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孤独な偏屈じいさんの先立った妻への想いを見て家族を大切にしようと心から思える『オットーという男』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:3/44
  ストーリー:★★★★★★★★★★
 キャラクター:★★★★★★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

   原題:A Man Called Otto
  製作年:2022年
  製作国:アメリカ
   配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
 上映時間:126分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:小説『幸せなひとりぼっち』(2012)
      映画『幸せなひとりぼっち』(2015)

【あらすじ】

オットー・アンダーソン(トム・ハンクス)。町内イチの嫌われ者で、いつもご機嫌斜め。曲がったことが大っ嫌いで、近所を毎日パトロール。ゴミの出し方、駐車の仕方、ルールを守らない人には説教三昧、挨拶をされても仏頂面、野良猫には八つ当たり、なんとも面倒で近寄りがたい…。

そんな彼が人知れず抱えていた孤独。最愛の妻に先立たれ、仕事もなくしたオットーは、自らの人生にピリオドを打とうとするが、向かいの家に引っ越してきた家族にタイミング悪く邪魔をされる。それも、一度だけでなく二度も、三度も。

世間知らずだが、とにかく陽気で人懐っこく、超お節介なメキシコ出身の奥さんマリソル(リアナ・トレビーニョ)は、オットーとはまるで真逆な性格。突然訪ねてきては手料理を押しつけてきたり、小さい娘たちの子守や苦手な運転をオットーに平気で頼んできたりする。

この迷惑一家の出現により “自ら人生をあきらめようとしていた男”の人生は変化していく──。

【感想】

いやー、泣きましたね。原作小説は未読ですが、2015年の映画版は事前に鑑賞しててオチはわかってはいたんですが、、、結局オリジナル版でも今回のリメイク版でも泣きました(笑)今年一番のヒューマンドラマじゃないかって。

<オットーのある意味"ズルい"設定>

トム・ハンクスが演じたオットーという人物。毎朝町内をパトロールし、ゴミの分別や無断駐輪を厳しく取り締まる「口うるせぇジジイ」である。こういう偏屈で頑固な人物って、それだけである意味ズルくないですか。だって、何をやってもギャップになりますし、そこから感動ストーリーになるって目に見えてるじゃないですか。『アルマゲドン』の頑固親父といっしょですよ。まあ、わかってはいても泣いちゃうんですけど(笑)

<妻への強い愛情が身に染みる>

面倒な性格のオットーですが、実は最愛の妻に先立たれたかわいそうな人なんですよ。ひとりになった家を眺めては、妻との生活を思い出し、2人の会話の内容をそらで言えるぐらい、当時のことを覚えてるんですね。それほど、妻のことを愛していたってことです。もともとオットーは真面目な性格でしたが、妻が大切だったが故に彼女に固執してしまい、より一層他人との繋がりを嫌うようになりました。「彼女さえいればいいし、その彼女がいないならもうどうでもいい」と。そこで、愛する妻のもとへ行こうと、オットーは幾度となく自殺を試みます。妻あってこその自分という、完全に自分の存在意義を他人に求めてしまっている形なので、そういう行動に出るのも理解はできます。でも、これが悉く邪魔されて死ぬに死ねないっていうちょっと笑える展開なんですよね(笑)昔、『世にも奇妙な物語』で何度自殺しようとしても失敗して死ねないおじさんの話があることを思い出します。

<正反対の性格のご近所さんがすべてを変える>

その邪魔をしてきたのが、お向かいに引っ越してきたマリソル一家です。もちろん、意図して邪魔しているわけではなく、単純にオットーを訪ねるタイミングがいつも悪いんですよ。このマリソルという女性がスーパーおせっかいな人で、陽キャというかなんというか、相手が誰であろうとおかまいなしにガンガン突っ込んでくるタイプなんですよ。まあ勢いのあるおばちゃんって感じですね(おばちゃんといっても年齢は30歳の設定なんですが、おばちゃんっぽい感じなんですw)。実際に身近にいたら、けっこう図々しい印象を持つこと間違いなしなタイプの人間です。

オットーとは真逆の性格のマリソルとの出会いが、オットーを変えていくんです。強引にオットーに絡み続け、彼も悪い人ではないから嫌々ながらも付き合い、そうすることでだんだんと彼の心の氷が溶けていきます。おそらく、オットー自身もわかってたんじゃないでしょうか。いつまでも妻の死に囚われてちゃいけないって。終盤でマリソルに「そんなんじゃいつまでも前を向けないじゃない」と言われて、咄嗟に「向かなくていい!」ってオットーは返してましたけど、そう答えられるということは、いろいろ考えた末にそういう結論を自分の中ですでに出しているってことですから、その思考の過程で、絶対妻に固執してちゃダメだっていう考えもあったはずです。それぐらい、オットーは頭のいい人間だと僕は感じました。とはいえ、もうこの歳でどう乗り越えていいのかもわかりません。そんなときに偶然出会ったマリソルたちとの交流が、変わるきっかけを与えてくれたんですよ。今まで自分のことしか考えていなかったのに、再び他人に対して思いやりを持てるようになっていく展開は面白いです。

<オリジナル版とリメイク版の違い>

僕はオリジナル版を観てから今回のリメイク版を鑑賞しましたが、多少の違いはあれど、内容はまったくいっしょでした。リメイク版の方が細かなシーンを追加したことで、オリジナル版にもあった同様のシーンの繋がりをより自然に感じる部分が増えたなと思います。が、その分オットーの過去や若き日の妻との思い出が減ってしまい、少しあっさりした印象を受けたので、逆にそこはオリジナル版の方がよかったなと感じました。結果、プラマイゼロってことです。ただ、トム・ハンクスって今までいい人の役が多かったので、あんまり偏屈じいさん感がなかったんですよ。オリジナル版で主人公を演じたロルフ・ラッスゴードの方が、全然知らなかった分、変にフィルターがかからずに偏屈じいさんとして捉えることができました。

<そんなわけで>

ひねくれた頑固なじいさんが徐々に温かい人間らしさを取り戻していく変化が面白い映画です。オットーの妻に対する愛情を見て、自分も家族を大切にしようと思えますし、マリソルがオットーを変えるきっかけとなったことを受けて、自分を変えるには半ば強引にでも外部の力で引っ張られる必要があるなとも感じられる作品ですね。若き日のオットーをトム・ハンクスの実の息子であるトルーマン・ハンクスが演じているっていうのも見どころなので、ぜひ劇場へ足を運んでみてください。


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