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走り抜けろ、コウタローのように

毎朝、目が覚めると枕元のスマホを手にするのが習慣になっている。
寝ている間のnoteの記事やいただいたスキの確認。
それから天気予報、ニュースアプリを開く。

新聞を取りに行くのは、もう少し後だ。
もう、大体、一面の見出しは予想がついている。
朝刊の見出しを見て、「えっ」というようなこともなくなった。

いつも通り、ニュースアプリを見ていると、こんな記事が目に入った。
「歌手の山本コウタローさん死去」

今月の4日に脳内出血のために亡くなられたとのこと。
享年73歳。
ご冥福をお祈りする。

とは言っても、僕は山本コウタロー氏の曲は2曲しか知らない。
ひとつは「走れコウタロー」だ。

小学校高学年の時に流れてきた、楽しくも勇ましい曲に、まだ競馬のことなど何も知らない僕たちもトリコになった。

そして、何といっても、あの中継部分。

「えー、この度、公営ギャンブルをどのように廃止するかという問題につきまして、慎重に検討を重ねてまいりました結果、本日の第4レース、本命はホタルノヒカリ、穴馬は、アッと驚く大三元という結論に達したのであります。
さあ、各馬ゲートインからいっせいにスタート…」

ここまで、記憶だけで書いているが、間違っていないはずだ。
当時の男子は競って、この早口の中継部分を真似したものだ。
公営ギャンブル廃止の検討から、どうして本命はホタルノヒカリという結論になるのか、子供ながら考えたものだ。
「慎重に検討」などという、その後何度も使う大人の言葉を覚えたのもこの歌詞からだ。

スタートダッシュで出遅れたコウタローは、懸命に走って、最後は大逆転でトップに立つ。
あの頃は、頑張れば大逆転できる、競馬だけじゃない、みんながそう思っていたのかもしれない。

この歌詞の中で、騎手を振り落とすという部分がある。
これについて、レース中に騎手が落馬すると失格になるため、これは、ゴールの後のことだという説もあるらしい。
だから、コウタローは一位で失格ではないと。
僕は、違うと思う。
コウタローは大逆転でトップに立ち、その勢いで、ゴール寸前で騎手を振り落としたのだ。
もちろん、失格だ。
だが、コウタローには関係ない。

失格だって? そんなことは知っちゃいねえ。俺はただ、どこまでも走り続けるのさ。

山本コウタロー氏で知っているもう一曲は「岬めぐり」だ。
今でも、カラオケで酔うとついつい歌ってしまうというおじさんは多いのではないだろうか。
世代の溝が深まる一曲でもある。

この曲については、この歌の中の「あなた」は果たして生きているのかどうかという軽い論争がある。

これは、失恋ソングで、「あなた」はまだ生きているという説。
「僕」は「あなた」のことが忘れられず、約束していた岬めぐりの旅行に来た。
いわば、傷心旅行の途中なのだ。

しかし、これでは、「僕」はあまりも未練たらしくて、惨めったらしい。
これが「あなた」の耳に入ると、
「そうなの、彼のそういうところが嫌だったの」
と言われそうだ。

僕は、「あなた」はもう亡くなっているのだと思っている。
亡くなった原因はわからないが、「僕」は「あなた」の思い出とともに、元気だった頃に約束していた岬めぐりの旅に来ている。
恐らく、「あなた」が亡くなってから、少し時間も経っているのだろう。
「あなた」の死がショックでこれまで前を向けなかった。
しかし、この旅で区切りをつけたいと考えている。

妻にこの説を話すと、
「あんたは、何でも暗い方に考えるからな」
と笑われる。
さて、真相はどちらだろうか。

人生も後半に入ってくると、自分の一時期を支えてくれたり、あの時の方向を指し示してくれたりした、そんな人たちが亡くなっていく。
悲しいことだが、仕方がない。
残り僅かじゃないか、それくらいひとりで歩け。
そう、放り出される不安を、その度に感じている。

走り抜けられるだろうか、コウタローのように。

それにしても73歳は若すぎる。
あらためて、ご冥福をお祈りする。





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