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ムロツヨシの怪演と若葉竜也の胸糞悪さに衝撃を受けると同時にYouTuberへのリスペクトも感じられる最高に面白い映画『神は見返りを求める』

【個人的な満足度】

2022年日本公開映画で面白かった順位:12/96
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

  製作年:2022年
  製作国:日本
   配給:パルコ
 上映時間:105分
 ジャンル:ヒューマンドラマ、恋愛
元ネタなど:なし

【あらすじ】

イベント会社に勤める田母神(ムロツヨシ)は合コンでYouTuberのゆりちゃん(岸井ゆきの)に出会う。田母神は、再生回数に悩む彼女を不憫に思い、まるで「神」のように見返りを求めず、ゆりちゃんのYouTubeチャンネルを手伝うようになる。登録者数がなかなか上がらないながらも、前向きに頑張り、お互いよきパートナーになっていく。

そんなある日、ゆりちゃんは田母神の同僚・梅川(若葉竜也)の紹介で、人気YouTuberチョレイ(吉村界人)・カビゴン(淡梨)と知り合い、彼らとの"体当たり系"コラボ動画により、突然バズってしまう。イケメンデザイナー・村上アレン(柳俊太郎)とも知り合い、瞬く間に人気YouTuberの仲間入りを果たしたゆりちゃん。一方の田母神は一生懸命手伝ってくれるが、動画の作りがダサい。いい人だけど、センスがない…。

恋が始まる予感が一転、物語は"豹変する"――!

【感想】

今年観た邦画の中で一番好きな作品でした。『ヒメアノ~ル』(2016)や『愛しのアイリーン』(2018)のように、登場人物が感情むき出しで、胸糞悪さ全開で、綺麗事だけじゃない世界が観られる吉田恵輔ワールド全開!この映画、個人的には面白いと感じるところが3つありました。

<ムロツヨシの怪演>

一番印象的だったのは、やっぱり主人公の田母神を演じたムロツヨシの演技です。最初はすごくいい人だったんですよ。再生回数が上がらないYouTuberのゆりちゃんに、下心を表に出さず、無償の善意を捧げて、二人三脚で動画制作をがんばっていて。

それが、彼女がバズったところから一転するんですよね。パワーバランスが逆転し、田母神が一気にお荷物状態。あれだけ尽くしたのに、それに対する誠意や感謝の念がないと感じ、ついに不満が爆発。これまでいい人やコミカルな人を演じてきたムロツヨシが、ガチギレして襲い掛かる姿がものすごく衝撃的で。「あ、この人こんなに怒るんだ」って、こんなムロツヨシ見たことないってぐらいに怒りを前面に出しているのがすごくよかったです。

<一番の胸糞キャラだった若葉竜也>

もうひとつは、若葉竜也が演じた梅川ってやつです。彼は田母神の同僚なんですけど、実はこの映画の中で一番の胸糞野郎です。なぜなら、悪口の伝達しかしないから。田母神には、「ゆりちゃん、こんなこと言ってましたぜ?」と。ゆりちゃんには、「田母神、こんなこと言ってましたぜ?」と。自分に中身がなく、誰にでもいい顔しようとする上に、悪意がないという最もタチの悪いクズでしたね。現実世界にもこういう人いますよね。人を貶めることで自分を安全圏に置きたいのか、とにかく人の悪口を言うやつ。田母神よりもゆりちゃんよりも、梅川が一番イラっとするキャラクターでしたね。

<善意について考えさせられる>

最後に、「善意」って曖昧かつ儚いものだなってことに気づかされるところですね。田母神も好きでゆりちゃんを手伝ってただけだから、YouTubeからの収入の分配もいらないと最初は断っていたんですよ。それなのに、彼女がバズり出した途端、急に人が変わったように彼女に見返りを求め出します。自分が好きでやっていたことだから、本来はそこまで言う権利はないはずなんですけどね。

もちろん、ちゃんと前提となる話はあります。田母神って人がよすぎるから、知り合いの借金の肩代わりもしてるんですよ。だから先立つものが必要で。そこで、すでに人気YouTuberになってたゆりちゃんを頼るものの断られてしまいます。そこからもう田母神のゆりちゃんに対する不満がどんどん溜まっていくんですが、この一番の原因って嫉妬心じゃないかな思うんですよね。ゆりちゃんがバズったのって、人気YouTuberとのコラボおよび村上アレンのセンスのおかげで、彼女が自分の力で勝ち取ったものではありません。なのに、ゆりちゃんからしたら田母神では自分をそこまで引き上げられないとして、距離を置きたいようなそぶりを見せるんです。田母神からしたら「え?」って感じですよ。これまでずっと尽くしてきたのに、田母神をのけ者にして、人気YouTberとかイケメンデザイナー側についちゃって。おそらく、田母神はゆりちゃんに好意を持っていたし、心の拠り所みたいな面も感じていたんだと思います。それが後から出てきた訳の分からない若造に盗られたような感覚になり、嫉妬のようなものを感じたんでしょうね。それがきっかけで、どんどん不満が溜まっていき、ゆりちゃんを敵視することになっていきます。まあ、実際田母神のセンスではゆりちゃんのチャンネル登録者数は増えませんでしたし、最初から善意でやっていたわけですから、ゆりちゃんがどうしようが本来は何も言える立場ではありません。けれど、そこはもう理屈ではなく感情の世界です。

それらを踏まえて、善意って難しいなって思いました。お互いに安定した関係のときには何も言わないのに、そのバランスが崩れた途端あーだこーだ見返りを求め出すって、現実世界でもたくさんありそうですよね。最初から善意でやっているなら、最後までそれを貫き通したいところですが、まあ人間なんで難しいんでしょう。そういう場合、疑似善意って言うんですかね?(笑)

<YouTuberに対するリスペクト>

上記に挙げた3つの面白かった点からは逸れるんですが、YouTuberに対するリスペクトも感じられた点はよかったと思いました。「くだらない動画垂れ流しやがって!」と罵る田母神に、「再生回数伸ばすために、毎日頭抱えながら、全力でバカやってんだよ!」というゆりちゃんの言葉には、YouTuberの知られざる苦労を感じました。子供が将来の夢に掲げるほどの人気職業になっていますが、決して楽しいことばかりではないということを代弁したのは、きちんと現実を伝えるという意味でも好感持てます。

また、終盤のサイン会でファンの子が言っていた「残るものって、そんなに偉いんですか?」というセリフはグッときます。ゆりちゃんは映画のように後世に残る映像にこそ価値があると多分思っていたんでしょうね。だから、ファンから「ゆりちゃんみたいになりたい」と言われたときにも、「残るもんじゃないしね」とやや自分を卑下したようなところがありました。けれど、ファンの子から「でも、あなたの動画から元気をもらっています」と言われて、YouTubeには別の価値があるってことに気づかされるんですよ。これを映画という媒体の中で発するっていうのもすごいなって思いましたけど、今の世の中、どんどん新しい価値が生まれているということにも言及しているようで、とても印象に残るシーンでしたね。

<そんなわけで>

人間の感情が表に出まくってて見ごたえ抜群なので、全力で推したい映画です。胸糞悪い部分もありますが、そこもまた人間らしくていいんです!とにかく、ムロツヨシの怪演は一見の価値アリですよ!


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