音のフィードバックの 効果を検証した。頭,肩,および胴の角度は,3 次元運動解析システムでは CMS-HS(Zebris Medizintechnik,Isny,Germany)を用い,5 つのマーカでキネマティックデータを記録し解析した (図 2.1).実験の結果,音のフィードバック装置は,VDT 作業によって発生した首や 肩の痛みの予防に効果があることが示唆され,良姿勢を促進できるシステムになったと述べ ている.Won らの研究は,VDT 作業の短期的な影響のみを検討したものである.将来的に は、長期間の姿勢変化のパターンを解析し,身体の運動や筋電図のデータから,不良姿勢を 習慣化することが筋肉の機能不全に影響するかどうかを検討すると述べている.

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図 2.1: Won らのシステム

視覚的フィードバックを利用した不良姿勢の通知に関する研究

Daian ら [3] は,圧力センサを設置した椅子を用いてユーザの姿勢を検出し,コンピュー タ横のエージェントでフィードバックを返すシステムを提案している (図 3).圧力センサに よってユーザの状態を検知し,長時間の座位姿勢が検出されると休憩やエクササイズを行う ようにエージェントのモーションと音声によるフィードバックを返した.また実際の労働条 件下でシステムの実用性を検討するため,音声フィードバックのみの場合と比較した.その 結果,エージェントのモーションによるフィードバックは,不良姿勢の通知,休憩時間の通知,エクササイズの通知時に強い影響を与えたと報告している.加えて,音声フィードバックについてはオフィス環境に適さなかったという意見があった.将来的には圧力センサだけではなく,マウスの操作や首の位置を検出して不良姿勢を検出できるようにしたいと述べている.

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図 3: Daian らのシステム

本研究では,上記の研究とは異なり,触覚刺激のフィードバックを行うことで能動的に筋
肉を動かし姿勢を矯正できるものを目指す.

[1] Haruna Ishimatsu and Ryoko Ueoka : BITAIKA: development of self posture adjust- ment system. In Proc. of the 5th Augmented Human International Conference(AH ’14) Posters No. 30. ACM, March 2014.

[2]DIMSDRIVE: 「スマートフォンの使い方と姿勢」に関する意識調査 (2013) http://www.dims.ne.jp/timelyresearch/2014/140204/ (2016 年 12 月閲覧)

[3]Won-gyuYoo,Chung-hwi,Yi and Min-hee Kim. Effects of a Proximity-Sensing Feedback Chair on Head, Shoulder, and Trunk Postures When Working at a Visual Display Terminal;Journal of Occupational Rehabilitation,December 2006, Volume 16, Issue 4, pp.631-637.


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