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何かを諦めそうになったすべての人に観てほしい。酒に溺れ、息子に見放され、行き場を失った母親の再起を描いた感動作『To Leslie トゥ・レスリー』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:16/97
  ストーリー:★★★★★★★★★★
 キャラクター:★★★★★★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

   原題:To Leslie
  製作年:2022年
  製作国:アメリカ
   配給:KADOKAWA
 上映時間:119分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:脚本家の実話

【あらすじ】

テキサス州西部のシングルマザー、レスリー(アンドレア・ライズボロー)は、宝くじに高額当選するも数年後には酒に使い果たしてしまい、失意のどん底に陥る。

6年後、行き場を失ったレスリーは、かつての友人ナンシー(アリソン・ジャネイ)とダッチ(スティーヴン・ルート)のもとへ向かうが、やはり酒に溺れ呆れられてしまう。

そんな中、スウィーニー(マーク・マロン)という孤独なモーテル従業員との出会いをきっかけに、後悔だらけの過去を見つめ直し、母親に失望した息子(オーウェン・ティーグ)のためにも、人生を立て直すセカンドチャンスに手を伸ばし始める。

【感想】

現実は辛く厳しい。でも、諦めさえしなければ、少しずつでも前に進める。そんなことを強く感じる映画でした。何かを諦めそうになっているときに、ぜひ観たい作品です。しかも、脚本家の実体験が元になっているというから驚きです。

<主演女優の演技にとにかく圧倒される>

この映画、一番の推しは主人公のレスリーを演じたアンドレア・ライズボローの演技です。もうね、こんなにまで酒に溺れる人間がいるのかと。最愛の息子よりも酒を取るほど腐り切っていた人が、まともな人間を目指していくその過程が面白かったです。あまりにも壮絶な母親すぎて、フロリアン・是レールの"家族3部作"である『ザ・マザー』とかになり得るんじゃないかって。

<息子の置かれた立場に同情>

レスリーは数年前に宝くじで19万ドル(今の日本円で約2,700万円)も高額当選を果たすんですが、それを全部酒に溶かしちゃうんですよ。あんまり普段お酒を飲まない身からしたら、「そんなに飲む?!」って思いますが(笑)そんな状況なので、現在はひとりで暮らしているものの、金がなくて住んでいたモーテルを追い出されてしまうんですよ。

そこで、離れて暮らす息子ジェームズの元に身を寄せるんですが、「酒は飲まない」という約束を軽々と破るばかりか、その購入代金を息子のルームメイトの部屋から盗む始末。母親のせいで狂った人生を取り戻すために、ジェームズは未成年ながらもせっせと働いているというのに、それを裏切る形となってしまったわけですね。これはももう自分の手には負えないと、ジェームズは生まれ故郷にいる母親の友人に頼んで面倒を見てもらうことにするんですが、まだ未成年なのにせっかく再会した母親を送り返すなんて、正直かなりしんどいよなと思いましたね。

<どこへ行っても変わらないクズっぷり>

で、友人宅に身を寄せるレスリーだけど、地元民はみんなレスリーが酒浸りなのを知っているから、白い目で見るんだよ。肩身の狭さハンパないと思うんですが、夫はいないし、息子と両親には愛想を尽かされているし、他に行く場所がない。それなのに、相変わらず酒をやめることができず、ついには友人宅からも追い出されてしまいます。

これで完全に居場所がなくなったわけですが、たまたまモーテル経営をしていたスウィーニーに拾ってもらえることに。実は彼なりの事情もあって、レスリーを放っておくことができなかったと思うんですが、彼は住み込みでモーテル運営を手伝ってもらおうとレスリーを雇います。捨てる神あれば拾う神ありとはまさにこのことですね。

ところが、ここでもレスリーは変わらなくて、給料の前借りをしては夜な夜なバーに行き、酒を飲むんですよねー。二日酔いで翌朝寝坊することなんてしょっちゅうで、せっかくありつけた仕事も満足にできない状況。アルコール依存症ってのもありますが、それを差し引いても、人間ってなかなか変わらないし、楽な方に流れるよねっていうのをまざまざと見せつけられているような感覚でした。

<変わるきっかけはやっぱり愛する息子>

そんな彼女を変えたのは、やっぱり最愛の息子の存在です。かつて宝くじを当てたときに語った夢を思い出し、せめて息子に顔向けできる人間になりたいと、少しずつ変わろうと努力していくんです。酒の誘惑に襲われながらも一切口にせず、真面目に働く日々。

そんな彼女の姿にこっちもすっかり魅了されてしまいます。途中、地元民に酒のせいで愛する息子を傷つけた過去をほじくり返されて、「結局、自分は何をやってもダメなんだ」とヤケクソになって出て行こうとするんですが、もしその場に自分がいたら全力で彼女を止めただろうなってぐらい、レスリーを応援したくなってるんですよね。スウィーニーの助けもあって、ギリギリのところで踏ん張って踏ん張って踏ん張って、少しでもマシな人間になれるよう歯を食いしばって生きていくレスリーですが、そんな彼女の努力を観ているからこそ、ラストでは涙が溢れ出ました。

<そんなわけで>

諦めずにもがき続けることで手に入れた幸せの大きさを痛感する映画でした。自堕落な生活を続け、身も心も締まりのない人間になり、堕ちるところまで堕ちたレスリーが再起をかけて行動する姿は、日常のあらゆることに通ずるかもしれません。諦めたらそこで試合終了ですが、続けることで拓ける未来があるということを示してくれましたから。


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