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トトロのすごさ

 今日は金曜ロードショーで「となりのトトロ」の放送があった。公開から30年経った今でも毎年必ず放送され、何百回とお茶の間に安らぎと癒しを与えてきた作品である。

ジブリで一番好きな作品は何?

 友達の間で必ず出てくる質問。
 
 正直言うと、私のナンバーワンは『ハウルの動く城』だ(先週放送済)。その理由を一つ挙げるとすれば、大人のジブリだから。ハウル~には宮崎駿監督作品で初めて、純粋なキスシーンが入れられたと言う。恋愛を取り上げた作品はあっても「愛」にフォーカスしたものはなかったように思うし、それがとても美しく、豊かに描かれているところが大好きなのである。

 で、今回のトトロを考えると、ハウルとは正反対の作品であると感じた。ハウルだけでなく、ナウシカやラピュタやその他の作品と比較した時、ジブリ作品の定番ともいえる「主人公-敵」「平和-戦争」「自然-破壊」「正義-悪」というような描写が全くないからだ。

 そう、トトロには「悪」がいない。戦争とも愛憎とも裏切りともほど遠い場所、桃源郷のような世界での出来事である。皆がどこまでもいい人で、不思議な森のいきものはどこまでもカワイイのである(見方によっちゃ不気味だけど)。これは物語を作るにあたっては結構タブーとされることである。では、これも物語の大事な要素である「主人公の成長」が描かれているかというと、母が病気で入院中であるというハンディキャップはあるかもしれないが、サツキとメイは周りの大人や友人たちに愛され、支えられていて、その上、トトロにもネコバスにも助けてもらっている。普通に、恵まれた女の子の話なのである。それを成立させるというのは並大抵のことではない。むしろ、作りとしては絵本的なのだと思う。

 ではなぜ。こんなにも(擦れた)私の心を掴むのだろう。それは描写の美しさが大きい。サツキとメイが引っ越してきた町は皆がイメージし、憧れる田舎の風景そのもの。大きな木と、少し古びた家、水の澄んだ川、風にそよぐ田んぼ、取れたて野菜の瑞々しさ・・・都会育ちの人でも、なぜだか「懐かしさ」を感じてしまうだろう。
 そして、物言わぬトトロの何とも言えぬ表情。眼の大小で、瞳の動き方で、鼻の膨らみ方で、何を考えているのか分からないけれど、何となく分かってしまう。例えば、トトロがサツキに貸してもらった傘を差し、その傘に当たる雨音が楽しくて、木に滴る雨粒を全部落としてしまうシーン。眼が少しずつ大きくなって、最後には鼻も口も全開になる。「あぁトトロ、それ楽しいんだね」ってなでなでしたくなる。トトロが「おいで」と言わなくてもついていくし、「大丈夫」と言わなくても安心感をくれる。でもきっとトトロは何も考えてない。それでいい。それがいい。

 あと、見る度にこちらの視点が変わったり、忘れたりすることもあるから、毎回何かを発見して「キャッ」って嬉しくなる。

 ネコバスが帰る時は行き先掲示板が「す」。めいを探しに行くときは「めい」。たまに漢字を間違えている。芸が細かい。ネコバス、大好き。

 あと、初めて泣いたかもしれない最後のシーン。

 サツキとメイは、ネコバスに送ってもらったんだから病院に駆け込んでもいいところを、窓の外にトウモコロシを置いて帰るって本当に素敵。お母さんは娘たちの気持ちを痛いほど分かっている。ガッカリさせてしまったことも、たくさん我慢していることも。だから娘たちも、母に会うために迷子になってしまったことやどうやってここに来たかを言わず、母を遠くから見つめている。「お母さんのために頑張ったよ!」って言わない娘の健気さ。愛しかないやん。これはつまり、家族を想う気持ち。泣ける。

 そして、エンディング。よくよく見ると、ここにもちゃんとストーリーがある。お母さんが家に帰って来てからの家族のカタチ。ここら辺は、金曜ロードショーの公式Twitterが詳しく解説しており、製作秘話もたっぷりあるから、チェックしながら映画を見るとなお楽しい。

 30年間、変わらず私たちの心に生き続けるトトロ。どこかで遭遇してしまうのではないかと思わせる世界観。古いようで新しく、新しいようで古い。また来年も見るだろう。トトロのすごさは、この先何百年も続いていくだろう。

 こんな作品を書ける人物になりたい…。トトロに会いたい…。

 (注)トップの写真はカピバラさんです。

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