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ガチでリアルなモンスターハンターのドキュメンタリー『くじらびと』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:24/185
   ストーリー:★★★★★
  キャラクター:★★★★★
      映像:★★★★★
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★★★

【以下の要素が気になれば観てもいいかも】

ドキュメンタリー
インドネシア

捕鯨

【あらすじ】

インドネシア・ラマレラ村。人口1500人の小さな村。住民は互いの和を最も大切なものとし、自然の恵みに感謝の祈りを捧げ、言い伝えを守りながら生活をしている。

中でもラマファと呼ばれる鯨のモリ打ち漁師たちは最も尊敬される存在だ。鯨は年間10頭獲れれば、村人全員が暮らしていけるほどの貴重な食糧。村人を食べさせるために、命をかけて鯨に挑む男たちとそれを支える女たち。ラマファを夢見る少年エーメン。

おとぎ話のような平和な村に、ある日大事件が起こった。2018年、ラマファのひとり、ベンジャミンが漁の最中に命を落とした。家族も村民も深い悲しみに暮れた。

【感想】

これはメチャクチャ面白いドキュメンタリーでした。鯨と真っ向勝負する人たちがいるなんて、もう衝撃的でしかなかったです。ちなみに、海外の作品かと思いきや、作られたのは日本の方々です。

<生身の体で鯨と戦う村人たち>

このインドネシアにあるラマレラ村って、けっこう有名みたいなんですよね。それは鯨漁を行っているからなんですが、注目すべきはその方法です。
いやだって、生身の人間たちが鯨に立ち向かうんですよ?しかも、シンプルな木造船に乗って、武器はモリのみという古来の手法です。あおーいそら、しろーいくも、ひろーいうみで繰り広げられる命がけのバトルは、まさにモンスターハンターそのものでした。

<人間側の装備が不安でしかない>

漁師たちが乗る船はテナと呼ばれているんですが、“生きている”という考えから、鉄の釘は一切使わないんですよ。木や植物など、森で採れる素材のみです。しかも計測や設計図もなく、専門の人たちの経験と勘だけで作られます。武器もモリのみで、特殊な加工がされているとか、先端に毒を塗ってあるとか、そういうことはなく、3~4mの竿の先に普通の金属の刃を付けているだけです。これで鯨に勝てるのか甚だ不安ですよね。。。

<命がけのバトル>

その船を10隻ほど使って鯨を狩りに行きます。1隻あたり10人も乗ってなかったかな。鯨って海の奥深くにいるイメージしかなかったんですが、潮吹きで海面に出てくるんですよね。そこを狙い撃ちするんです。このモリを撃つタイミングが難しいらしくて。頃合いを見計らって、ジャンプして鯨の体にグサリ。大量の出血により、青い海が一気にスイカジュースのごとく真っ赤に。1本じゃ死なないから、2本3本と撃つことも。意外なのが、それで死ぬんですよ、鯨。そんなモリじゃ大したダメージなさそうなんですが、のたうちまわった後に力尽きます。

人間たちは当然、常に死と隣り合わせですよ。鯨が暴れて尾ビレで叩きつけられて亡くなる人もいますし、鯨が海中に逃げ込むときに網が絡まっていっしょに引きずり込まれる人もいます。

そんな危険なことを何百年もの間、ずっとこの村の人たちは続けているんです。鯨以外の魚を獲ることもあるそうですが、それでも実際は1ヶ月間収穫なしのときもザラにあるようで。彼らにとっての鯨漁は、まさに死活問題なわけです。

<圧巻の鯨の大きさ>

驚くべきなのはやっぱり鯨の体の大きさです。浜辺までは船で運びますけど、そこからは大人40〜50人で陸に引っ張り上げます。それでやっと運べるかどうかってぐらいですからね。相当な大きさと重さです。そこで、ゲームに出てくる武器かと思うぐらい大きな包丁で細かく切り分けするんですよ。ダンボールみたいな直方体の肉塊を各家庭に渡して。使うのは肉だけじゃありません。皮や脂も含めて余すことなく活用するのが、このラマレラ村ならでは。

<都会とは違うラマレラ村の文化>

この村、貨幣はあるんでしょうけど、この映画では使われている様子はありませんでした。週1で開かれるバザーで、海で採れたものと森で採れたものとで物々交換。鯨の肉は人気らしく、1切れでバナナ12本と交換できるらしいです。その基準はちょっとわかりませんが(笑)

村人の中には、かつてバリ島で働いて稼いでいた人もいたんですけど、お金に追われる生活に嫌気がさし、この村に戻ってきたのだとか。社会生活の仕組みが、先進国の都会とはまるで違いますよね。かといって、ラマレラ村の人たちが、未開の地に住む先住民とかではないです。ただ、最新技術や効率化というよりも、伝統や習わしを重んじる文化なんだと思います。

<その他>

都会に住むと、こういう自然に囲まれ、自然と共に生きることに憧れを持つこともあるでしょう。そんなとき、この映画を観ると、そこに憧れを持つことと、そこで暮らすことの間には埋められない差があることがわかります。村人たちはお互い協力し合って、笑いながらたくましく生活していますが、その一方で、不慮の事故で大切な人を亡くすこともめずらしくありません。

生きるために命懸けで鯨と対峙するラマレラ村の人々の勇姿と、広大な海、強大な鯨は、ぜひ映画館の大きなスクリーンでその目に焼きつけて欲しいなと思いました。


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