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IPO前後の組織崩壊を防ぐには。社内横断チームの組成と仕事内容

私は過去に売上2000億円を超える大企業、売上200億円規模の業績が右肩上がりのメガベンチャー、グロース市場に100億円規模で上場した企業に勤務してきました。

n3〜n1フェーズのIPOを狙っているような企業においては、事業拡大に人材採用が追いつかず、既存のメンバーで上場準備をしていくフェーズにある会社も多いと思います。

上場経験や準備をしている企業の経営者の方は、上場審査に耐えられる体制づくりや更なる業績アップに頭を悩ませていることでしょう。

その中で、古参メンバーの中から
「経営側は現場を理解してくれていない!」
「ルールばかり増えて会社が面白くなくなった」
「社長は変わってしまった」
というようなコミュニケーションも発生しているかもしれません。

私はこのような問題の本質は「中間層のマネジメント不全」にあると考えています。
※マネジメントと言っても幅広いので、この記事では「経営上の効果を最適化しようとするコミュニケーション」をマネジメントと定義します。

一般的に企業が大きくなっていくに従って、縦割りの組織図になっていきますが、IPO前後の若い組織の場合、高いレベルでのマネジメントを任せられる人間は多くはないでしょう。

採用が強い会社であれば、外部から優秀なマネージャーを採用できるかもしれませんが、そのような人材はどの会社も欲しいため、熾烈な争いに巻き込まれます。
また、採用したとしても組織文化や人に馴染めない可能性もあり、最悪の場合、採用前よりもひどい組織コンディションになったという話も幾度となく聞いたことがあります。

外部から採用できない場合でも、ガバナンスの体制上、ある程度のピラミッド構造と権限分離が求められるため、誰かをマネジメントの役割に立てる必要があります。

このような事情で、マネジメントを経験したことがない人の中から選出されていくことになるのです。

ですが、白羽の矢を立てられた人が重要な役回りを理解し、求められる要求の高さを実感してくるにつれて、突然退職したり、病んでしまったりするケースも多々あります。

そして経営層は次のマネージャーを1から探す、という負のサイクルに陥って行くのです。

上記のような最悪の状態を避け、本来のマネジメントを機能させるための役割として、「マネージャーの任命と同時に社内横断組織を組成する」という主張が本記事の趣旨になります。

ここで、筆者の職歴についても少し自己紹介させてください。
私は今まで幸運にもメンバーから経営者に近い管理職での経験まで、さまざまな視座が求められる環境で仕事をさせていただいてきました。

歴任した役職としては「クロスファンクションチームマネージャー」や「社長室長」という組織図の右上あたりに出てきそうな経営とも管理とも事業とも異なる不思議な立ち位置でした。

経営者でもなく、メンバーでもない。
中間に立つ役回りが多かったからこそ、どちらの考えも理解することが出来るようになったのですが、周りを見渡すとそのような経験が出来ているビジネスマンはごく少数。

社長もメンバーも管理職も、もちろん当時の自分も視座の違いに非常に苦労したので、自分の経験が誰かの役に立てればと考えてこの記事を書くに至りました。

時には社内コンサルのような立ち位置で横串で組織に切り込んだり、事業責任者として数値にコミットしたり、社長からの毎日の無茶振りの100本ノックを受けたりと、振り返ると地獄のような瞬間しかなかったような気がしますが、今後の自分のキャリアに取ってはただただ有意義な経験でした。

