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夢破れた人へ。たとえ目の前の道が閉ざされようとも新たな道は必ず拓けるという前向きになれる映画『ダンサー イン Paris』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:78/144
  ストーリー:★★★★☆
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★★☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★☆

【作品情報】

   原題:En corps(Rise)
  製作年:2022年
  製作国:フランス・ベルギー合作
   配給:アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル
 上映時間:118分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:なし

【あらすじ】

※公式サイトの文章を元に記載。
パリ・オペラ座バレエで、エトワールをめざすエリーズ(マリオン・バルボー)。だが、夢の実現を目前にしながら、「ラ・バヤデール」のステージの最中に、恋人の裏切りを目撃し、ジャンプの着地に失敗して足首を痛めてしまう。

医師から踊れなくなる可能性を告げられたエリーズは、一晩で恋も仕事も失って呆然とする。幼い頃から支えてくれた母を亡くしてからも、ひたすらバレエ一筋の日々を送ってきたが、完治しなければ新しい生き方を探すしかない。

エリーズは10代のときにバレエをやめたサブリナ(スエラ・ヤクーブ)に会い、「どう折り合いをつけた?」と質問する。「人生といっしょに夢も変えた」と答えるサブリナは、女優になるという新たな夢を目指していた。サブリナの恋人で出張料理人のロイック(ピオ・マルマイ)のアシスタントに誘われたエリーズは、今は流れに任せようと引き受けることにする。

エリーズは、サブリナやロイックと共にブリュターニュへと旅立つ。才能あふれるアーティストたちへ練習の場を提供する瀟洒なレジデンスで、料理係のアシスタントを務めることになるのだった。そこで、芸術を愛するオーナー・ジョジアーヌ(ミュリエル・ロバン)や、今を時めくホフェッシュ・シェクター(本人役)率いるダンスカンパニーと出会い、独創的なコンテンポラリーダンスが生み出される過程を目撃する。

やがて、怪我をした足を気にしながらも、誘われるまま練習に参加したエリーズは、未知なるダンスを踊る喜びと新たな自分を発見していく——。

【感想】

一生懸命がんばってきた道が、ある日突然閉ざされたら、あなたならどうしますか?そんな問いに対するひとつの答えのような映画でした。邦題からはそんなのまったく伝わってきませんが(笑)

<生活の一部がなくなるということ>

ストーリーとしてはとてもオーソドックスな内容ではあります。ケガでバレエの道がほぼ閉ざされてしまった主人公のエリーズが、その後の人生をどう歩んでいくかというものなので。結論から言えば、彼女はコンテンポラリーダンスと出会い、新しい一歩を踏み出すことになるんですが、大事なのはその過程だと思いました。

エリーズにとってバレエはもはや生活の一部であり、これなしの生活なんて考えられない状況なんですよ。劇中では、バレエを断念せざるを得ない状況についてあまり感情的になるシーンはありませんでしたが、実際に同じようなシチュエーションを経験した人なら、彼女の気持ちは痛いほどわかるでしょう。しかも、彼女はバレエだけでなく、失恋もいっしょについてくるというダブルパンチ。存在を否定されたと言っても決して過言ではなく、もしそんな状況に陥ったら、すべてに嫌気がさしてグレてしまう人がいてもおかしくはないぐらいのインパクトじゃないでしょうか。

<喪失感との向き合い方がその後の人生を大きく左右する>

そんなエリーズが新たな道を踏み出せたのは、2つの要因があると僕は思っています。ひとつは、「とりあえず流されてみるか」と柔軟な対応をとったことです。もし、彼女が変にバレエに固執していつまで経ってもウジウジしていたら、外に目を向けることもせず、新しい道なんて拓けなかったんじゃないでしょうか。エリーズはかつて自分と同じような状況に陥ったサブリナにアドバイスを求め、その結果、料理係のアシスタントをやって新しい出会いのチャンスをつかんだんですから。人のアドバイスを素直に受け入れ、とにかく行動したことが功を奏したと言えますよね。

もうひとつは、結局踊ることが好きな気持ちを失くさなかったことです。バレエをやりたかったという強い気持ちの反動で、「もうバレエなんて見たくない!踊りたくない!」と強く拒絶していたら、コンテンポラリーダンスのチームと出会っても、自分の気持ちに蓋をしてしまい、彼らと混ざることはなかったでしょう。でも、彼女はバレエはもとより、その上位概念である「踊り」が好きである気持ちは忘れていませんでした。「いつかまた踊りたい」という想いを持ち続けていたからこそ、コンテンポラリーダンスのチームと出会ったとき、素直に自分もその中に入りたいと思えたんでしょうね。ここで変にかっこつけて彼らと交わらなければ、エリーズは今でも悶々とした日々を送っていたかもしれません。

だから、本来追い求めていた夢に届かなかったとしても、流れに身を任せつつ、やりたい気持ちを失わなければ、行きたいところには行けずとも、行き着くところには行けるんだなと思いましたよ。仮に本来の夢から多少逸れていたとしても、本人が納得できればそれでいいんじゃないかと。僕自身も、やってみたかったことは叶わずとも、違う形で関われたりしてなかなか貴重な体験をしていることもあるので、そこはすごく共感できる部分でしたね。

<キャストのダンスのクオリティがハンパない>

あと、この映画で推したいのが、出てくるキャストがガチのダンサーが多いところです。エリーズを演じたマリオン・バルボーは本作が女優デビュー作ではあるんですけど、もともとオペラ座のダンサーなんですよね。だから、彼女はバレエにしろコンテンポラリーダンスにしろ、動きがものすごく綺麗でした。邦画だと、こういうスポーツやダンスなどの別の分野で実績を積んだ人が役者として活躍し、しかもその分野の経験を活かしてるっていうのが歌手以外ではほとんどないから、海外作品ならではのキャスティングかなとも思います。

また、ダンスとは関係ないんですが、ヤン(フランソワ・シヴィル)というエリーズの療法士をやっていたキャラクターも個人的には好きです。あのちょっと空回りしているところが、この作品の中で一番のお笑いポイントですから(笑)

<そんなわけで>

僕としては、感情が大きく揺さぶられるような話ではありませんでしたが、日常の中に潜む素敵な瞬間をうまく象った映画だと思いました。これは公式サイトからの引用ですが、「なんでもない日に潜む大切な瞬間、平凡さの中に隠れた輝き、普通の人々の愛おしい横顔を描き出し、観る者を温め、癒し、励まし、フランスで最も愛される監督の一人となった」セドリック・クラピッシュ監督の手腕ならではだと思いますね。夢に手が届かなかった人にこそ観てほしい映画です。


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