見出し画像

ありふれた家族の立ち回りをここまでうまく描くという見事な脚本だった『さくら』

【基本情報】

製作年:2020年
製作国:日本
 配給:松竹

【個人的順位】

鑑賞した2020年日本公開映画ランキング:106/171
 ストーリー:★★★★☆
キャラクター:★★★☆☆
    映像:★★★☆☆
    音楽:★★★☆☆

【あらすじ】

音信不通だった父が2年ぶりに家に帰ってくる。その知らせを受けた長谷川家の次男・薫(北村匠海)は、その年の暮れに実家へ向かった。

母のつぼみ(寺島しのぶ)、父の昭夫(永瀬正敏)、妹の美貴(小松菜奈)、愛犬のサクラとひさびさに再会する。しかし、兄の一(ハジメ)(吉沢亮)の姿はない。

薫にとって幼い頃から憧れの存在だったハジメは、2年前のあの日、亡くなった。そして、ハジメの死をきっかけに家族はバラバラになった。

薫は幼い頃の記憶を回想する。妹の誕生、サクラとの出会い、引っ越し、初めての恋と失恋。長谷川家の5人とサクラが過ごしたかけがえのない日々。

やがて、壊れかけた家族をもう一度つなぐ奇跡のような出来事が、大晦日に訪れようとしていた。

【感想】

予告の段階ではあんまり観る気は起きなかったんですけど、実際に観てみたらけっこう面白いんですよ、これ。次男の視点で描かれる本作は、何やら彼の日記のような、小説のような、そんな雰囲気の映画でした。

何か目的があるわけではないんです。ぶっ飛んだ設定もなければ、コミカルなキャラクターもおらず、ドラマチックな展開とは程遠く、長谷川家に起こった日常を淡々と描いているだけの内容なんですけどね、ちょっとハマってしまいます。

自分が日本人だから、こういう日本のファミリー映画に親しみがあるっていうのもあるでしょう。でも、それ以上に、結末がどうなるのかわからないことに対する好奇心と、この家族とそれを取り巻くまわりの関係性から生まれる大なり小なりの事件の描き方がうまいなと思ったんですよねー。

ハジメとその彼女の出会いや別れ、彼の身に起きる悲劇。美貴のハジメに対する想いと同性のクラスメイトとの関係。薫の淡い恋愛事情。そのどれもが邦画においてはめずらしくないものではあるんだけど、「あ、そらへんにいる普通の家庭の中でもこういうことが起きるんだ」っていう、ちょっとした意外性みたいなのが、物語に程よい緩急をつけているように感じられました。みんなそれぞれ事情があるよねって。いっしょに住んでいてもそれぞれ人生があるよねっていう、そんな感覚があったんですよ。

こういうありふれた家族をテーマにした"家族モノ"って、いざ自分で書こうと思ってもすごく難しいんですね。勧善懲悪ではないし、男女関係のもつれがあるわけでもなく、けっこう日常をテーマにすることが多くなるので、ドラマ性がなくてつまらなかったり、変に長くなって間延びしたりして(まあ、僕に実力と才能がなかっただけなんですけどw)。

しかも、今回は愛犬もいるんですが、別に犬を軸にしているわけでもないのに、家族の中にうまく入れ込ませているのは絶妙な脚本力あってこそだと思いますね。

人によっては退屈に感じるかもしれない(いびきかいて寝てる人いましたし。。。)ですが、役者がベテラン勢ばかりでみんな演技がうまいのもあってか、家族のなんてことない日々と、その家族に降りかかる悲劇と、そこからの立ち直りが奇麗にまとまっていて見事な作品だと感じました。

特に、小松菜奈が後半からちょっと狂気じみた感じになっていくんだけど、
その闇落ちした雰囲気を出すのが鬼気迫るものがあって。吉沢亮もだんだん演技がうまくなっていってますよね。今回の役どころもよかったです。

あと、無性に餃子が食べたくなりますよ(笑)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?