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認知症を題材に、多くの人が持つ思い込みを逆手にとったオチは秀逸だった『百花』

【個人的な満足度】

2022年日本公開映画で面白かった順位:128/137
  ストーリー:★★★☆☆
 キャラクター:★★★☆☆
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★☆☆☆

【作品情報】

  製作年:2022年
  製作国:日本
   配給:東宝
 上映時間:104分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:小説『百花』(2019)

【あらすじ】

レコード会社に勤務する葛西泉(菅田将暉)と、ピアノ教室を営む母・百合子(原田美枝子)。2人は、過去のある「事件」をきっかけに、互いの心の溝を埋められないまま過ごしてきた。

そんな中、突然、百合子が不可解な言葉を発するようになる。
「半分の花火が見たい…」
それは、母が息子を忘れていく日々の始まりだった。

認知症と診断され、次第にピアノも弾けなくなっていく百合子。やがて、泉の妻・香織(長澤まさみ)の名前さえ分からなくなってしまう。皮肉なことに、百合子が記憶を失うたびに、泉は母との思い出を蘇らせていく。そして、母子としての時間を取り戻すかのように、泉は母を支えていこうとする。

だがある日、泉は百合子の部屋で一冊の「日記」を見つけてしまう。そこに綴られていたのは、泉が知らなかった母の「秘密」。あの「事件」の真相だった。母の記憶が消えゆくなか、泉は封印された記憶に手を伸ばす。

一方、百合子は「半分の花火が見たい…」と繰り返しつぶやくようになる。
「半分の花火」とは何か?2人が「半分の花火」を目にして、その「謎」が解けたとき、息子は母の本当の愛を知ることとなる――― 。

【感想】

原作小説は未読ですが、認知症を題材にした母子の絆を描いた感動話です。テーマとしてはオーソドックスなものの、この映画では"お決まり"を封印していたことで印象に残りやすい工夫があったと思います。

<過去作の同ジャンルの映画と比べると盛り上がりに欠ける>

記憶がなくなっていく系の映画、多いですよね。例えば、だんだん記憶がなくなっていって、最後に大切な人のことすらも忘れてしまう恐怖と悲しさを描いた『明日の記憶』(2006)。認知症患者の驚くべき視点から物語が進行していく『ファーザー』(2021)。いずれも僕が以前観て、心に強く残っている作品です。それらと比べると、本作は全体的に淡々とした進行のため、盛り上がりに欠けはするんですよ。まあ、すでにある程度の手法は出し尽くされてしまってますからね。致し方ないことかもしれません。

で、今回の映画なんですが、先に挙げた2作品のどちらの要素も含まれていました。それゆえに、どっちつかずというか、そのどちらも中途半端な扱いだったようにも感じるんですよね。確かに百合子の記憶が薄れていくことは悲しいです。でも、途中から施設に入れてしまったせいか、記憶が薄れていく過程における母と子のやり取りはあまりありませんでした。また、認知症患者から見える世界は驚きの光景です。けれど、『ファーザー』を観てしまった以上は、そこに対する新鮮味もありません。

<"お決まり"の封印>

そのような印象を受ける中で、最初に書いた"お決まり"の封印ってどういうことなんだと。これはネタバレになってしまうので詳しくは書きませんが、多くの人が持つ思い込みを逆手に取ったっていうことです。多くの人が考えることって、「認知症だったら全部忘れてしまうだろう」っていうことと、「健康だったら全部覚えているだろう」ってことなんじゃないかと。このお決まりに一石を投じたのが本作です。その思い込みがあるからこそ、最後に「なるほど、そういうことか」と感じられるんですよ。ここは素直にうまいなと思いました。

<宙ぶらりんすぎる設定>

最後の終わり方はいいんですが、この映画、認知症を題材にしている割には、そこまで強く押し出していません。なぜなら、百合子の回想シーンに一番尺が割かれているからです。百合子が自分で過去を思い出しているのか、それとも第三者的な視点での回想なのかはわかりません。彼女がいろいろ忘れていく悲しさよりも、彼女が過去どういう人生を歩んできたのか、そこにけっこう焦点が当たっているんですよね。映画を観ている方からすれば、急に過去に話が戻るのでやや唐突な気もするんですけど。しかも、そうやって過去を描いている割には、彼女の隠された秘密ってのがまったく深堀されていないんですよ。なぜ、あらすじに書いた"事件"に至ったのかが不明ですし、夫の浅葉(永瀬正敏)も結局どうなったのかがわかりません。ここが随分宙ぶらりんになっていて、かなり消化不良でした。

さらに謎だったのが、泉の会社のシーンですよ。デジタル上にキャラクターを作って、それに個性を持たせるために「記憶」をどう扱うかっていうことを言うためだけに出てきましたが、、、メインストーリーにはまったく関係なかったですね。ここはあんまりいらなかったような(笑)

<そんなわけで>

認知症を題材にした感動系の映画なので、涙が出てしまう人もいるでしょう。個人的には、ラスト5分までは従来の認知症映画と同じような展開なので、そこまで刺さりませんでした(笑)


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