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歴史上初?同性愛で裁判を受けた実在の修道女の狂気に圧倒された『ベネデッタ』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:21/54
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

   原題:Benedetta
  製作年:2021年
  製作国:フランス
   配給:クロックワークス
 上映時間:131分
 ジャンル:伝記映画、ヒューマンドラマ
元ネタなど:ノンフィクション『ルネサンス修道女物語―聖と性のミクロストリア』(1988)

【あらすじ】

17世紀イタリア。幼い頃から聖母マリアと対話し奇蹟を起こす少女とされていたベネデッタは6歳で修道院に入る。

純粋無垢なまま成人したベネデッタ(ビルジニー・エフィラ)は、ある日、修道院に逃げ込んできた若い女性バルトロメア(ダフネ・パタキア)を助ける。様々な心情が絡み合い、2人は秘密の関係を深めるが、同時期にベネデッタが聖痕を受け、イエスに娶られたとみなされ、新しい修道院長に就任したことで周囲に波紋が広がる。

民衆からは聖女と崇められ、権力を手にしたベネデッタだったが、彼女に疑惑と嫉妬の目を向けた別の修道女の身に耐えがたい悲劇が起こる。さらに、ペストの流行やベネデッタを糾弾する教皇大使の来訪も重なり、町全体に混乱と騒動が降りかかろうとしていた…。

ベネデッタはこの事態にどう対応していくのか…。

【感想】

実在した修道女であるベネデッタ・カルリーニを題材とした映画。修道女の伝記映画ってなかなか珍しいですよね。中身としては17世紀の闇をまるっと詰め込んだような壮絶な展開ですごく面白かったです!

<声が大きい人が強いのは今も昔もいっしょ>

伝記映画って、実際にあったことを淡々と描くだけのものが多いですが、この映画に関しては、その事実のどれもが刺激的だったのでメチャクチャ見ごたえがあるんですよ。で、ベネデッタの人となりを見て思うのが、やっぱり「声が大きい人は強い」ということなんですね。これ、現代でもいっしょじゃんって話ですけど。社会に出ると、そこまで何かに秀でたわけではないのに、なぜか目立ったり、偉い人から重宝されたりする人っていますよね。そういう人の中には共通して、この「声が大きい」ってのがあると思います。それは、声のボリューム的な意味に留まらず、強く意見を主張する人を指します。先ほど、何かに秀でたわけではないと書きましたが、声が大きいこと自体、ある意味能力だと思いますけど(笑)

今回のベネデッタもまさにそれなんですよ。彼女は「キリスト様の啓示を受けたー!ほら見て!このキズ!」と騒ぎ立て、まわりの人が「聖痕だ聖痕!ベネデッタやべー!!」ってなるんですが、もちろん自作自演です。あ、聖痕っていうのは、

イエス・キリストが磔刑となった際についたとされる傷。また、何らかの科学的に説明できない力によって信者の身体に現れるとされる類似の傷

ウィキペディアより

ということだそうで。もし、この映画がSFやファンタジーの類なら、そういう超常現象もあるとは思うんですけど、これはあくまでも史実を基に作られた伝記映画です。当然、そんなオカルトじみたことはありません。

でも、17世紀って今よりも宗教や信仰の持つ力が大きく、しかも場所が修道院ということもあってか、みんな影響されやすいんですよね。しかも、それが本当に聖痕なのかどうかを科学的に証明する方法も、証明しようとする考えも当時はありません。だから、言ったもん勝ちっていう部分はあります。ある意味、今以上に声が大きい人が力を持ちやすかったかもしれませんね。そんな調子で、ベネデッタは修道院長にまで登りつめます。何が彼女をそうまでさせたのかはわかりませんが、恐ろしいほどの上昇志向だなと思います。

<愛が弱点となる皮肉>

トップまで一気に駆け上がったベネデッタですが、彼女にも弱点がありました。それが、バルトロメアの存在です。修道院は女性しかいないから、外の世界にいるよりも同性愛になる傾向が強いのかもわかりませんが、2人はお互いに強く求め合うようになります。ここがもう体当たりすぎる演技なんですよ。2人とも一糸まとわぬ姿で平然とカメラの前に生まれたままの姿をさらけ出します。そして、男女がそうするようにあれやこれやを楽しむんです。

当時の時代背景に加え、神様に身を捧げんとする修道女がそんなことをするなんて言語道断。ベネデッタは極刑を言い渡されてしまいます。てっきり、自作自演のところも罪に問われるかと思ったんですが、そこはもう証明しようがないのでどうしようもないんですよね。結局、彼女が失墜する理由はこの同性愛による罪でした。キリストの啓示を受けて、広く遍く人々に愛を持つ立場であるベネデッタが、特定の人に対する愛で足元をすくわれるなんて皮肉なものですね。

しかし、そんなときにペストの大流行もあって、町は大混乱に陥ります。その後、ベネデッタがどうなったかは映画を観ていただければと思うんですが、自作自演に同性愛にペストにと、次から次へと事件が起きすぎていて、なんて波乱万丈な人生なんだろうって思いますよ。ちなみに、本編とは関係ないことですが、ペストって昔の病気のように感じられますけど、現在でも感染自体は起こっているらしいですね。日本では1927年以降の感染例はないようですが。

<そんなわけで>

修道院を舞台に繰り広げられる欺瞞と情愛のダークなヒューマンドラマですごく楽しめました。自作自演で成り上がったベネデッタが、同性愛によってその立場を追われる過程がインパクトありすぎなので、これは声を大にしてオススメしたい映画です!


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