職務経歴(要約)
・上場準備に伴う経営と現場のディレクション:2018年に同社は東証マザーズに100億円以上の規模で上場
・就活生向けメディアの集客:国内の就活生の2/3以上が登録するメディアに成長
・オウンドメディア、WEB広告活用によるリード創出/ブランディング
人材紹介サービス:サービス開始から10,000名以上の集客、月間コスト6万円程度で150〜200人の新規登録
代理店向けサービス:サービス開始から10,000件以上の受注実績、年間4,000件以上のリード獲得
・開発ディレクションフロー整備:ディレクター1人工分の工数削減
・買収後の新規メディアグロース:一年で125%の成長。その後数億円規模での事業売却
・上場審査に耐えうる予実管理体制の構築、コンテンツのクオリティコントロール
・中途採用(チャネル選定、要件定義、候補者の集客戦略立案、面接、選考管理シートの作成と改善)半年で目標の8名の採用に成功。
・クロスセル促進による全社売上最大化
サービスごとのペルソナ再定義
顧客分類とそれぞれに対する打ち手考案(潜在層、顕在層、準顕在層、明確層)
CRM戦略の立案と実行(全体戦略立案、メルマガ・営業企画、ターゲット設定、現場フィードバック体制の構築など)
・広報オペレーションの確立
社内プレスリリース配信・チェックフロー構築、企業ブランディング目的の調査プレスリリース企画、作成

この記事を読んでいただくことで、IPOを目指している企業の経営者の方は横断組織の役割についての理解、既に横断組織で働かれている方は似たような境遇の人間の動き方の参考に。
みなさんが直面している課題に役立つ箇所があればぜひやり方をパクっていただき、関係なさそうな箇所は遠慮なく読み飛ばしてください。

この記事が誰かの役に1ミリでもお役に立てることを願っています!

社内横断組織の役割について

最終ゴール
社内横断組織の役割は事業内容や企業フェーズによって多少変化しますが、一言で表現すると「経営の最適化」に尽きると考えています。
例えばIPO準備企業においては、IPOに必要な準備やフローの構築を行うという役割が短期的な経営の最適化にとって重要ですし、上場後は、新規・既存事業の利益最大化や人材開発が経営の最適化につながるかもしれません。

具体で落とされるミッションが新規の取り組みや短期プロジェクトが多いことから、事業部と比較して何の仕事を行っているか不明確になりがちですが、「経営の最適化」という軸を持っていればどの業務も筋が通るでしょう。

よくあるアサインミス
IPO組織における社内横断組織メンバーのアサインでよくある失敗は頭でっかちで機動力の低い人に任せることです。
私の過去の上司の例をご紹介しましょう。
とある外資系の戦略コンサル出身者で非常に頭のキレる眼光の鋭い方と仕事をしたことがあります。
その方の作る今後の戦略のパワポはとても見やすく、説明もロジカルかつ納得性の高いもので、誰が聞いても非の打ちどころがないものでした。
しかし、その方は絵に描いた構想を実現できることなく、ほどなくして会社を去っていきました。

本人ではないので、退職の真理は測りかねますが、結果が出なかった理由は明確。
自分で現場に降りることが出来なかったからだと推察しています。

指示は的確で分かりやすいのですが、トラブルが起きたり、数値目標が未達になりそうなタイミングでも自分は動かず、静観するというスタンスだったため、現場からの信用を無くしたり、本当の意味で結果にコミットすることが出来なかったのです。

成熟していない組織における横断部隊は、戦略だけ描く、営業・マーケティングだけやる、という限定的な守備範囲だけでは成果を出すことができません。

必要となればど現場まで降り立って自ら火中の栗を拾いに行く、くらいの気合いの入った人間をアサインすると良いでしょう。
この章の最後に私が実際に行った業務の一部をご紹介します。

・上場準備における予実管理
上場に向けて予実管理は必須項目です。
しかし、定期的に経営側と予実の確認をする会議体がなかったので、月曜の朝8時から予算会議というMTGを設定しました。
事前に現在の実績と着地予測を入力してもらうのですが、一番苦労したのが「予実を期限通りに入力してもらうこと」です。
新卒でも出来そうな内容ですが、私が会議の運営を引き継ぐまでの1年間で、リマインドなしに期日通りに全事業部の入力がされたことはありませんでした。
というよりも、リマインドをしても当日まで入力されないこともザラにあります。
最終的には、入力をしないマネージャーと金曜の夜に強制的にMTGを入れ、入力が終わるまで横に座って監視するところまでやっていました。

