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おばあちゃんの過酷な思い出話に聞き入り、ラストで思わず涙が溢れた『パリタクシー』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:29/69
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

   原題:Une belle course
  製作年:2022年
  製作国:フランス
   配給:松竹
 上映時間:91分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:なし

【あらすじ】

パリのタクシー運転手のシャルル(ダニー・ブーン)は、人生最大の危機を迎えていた。金なし、休みなし、免停寸前、このままでは最愛の家族にも会わせる顔がない。

そんな彼のもとに偶然、あるマダムをパリの反対側まで送るという依頼が舞い込む。92歳のマダムの名はマドレーヌ(リーヌ・ルノー)。終活に向かう彼女はシャルルにお願いをする。

「ねぇ、寄り道してくれない?」

人生を過ごしたパリの街には秘密がいっぱい。寄り道をする度、並外れたマドレーヌの過去が明かされていく。そして、単純だったはずのドライブは、いつしか2人の人生を大きく動かす驚愕の旅へと変貌していく。

【感想】

どんなコメディ映画かと思いきや、まさかの感動のヒューマンドラマで面白かったです。なんか、フランス映画ってインド映画と真逆で、尺が短めの素敵なお話が多い気がしますね。本作もその短い中に面白いエピソードがギュッと詰め込まれていて、個人的にはすごく楽しめました。

<波乱万丈なおばあちゃんの人生>

この映画、予告を観る限り、92歳の老婆とギリギリで生活しているタクシー運転手による陽気で軽快なコメディかと思ったんですよ。ところが、実際に中身を観たらまったく逆の印象を受けました。それが、マドレーヌの若い頃の話です。マドレーヌを遠く離れた老人ホームまで送り届ける依頼を受けたシャルル。車中では一方的にマドレーヌが思い出話を語り始めるんですが、これがびっくりするぐらい重い話で。

16歳の頃に出会ったアメリカ人兵士に恋をした話。彼との間に子供ができた話。次に付き合った男がクソ野郎だった話。そんなやつにあることをしたら懲役25年を食らった話(ここは男性陣は覚悟して観るようにw)。ようやくシャバに出てきて成長した子供と再会するも……などなど、ひとつひとつのエピソードがかなり濃いんですよね。「赤の他人の思い出話ほど面白くないものはない」なんて最初は思っていた僕も、その波乱万丈っぷりについつい聞き入ってしまうほどでした。だって、今はこうして元気に生きているもんですから。過去にそんなことがあったなんて想像できませんよ。

それは運転手のシャルルも同様だったのではないでしょうか。金なし、休みなし、免停寸前の崖っぷちな人物として描かれていましたが、おそらく、彼は客と不要な会話は一切しないタイプでしょう。最初はマドレーヌの話も適当に聞いてはいたものの、その濃い中身にだんだん興味が出てきて、気づけば2人はいい友人関係のようになっていました。

<おばあちゃんの持つ特権>

普通の人だったら、こんな不愛想な運転手と話そうなんて思わないんじゃないでしょうか。僕も赤の他人と話すのは得意ではないので、わざわざタクシーの運転手と会話なんてしません(若い頃、酔って気持ちがよくなって世間話したことはありましたが、あれは逆に運転手が迷惑だったかもしれませんw)。でも、こういうとき、おばあちゃんってある意味ズルいんですよね。物語のキャラクターとしても、現実においても。マドレーヌは刑務所にまで入った上に92歳という年齢もあってか、不愛想な46歳の運転手なんてちょっと生意気な孫のような存在でかわいいもんなんでしょう。そもそもいつ死ぬかもわからない年齢なので怖いものなんてないんでしょうね。だから、おかまいなしに自分の話を好きなように語るんですよ。

シャルルからしても、相手が高齢の老婆ともなれば、いくら面倒な客だと思っても邪険にも扱えません。この組み合わせが、ピッタリとハマったんですよ。マドレーヌは老人ホームに行くまでの最後の自由な時間の中で、誰かと楽しいひとときを過ごしたくて。シャルルは心に余裕がない中で笑えるひとときが必要で。それがこんな偶然にも重なったと。お互いがお互いにそれを叶えられる存在だったんですよ。こんな素敵なことありますかって。

<ふと自分の祖母を思い出す>

最後のオチはだいぶ想像つきやすい展開ではあるんですが、いざ映像として観るとやっぱり泣いちゃうんですよね。今年観た映画の中でも、けっこう泣けますよ、これ。

で、個人的な話で恐縮なんですが、泣けたといえば、途中でマドレーヌがシャルルの腕を組んで歩くシーンがあるんです。何気ないシーンではあるんですけど、自分も死んだばーちゃんにやってあげたかったなーって考えちゃって、そうしたらまったく泣くようなシーンじゃないのに涙が。。。しかも、マドレーヌを演じたリーヌ・ルノーが、ばーちゃんと同い年っていう偶然もあって。祖父母が生きている方はね、大切にしてあげてくださいな。

<意外な撮影手法>

あと、本編とは関係ないのですが、後から知ってびっくりしたのが、タクシーの運転シーンです。てっきりパリ市内をグルグルまわって撮影したのかなって思ったんですけど、これLEDスクリーンに背景を投影しての撮影らしく、タクシーはずっとスタジオ内にあったそうなんですよ。意外なところに最新の撮影技術が使われているっていうのも興味深いですね。メイキングについては、以下を観てみてください。

<そんなわけで>

尺が短くて観やすい上に、けっこう泣ける感動話だったので個人的にはオススメしたいです。何気ないおしゃべりが、ちょっとずつスケールの大きな話になっていく過程が面白いですよ。


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