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【ネタバレあり】これは夢か現実か。狂気に満ちた迷宮に入り込んだような3時間だった『ボーはおそれている』

【個人的な満足度】

2024年日本公開映画で面白かった順位:10/16
  ストーリー:★★★★☆
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★★☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

   原題:Beau Is Afraid
  製作年:2023年
  製作国:アメリカ
   配給:ハピネットファントム・スタジオ
 上映時間:179分
 ジャンル:ホラー、スリラー、ミステリー、
元ネタなど:なし

【あらすじ】

※公式サイトより引用。
日常のささいなことでも不安になる怖がりの男ボー(ホアキン・フェニックス)はある日、さっきまで電話で話していた母(パティ・ルポーン)が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこはもう"いつもの日常"ではなかった。

これは現実か?
それとも妄想、悪夢なのか?

次々に奇妙で予想外の出来事が起こる里帰りの道のりは、いつしかボーと世界を徹底的にのみこむ壮大な物語へと変貌していく。

【感想】

あの『ミッドサマー』(2020)で世界中を熱狂に包んだアリ・アスター監督の最新作。とにかく、訳もわからないまま3時間が過ぎてしまいましたが、以下、ネタバレ全開なのでまだ観ていない人はここでページをそっ閉じしてください。映画は何の情報も入れずに観るのがいいと思います(笑)




















<夢や幻かと思いたいほど狂気に満ちた世界>

まず、この映画はとにかく設定がわからなさすぎます(笑)ボーが住んでいるのはゴッサム・シティもびっくりの治安の乱れた危険地帯。外では暴行が日常茶飯事ですし、素っ裸で出歩く人もいます。かといって、ボーの住んでいるアパートの中も安全かと言われるとそんなことはないんですよね。彼が音を出していないにも関わらず、「音量を下げろ」とクレームを入れてくる隣人がいるもんだから、観ているこっちがストレス溜まるような劣悪な環境ですよ。なんでこんなところに住んでいるのか甚だ疑問です(笑)

そんなボーが、突然亡くなった母親の葬儀に出ようと思い立ったところから彼の運命が大きく変わります。街で車にはねられ、その加害者宅で看病され、その家の娘に邪険に扱われ、逃げるようにして家を飛び出して、森の中で行われる演劇に魅せられ、最終的に実家に着くも、そこで驚愕の事実を知ることになるんですから。あまりにも目まぐるしく場面が変わっていく上に、ひとつひとつが肉体的・精神的に非常にバイオレンスなので、もはやこれは現実ではなく夢か幻の類ではないかと思って、ひたすらその糸口を見つけようと躍起になったほどです。

<すべて仕組まれたことだった>

夢か現実かわからないようなアクシデントの連続ですが、結論から言ってしまうと、ここで起こっていることのほとんどは現実でした。最後にボーが実家に着いたところですべてが明らかになります。明らかになると言っても、イチから丁寧に事の経緯が説明されるわけではありません。彼の死んだはずの母親のセリフから、どういうことがあったのかを推測する形になります

劇中でボーが体験したことは、実はすべて母親が仕組んだことだったんですよ。当然、彼女の死も自作自演です。なぜそんなことをするのかと言えば、母親のボーに対する愛情が強すぎたからです。きっと、我が子を自身の支配下において従わせたかったんでしょう。でも、自分がかけた愛情の分だけボーが返してくれたかというと、少なくとも母親はそう感じなかったようです。別にボーが悪かったわけではありません。彼は彼で普通の男の子として生活していたのですが、単純に母親の愛情が大きすぎてバランスが取れなくなっていただけですね。やがて、母親の強すぎる愛は憎しみをまとうようになります。

だから、もし自分が死んだらボーはどうするかっていうのを知りたかったんですよ。それでボーの動きを最初からずっと観察していて。もうね、母親は極度のメンヘラですよ。で、自身は会社を経営していて金があるから、巨額の資金を投じて息子の愛を確かめるという振り切りっぷり。そもそも、ボーをあんなバイオレンスな街に住まわせたのも、中年になるまで童貞なのも、すべて母親のコントロールによるものじゃないかと。他の女に目がいかないように、変な知恵をつけないように。せっかく普通の男性として生きていけるはずだったのに、母親のせいでだいぶ普通とは異なる人生を歩むことになってしまいましたね。メンヘラで毒親、しかも独占欲と支配欲が強い、、、これはある意味、霊や獣の類よりも恐ろしいかもしれません。ラストの終わり方は、悲劇の『トゥルーマン・ショー』(1998)という感じで、母親の狂気のために犠牲になったボーに同情してしまいます。

<そんなわけで>

相変わらずとんでもない世界観を繰り広げる監督だなと思いました。毒親という設定はよくありますが、それをここまで大きな悲劇のアドベンチャーに仕上げてしまう手腕に脱帽です。それにしても、タイトルは「ボー」なのに、字幕は「ボウ」だったのはどうしてでしょう(笑)


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