また、予算会議の初期は予実シートに税抜税込の表記が混在していたこともあり、全社の請求書を一項目ごとに確認し、入力数値との整合性の確認を行ったこともあります。
ルールが事前に定められていなかったことが原因だったので、マニュアルを整備し、何度もミスをフィードバックすることで3ヶ月ほどかけて改善していきました。

・中途採用、半年で目標の8名の採用に成功。
IPOを経験した会社はメディア事業がメインの会社だったので、ライターやディレクターの確保が事業成長に直結する課題でした。
当時は専任の採用人事がいなかったため、急遽「何とかして半年以内に中途採用者を増やしたい」とリクエストされました。
自分で転職エージェントを使ったことはあったものの、採用する側の経験はゼロ。
ネットと本とSNSと知り合いの人事から二週間ほどで一気に情報収集を行い、採用チャネル選定、採用要件定義、候補者の集客戦略立案、面接、選考管理シートの作成と改善を見よう見まねで進めていきました。
特に見極めに自信がなかったので、書類審査はかなり甘くし、エントリー者とは極力お会いするようにして現場感を養っていきました。
結果としては、半年で営業やディレクター、ライターなど職種で必要な人員の確保に何とか成功。当時採用したメンバーの一部とは会社が変わっても定期的に情報交換ができる間柄になりました。

・担当メディアを一年で125%までグロース、その後数億円規模での事業譲渡
上場後は横断部門の役割が少なくなったので、新規事業を担当しました。
上場資金でとある特定ジャンルのメディアを買収し、そのグロース役を任されたのです。
個人で運営されていたメディアだったので、上場後の会社の基準に添うようなガイドラインを作成し、コンテンツリライトから始めました。
最初は私一人で2メディアを担当し、1000記事ほど確認・本文の修正を1ヶ月で行ったのち、コンテンツ作りに着手しました。
社長からは売上を伸ばせば何をしてもよい、ということを言っていただいたため、アフィリエイトの会社との交流会に参加したり、ユーザーインタビューをしたり、広告を回したりと色々試行錯誤しました。
結果的に、経営方針転換になり、一年後にメディアの譲渡が決定。
自分が関わったメディアを今度は引き継ぐ立場で、譲渡先企業の代表とのやりとりやリスクの説明、相手先に常駐して担当者へオペレーションを落とし込むなど、貴重な経験をさせていただきました。
メディアが成長したこともあり、結果的に数億円規模のディールとなりました。

社内のステークホルダーとの付き合い方(経営層、古参メンバー、現場メンバー)

既に所属している組織で横断部門に配属されたり、横断組織担当として転職する場合、一番の難関は既存キーメンバーとの関係値構築です。

転職で入る場合は特に、既存メンバーからは絶対にお手並み拝見、という目線でみられます。
繰り返しますが、必ず見られます。
つまり、自ら現場の情報提供をしてくれる協力的な人はおらず、自分で現場の情報を取りに行く必要があります。

特に、古参メンバーの社内に対する発言力は社長以上の場合もあり、初手でのコミュニケーションを誤るだけでその後の仕事の難易度が格段に上がることもあります。

反対に言えば、初手から有効的な関係性を構築できれば、社内横断の仕事ははるかにやりやすくなります。

古参メンバーの特徴として、社内の主力事業を立ち上げたり、自ら管掌チームメンバーの採用に携わったりして、独自のチーム文化を築いていたりします。
一方で、本来の意味でのマネジメントに慣れていなかったり、PLなんて言葉を初めて聞いた、という方も少なくないでしょう。

冒頭にご説明した通り、部門横断組織はこの古参メンバーのマネジメントスキルを補填する役割も担うため、信頼と信用を得ることは大前提です。

数多くの失敗をした上で、効果的だった点は大きく二つあります。

①接触頻度を増やすこと
②現場での共通の体験を増やすこと

①に関しては、心理学の単純接触効果を活用し、短時間でも話す機会を増やすことです。
今はリモートワークも多いですが、極力チャットではなく対面で話しましょう。
私の場合、キーパーソンとは週に3回以上は話す、という目標を設定し、何かにつけて話しのネタを持って話しかけまくりました。
また、会社のことをもっと理解したい!と自分からランチや飲みにも誘い、関係性を構築していきました。

