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主人公はベトナム生まれなのに、ベトナムに居場所がないというアイデンティティの揺らぎが物悲しい『MONSOON/モンスーン』

【個人的な評価】

2022年日本公開映画で面白かった順位:8/8
   ストーリー:★★☆☆☆
  キャラクター:★★☆☆☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★☆☆☆
映画館で観るべき:★★☆☆☆

【ジャンル】

ロードムービー
ベトナム戦争
ボート難民

【原作・過去作、元になった出来事】

なし

【あらすじ】

舞台は現代のベトナム。キット(ヘンリー・ゴールディング)は、両親の遺灰を埋葬すべく、30年ぶりに祖国であるサイゴン(現ホーチミン)に足を踏み入れる。

キットは6歳のとき、家族と共にベトナム戦争後の混乱を逃れてイギリスへ渡った“ボート難民”だ。以来、これが初めての帰郷だった。

もはやベトナム語すらままならない彼は、英語が話せる従兄弟のリー(デヴィッド・トラン)の助けを借りながら、遺灰を埋葬するに適した場所を探すが、思うようには進まない。サイゴンは今やすっかり経済成長を遂げ、かつての姿は見る影もなかったからだ。

そんな中、ネットで知り合ったアフリカ系アメリカ人のルイス(パーカー・ソーヤーズ)と一夜を共にするキット。ルイスの父親はベトナム戦争に従軍したという過去を持ち、そのことを隠してこの国で暮らしていた。

その後、両親の故郷ハノイへ向かったキットは、サイゴンで知り合ったアートツアーを主催する学生リン(モリー・ハリス)を訪ね、彼女の実家が営む伝統的な蓮茶の工房見学をする。それは、キットの知る“古き良きベトナム”の姿にようやく触れられた時間でもあったが、リンにとっては時代遅れなものらしい。

埋葬場所探しに関しては、ハノイでも芳しい成果がなく、サイゴンに戻ったキット。そこで彼は、リーから自分たちの家族の亡命にまつわる“ある真実”を聞かされることになる——。

【感想】

最近、アジア系俳優の中では引っ張りだこのヘンリー・ゴールディングが主演ということで観てきました。セリフやBGMが最低限に抑えられた映画で、けっこう好みが分かれるんじゃないかなと思います。

<難民を余儀なくされたことでアイデンティティが揺らいでしまう物悲しさ>

ベトナム戦争に起因するボート難民となった主人公のキット。ボート難民っていうのは、紛争や圧政などがある地域から、漁船やヨットなどの小船に乗り、難民となって外国へ逃げ出す人のことを指します。日本にずっと住んでいると体験しづらい状況なので、正直感情移入しづらい部分がある設定ですね。

彼は、6歳までベトナムで生まれ育ち、その後イギリスに渡ります。30年ぶりに帰郷するも、街並みは大きく変わり、「ここはどこ」感満載。愛する両親の遺灰を埋葬したいのに、適切な場所さえ見つけられないんですよ。自分が生まれた国なのにも関わらず。

話す言葉もイギリス英語に慣れてしまい、母国語だったベトナム語はほとんどわからなくなっているんですよね。イギリスにいるときでさえ、異国の人という立ち位置なのに、祖国でもまたよそ者感が出てしまうって、けっこう辛い立場かもしれませんね。この"ホームなのにアウェー"っていうのは、「自分は何者なんだろう」っていうアイデンティティの揺らぎに直結すると思うんですよ。それはもう、日本にいては想像もできない寂しさがあるんじゃないでしょうか。

それでいて、キットは同性愛者なんですよ。行く先々で、ネットで相手を見つけては、一夜限りの関係を結んでいます。僕はここ謎だったんですよね。同性愛者である設定は必要なのかな?って。マイノリティである要素を追加することで、より一層主人公の孤独を際立たせたいのでしょうか。別に同性愛者を否定したいわけではまったくないですよ。ただ、なんか意味あるのかなと思いきや、別に何もないので、まあ普通の男女関係といっしょだから自然でしょっていうことなのかもしれません。ちょっとここだけ腑に落ちませんでしたけど。

<特殊な作りに好みは分かれそう>

冒頭にも書きましたが、この映画、セリフも少なければ、BGMもほとんどないんですよ。さらに、何か大きな障害や乗り越えるべき試練もなければ、対立する人もいません。主人公が両親の遺灰を埋葬する場所を探すために、日々ぶらぶらしているのみです。だから、映画として見ると、個人的にはちょっと物足りないかなって思います。アイデンティティの揺らぎも、僕がそうだろうなって思っているだけで、あんまり作中でそこに思い悩むシーンはないので。だから、あんまり一般向けの映画ではないかなとも感じました。

<作り手側の背景を知ると見方が変わるかも>

監督のホン・カウは、ベトナムからボート難民として渡英した経緯があるそうですね。主人公を演じたヘンリー・ゴールディングに関しては、イギリス人の父親とマレーシア人の母親を持つから、今回、"ホームなのにアウェー"を感じてしまう複雑なアイデンティティを持ったキット役に、もしかしたら何か思うところはあったかもしれませんね。

こういった事情を知ると、この映画から受けるメッセージも説得力が増すとは思います。とはいえ、そんな事情はよほど映画好きで、いちいち調べないとわからないことではあるので、気軽に映画を観たい人からしたら、「知らんがな」で終わっちゃいますね(笑)

<そんなわけで>

歴史的背景を知っていたり、自分あるいは身近な人に同じような境遇の人がいれば、もう少し楽しめそうな気はしますが、設定も作りもちょっと特殊なので、なかなか一般受けするのが難しそうな内容だとは思いました。


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