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【ネタバレあり】一方的なジェンダーロールの押つけからくる夫婦の幸せの定義のズレが生んだ悲劇『ドント・ウォーリー・ダーリン』

【個人的な満足度】

2022年日本公開映画で面白かった順位:94/169
  ストーリー:★★★★☆
 キャラクター:★★★★☆
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★☆☆

【作品情報】

   原題:Don't Worry Darling
  製作年:2022年
  製作国:アメリカ
   配給:ワーナー・ブラザース映画
 上映時間:123分
 ジャンル:サスペンス、スリラー
元ネタなど:なし

【あらすじ】

完璧な生活が保証された街で、アリス(フローレンス・ピュー)は愛する夫ジャック(ハリー・スタイルズ)と平穏な日々を送っていた。

そんなある日、隣人が赤い服の男たちに連れ去られるのを目撃する。それ以降、アリスのまわりで頻繁に不気味な出来事が起きるようになる。

次第に精神が乱れ、周囲からもおかしくなったと心配されるアリスだったが、あることをきっかけにこの街に疑問を持ち始めるー。

【感想】

女優のオリヴィア・ワイルドが監督を務めた2作品目。1作目は『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2020)でしたね。卒業間近の女子大生2人がハメを外そうと躍起になる青春映画でとても好きでした。そんな映画を作った方が、次はどんなのを出してくるんだろうと思ったら、まさかのサスペンススリラーっていう。「こういうのも撮れるんだ」という意外性と、才能の豊かさに嫉妬しちゃいますよ。

<街に隠された秘密を追う過程が面白い>

舞台はレトロ感漂う郊外の街。同じような家が建ち並ぶ一昔前のアメリカ映画のような光景でした。夫たちはみな「ヴィクトリー・プロジェクト」に関する仕事を行い、妻たちは家で家事をしつつ夫の帰りを待つという生活で、見事に夫婦、というより男女の役割がくっきり分かれているのが特徴的でした。

何不自由なく暮らしていたアリスですが、たまにフラッシュバックが頭をよぎるんですよ。そして連れ去られる隣人。この街は何かがおかしい。。。街のリーダーであるフランク(クリス・パイン)に詰め寄るも、逆にアリスが異常者扱いされてしまう始末。そんな街の真相を暴いてくのが本作の面白いところです。

だから、ネタバレしちゃいけないタイプの映画なんですけど、、、ネタバレしないとこれ以上何も書けないんですよね。。。なので、ご容赦ください。内容知りたくない方は、ここでページをそっ閉じしてください。。。









<実はSFな設定>

結論から言うと、この映画のオチって、女性からするととても時代遅れだと思われるジェンダーロールに起因したものなんですよ。だから、女性監督だからこそ描ける世界なのかもしれないなって思います。

実は、アリスたちが住んでいる街っていうのはプログラムされた仮想現実の世界なんですよ。ある特殊な装置を使って意識だけ飛ばしているんですね。まさに『マトリックス』シリーズのような世界観ってことです。当然、本物の体は別のところにいますし、仮想現実の世界にいる間は、現実世界の記憶は消してあります。なんですが、アリスの場合は現実世界の記憶がフラッシュバックしちゃってました。

<幸せの定義のズレ>

ではなぜ、アリスがこんなところにいるんでしょうか。それはジャックの仕業です。現実世界の出来事についてはハッキリとした描写がないんですが、アリスとジャックは現実世界でも夫婦もしくは恋人だったようです。アリスは医師で昼夜関係ないほど多忙を極めており、逆にジャックは仕事がなかったようなんですよね。激務なアリスは家に帰っても寝るだけで、ジャックと愛し合う時間もないほどです。そこで、ジャックは寝ているアリスに無理矢理装置を取り付けたんだと思うんですよ。いっしょに仮想現実の世界へ行って、優雅に暮らそうとしたんです。

つまりジャックは、多忙で休む時間もままならないアリスに、ゆとりある生活を提供してあげたわけです。それこそが彼女の幸せだと考えたから。でも、仮想現実の世界で記憶を取り戻したアリスは猛反発します。「私は好きで働いていたのに!」と。確かに忙しくて睡眠時間もろくに取れないような生活でしたが、それでも自分で選んだ道で、アリス的には満足できていたんでしょうね。だから、無理矢理仮想現実の世界に連れて来られて提供された生活っていうのは、アリスからしたら、他人が決めた勝手な幸せに付き合わされているに過ぎず、その分の人生を奪われたことと同じなんです。

ここがこの映画の醍醐味なんじゃないかと思いますね。夫は外に仕事に行き、妻は家で帰りを待つというパターンが延々と続くのがこの仮想現実の世界。これまでの社会もまさにそうで、女性は男性に従うことが多かったじゃないですか。男たちはそれが女性のあるべき姿であり、彼女たちにとっても幸せであると一方的に決めつけ、仮想現実の世界に閉じ込めたのがこの映画なんですよ。何とも恐ろしい話ですよね。現代では女性の社会進出が当たり前になってきているので、こういう身勝手なジェンダーロールを押し付けることに対して、同じ男から見ても胸糞悪いなとは思いましたけど。

なお、他の夫婦たちの事情までは描かれていませんでしたが、アリス同様、男たちの勝手な欲望によって連れて来られた可能性は高いです。ただ、全員ではないのがポイントです。中には、自ら進んでこの世界に来た女性もいました。もちろん、それなりの事情があってのことです。現実で失ったものが、仮想現実の世界で手に入るなら……と。

<そんなわけで>

ジェンダーロールの在り方という社会的な話と、仮想現実というSFチックな設定が合わさった意外な映画でした。ラスト20分からの急展開がメチャクチャ面白いので個人的には推したい映画ですね。とはいえ、それまでは話が見えないまま淡々と進んでいくので、好みは分かれるだろうなと思います。

ちなみに、マーベル好きな人は別の意味で楽しめます。『ブラック・ウィドウ』(2021)で鮮烈なデビューを果たしたエレーナ役のフローレンス・ピュー。『エターナルズ』(2021)のエンドクレジットで登場したサノスの弟エロスを演じたハリー・スタイルズ。そして、同作で主人公セルシを演じたジェンマ・チャン。さらに、今作のBGMに『エターナルズ』と同じ曲が使われているのもエモかったです。


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