②はとにかく現場に足を運び、古参メンバーと同じ目線で物事を見るという体験を重ねることです。
例えば、営業先に同行する、広告入稿を手伝う、面談に同席する、など自分の役割でない領域にも果敢に足を突っ込んでいく必要があります。
現場目線を知ることで古参メンバーの考え方や気にする点、仕事の仕方などの解像度も上がるので、絶対に現場理解をサボらないようにしましょう。
注意点としては、事前に社長とこの動きと目的を握ること。
勝手に動いてしまっては、社長の期待値とのギャップが生まれる可能性もあるので、念入りにグリップする必要があるでしょう。


社内横断組織の目標設定

社内横断組織で難しいのが、チーム目標の持ち方です。
社内横断組織はプロフィット部門ではない場合が多いので、数値目標を持たせにくい構図になっています。
私が行っていた目標設定は「行動目標+定量目標」という設定です。

例えば、前述の予実管理フローの整備、というお題に対しては

・いつまでに何を行ってどのような状態にする、それができていたら目標達成

という行動目標に加えて

・入力の〇%が達成できていたら目標達成

という定量目標も同時に設定します。

他の取り組みも同様に目標設定し、四半期に一回社長と目標進捗を確認する場を設けていました。

人件費を気にする経営企画あたりからうるさく言われることもありますが、部門の目標としている「経営の最適化」は何も売上だけの話ではないので、社長と握れてさえいればスルーでよいと考えています。


社内横断組織に向いている人

最後に、社内横断組織に向いている人間性について触れていきます。
以下の3点の特性がある人であれば、ほぼ確実に期待した成果を出してくれると考えています。

①コミュニケーション力が卓越していること
②知的好奇心が旺盛なこと
③ポジティブなこと

①コミュニケーション力が卓越していること
色々定義はあると思いますが、個人的にはビジネスにおけるコミュニケーションを分解すると、「論理的思考力+EQ力」だと考えています。
前者だけだと正論ばかり言う嫌なやつになり、後者だけだといい人で終わる可能性があるので、両者のバランスが取れていて、必要に応じてどちらの能力も引き出せるのが理想です。
企業の抱えるあらゆる問題を構造的に捉えた上で、社内のメンバーと協力し、解決に向けて推進していける人が向いているでしょう。

②知的好奇心が旺盛なこと
企業の問題は多岐に渡るため、自分の前提知識のないジャンルの業務を行う必要がある場面も往々にしてあります。
その際に、どんなジャンルでも食わず嫌いをせずに興味をもって問題解決に当たる、というスタンスは誰でも持てるものではありません。
様々なジャンルの専門家や良質な人脈を築けている人であればなお良いでしょう。

③ポジティブなこと
最後の特性はポジティブなことです。
横断組織が向き合うのは何かしらの問題が発生している環境が基本です。
社内外を巻き込んで前向きに推進していく上で、ポジティブで前向きなスタンスがないと、役割に潰されてしまいます。
失敗しても死なない、とか、俺がやってダメだったら誰がやってもダメだろう、くらいの気楽な気持ちでいられるくらいの精神的な余裕を持っている人が向いているでしょう。


この組織がある組織はあらゆる面で物事が上手く回るようになりますし、働き手にとっても社内横断組織の働き方は最高に楽しくやりがいがあります。

最後に、横断組織の考え方で参考になる書籍もご紹介します

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この記事を読んで、みなさんが直面している課題に役立ちそうな箇所があればぜひパクっていただければと思います。

この記事で書ききれない話も大量にあるので、詳細を聞きたい方がいれば遠慮なくTwitterでDMください!

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#私の仕事

10年以上事業会社でマーケティング/事業開発に携ってきました。昨年立ち上げた『BtoBマーケティング研究会』は参加人数700人規模まで成長。マーケター向け勉強会や懇親会を主宰し企業とマーケターの最適なマッチングやマーケターの繋がりを活発化させるべく奮闘中。